アンちゃん
「アン!?いったいどうしたのですか」
お守りをしまい、暫くするとベソをかいたアンちゃんとそれを宥めてくれているグミさん達が戻ってきた。慌ててラタン姉が声をかけるとセラーノさんが申し訳なさそうにそれに応対した。
「私が家の中がどんなものかと歩きながら見ていたんですがね、どうも私の体重が重過ぎたせいなのか床の一部が抜けてしまいまして。そしたら家に住む人のことを考えてない治し方をした自分は家憑き妖精失格だとこのように」
その言葉をトトさんが引き継ぐ。
「元々キルヴィさん達が住めるようにと改修したのだからライカンス向けじゃなかったんですよ?おじさん達大きいし重いから仕方がないんだよ?とは言ったのですがねー、こりゃあ痩せないとですかねセラーノさん?」
「いいですね。私もアムストルに滞在して以来、運動不足で随分と鈍りましたしね。あとで森にでも行きましょうか?」
大人組はそういって笑いをとってみせた。なんというか気を遣わせてしまいすみません。
「ほら、アンちゃん。泣いていないで修繕に移りましょう?これからキルヴィが町に行きますし、帰ってくるまでにできていたらきっとお土産買ってきてくれますよー?」
未だに鼻を鳴らしているアンちゃんに対して愛おしいものを見る目をしながらラタン姉は話しかける。そういえば長らく留守にしていたというのに僕はこの子にお礼やお土産の類を何も用意していなかった。この機会に用意しろと僕に対しても助け舟を出してくれているのだ。
「あるじ、ほんと?」
アンちゃんが目に涙を溜めたまま上目遣いでそう尋ねてくるので頷くついでに視線をそらす。不覚にもその姿に小動物的な可愛さを感じ抱きしめたいと思ってしまったのだ。いかんいかん、これではイブキさんやナギさんのことを言えないし性別の面で絵面もより悪質になってしまう。
「じゃあ、アンがんばるね?」
ニコってした仕草に様子を伺うために目をそらしていなかった大人組はもれなくやられてしまったようだった。
「私にもあんな時代があったわね。あれは、そう。いつの頃だったかしら……」
そう言い残し光を失った目をしながらドサリと崩れ落ちるグミさん。心配しなくとも今でも十分若いように見えますよ。
「汚れきった私の心が浄化されていくような感覚だ。そうか、これが、真の正義か」
半ば血走った目でアンちゃんを敬っている様子のカシスさん。確かにそれはある意味で正義なのかもしれないがその道を進んではダメだ。引き返せなくなりますよ。
「なんで私は生きているんだろうか。私がいなければこの子は悲しまなかった。この子が涙を流すことはなかっただろう。ああ、私は生きているだけで罪なのだ。なぜ死ななかったのか。悔やんでも悔やみきれぬ。いっそ死にたいがこの家の敷地内で死んではまた泣かせてしまう。そうだ森で死のうそうしよう」
本気でやめてくださいセラーノさん。ラタン姉に加えてあなたまでその病を発病してしまったら僕は非常に苦しい。ゆらりと扉から出ようとするのをグッと押しとどめる。
「ああ、子供とはいいものだ。生まれてくるのが娘であるならばニニににてとても可愛い子になるだろうな」
「いいえー?男の子でもトトさんに似て可愛い子だと思いますよー?会えるのが待ち遠しくて、楽しみですねー」
倒れゆく屍共の隣で夫妻が幸せ空間を形成し始めた。それを羨ましそうに見ているモーリーさんも視界に入り、いよいよ持ってカオスな空間となる。この騒動の引き金となった当の本人は何事かとキョトンとしていたが。
◇
「さて、それでは頼むよキルヴィ君」
必要なものを持ちツムジさんが僕の肩に手を置いた。
「任せてください。しかし今回は縮地ですが次からは転移でそれこそ一瞬でつけますから、買い物が楽になりますね」
「ああ、俺ももう歳だ。流石にここまでの往復をずっとできるほどの体力もなかったからこれはありがたい話だよ」
ここで暮らしていた時も含めて今まで本当にツムジさんの善意におんぶに抱っこ状態だったからな。まだまだ頼ってる部分はあるがこうやって手間を少しずつ減らせるようにしないと。
「では、いってきます」
そういって皆に背を向ける。さて飛ぶかといった段階で後ろから声がかかる。
「わかっていると思いますが変なことに首を突っ込まないでくださいね?」
ラタン姉からの小言で内心しまらないなぁと思いながらも僕はスフェンまで縮地で向かうのであった。




