キルヴィの策
いくらこの辺りが国境の壁がない土地だからとはいえ、下手に他国の領土を通るとは考えにくい。アムストルまでの道のりは国領を通ってくるだろう。
いくら事前に用意を進めていたとしても、5000程の人数となると指揮をとるのも一苦労の筈だ。隊列を乱す事なく行軍するのであれば、侵攻ルートはある程度まで絞る事ができる。その経路を思い浮かべつつ、どうすればいいかを考える。
この辺りの土地をMAPでよくよく確認する。あまり起伏のない土地で、相手が馬に乗っていると想定したらあっという間に駆け込まれてしまうだろう。防壁はやはり必要だろう。
ただし、普通の防壁では相手はすぐに壊しにかかるに違いない。壁を守りながら戦うとなると忙しさも増すから何をしているのかわからなくなってしまう。故に初手で壊されず、なおかつ一矢報いるものが必要だ。
騎馬隊の恐ろしさは面による衝突力にある。ならば足並みを乱れさせる事ができれば怖さは一気に失われるだろう。……いっそのこと、無理をすれば通れるくらいの隙間を作ってしまえばいいか?そうすれば、横着をしてそのままぶつけてくるかもしれない。
隙間のすぐ先に隠蔽した防壁を構えておけば、気がつかなかった者は自分の衝突力で自滅することになるだろう。壁と壁との間に勾配をつければ後続に突破される心配も減るだろうか。あとは高所から射かける弓兵を配置すれば相手に逃げる道はなくなる筈だ。
勢いを殺すために防壁の前に見えない鉄線も射出するか。グラウンさんのダンジョンをクリアして以来、あれはクロムの使用武器の1つとして活躍している。結構な量を分けてもらっているのでいくらか使っても問題ないだろう。元々トラップとしてのものだったので、こういう足止めにはもってこいだった。通過したら隠蔽した矢を発射するスクロールを作成し、その矢に鉄線を括り付けて相手の足元へと張り巡らせれば、相手は見えない恐怖に足も遅くなるだろう。
それでもいずれは突破されるだろうが問題はない。逃げるだけの時間は確保できるだろう。
しかし、そもそも逃走する際に敵の目が周囲に散っていたらこれは意味をなさなくなる。町に向いていてもらわなければ困る。となると、町に賑やかしが必要だ。そこで準備してもらいたいのが音を出すカラクリだ。人がいなくとも自動で動くものが好ましい。このカラクリに生活音を……できるのなら目先の戦争なんてこれっぽっちも感じていないような日常を演じてもらいたいと思っている。
逃げる方面はルベスト方面にしかない。町に着いたあと、相手はどこに行ったかなどすぐに見当がつくだろう。
それならば、町から出にくいように細工してしまおう。町を迷路のように入り組んだ形のものに変化させてしまい、至る所にスクロールを忍ばせ、通過したら発動するトラップゾーンにするのだ。こちらは1回通っただけで発動するのでは警戒されるだろうから2回通ったらなど色々条件を変えて配置しよう。
予定よりも相手の侵攻が早かったら?
その時は自分で打って出るしかない。その場合は敵ができるだけ一列になるように誘導をしておこう。光の定規を使えば相手が多ければ多いほど被害を拡大させることもできる筈だ。対群で打ったことはないものの、少なくとも無傷ではすまないと思いたい。
やはり気がかりになるのは自分が1人なのに対し相手は2方向から同時であることだ。罠のない防壁の内側を馬を使って早く移動するにしても、それでも結構時間がかかる。マドール将軍のようにカリスマ性の高い相手だとアムストルの兵力を万全にぶつけたとしても、正直なところ守りきれないだろうと思っている。
……クロムなら。
次点で戦力が高いのはクロムだ。MAPや遠距離魔法こそないものの、近接戦闘において手札に彼より強いものはいない。鉄線の操使術と、斬れ味の良い相棒の剣を持っていれば、よほどのことがない限り負けることはないだろう。
よし、光明が見えた。必ずこの窮地を脱してみせようじゃないか。




