思惑
その頃の情勢、ですかね
灯りもわずかな暗い部屋の中、ノーラ首長国の首長とドゥーチェ帝国の帝王、そしてその側近達による密談が行われていた。
「グリア公国の奴はどうした?」
やや苛だたしげに首長が帝王に尋ねる。帝王は肩をすくめる仕草を大袈裟にしてみせた。
「残念ながら国内で謎の病気が流行っていてそれどころではないと誘いを断られてな。此度は我らだけだ」
その言葉にざわめきが起こる。やれ無責任だのやれ裏切ったのではないかなどと様々な言葉が飛び交うが、象のライカンスである帝王が足を大きく踏み鳴らすと、部屋の中はしんと静まりかえった。それを確認すると首長が溜息をついたのちに話を始める。
「我々も忙しい身だ、本日の議題に移ろう。と言っても話すことなどルベスト人民共和国と決まっているのだがな。先の停戦に至るまで、イベリ王国との長きに渡る戦で奴らもだいぶ疲弊しているだろう」
「イベリの強襲作戦か。なかなかいい線をいっていたと思うんだが、あと一歩届かなかったな。あそこから立て直せるとは流石ルベストよ」
そう帝王がルベストを褒めると、首長は悪態で返す。
「忌々しい事この上ないわ、さっさと滅んでしまえばいいものを。人類種族は皆手を取り合える!命は平等だ!と、腹の内とは異なる綺麗事を並べる偽善者どもめ」
違いない、と帝王が笑う。
この2人……グリア公国の王を含めると3人は協力関係だ。しかしその実他国を、ノーラならエルフ以外をドゥーチェならライカンス以外をといった具合に程度の差こそあれ他の種族を見下していた。それ故に、どの種族も平等だと言ってのけるルベストが気に入らなく、密かに結託をして包囲網の形を作り上げていた。
そんな仲である為、他国の王とその側近がこの場にいるという現状から血の気の多い者はこの話がご破算になったとしても目の前のものを切れればそれはそれで良いのではないかと獲物に手が伸びかけている。
「静まれ。ひょっとしてお主らはバカなのか?我らが争うこととなるとしても、それはルベストがこの世から消えた後のことよ。無駄なことをするな、目の前のものは今は味方ぞ」
それを見咎め帝王がまたも足を踏み鳴らす。ズシンと大きく部屋が揺れた。
「その通り。諸君、共同戦だ!欲しいものは力で勝ち取れ!我が物顔でいつまでも真ん中に居座っているルベストを叩き落とすのだ!」
首長の言葉で場内に熱気が高まる。早速どの辺りからどんな編成で攻めるかを決めたいと側近達による議論が始まる。その話に王2人は地図を広げ、そしてある地点を見つめて話を始める。
「帝王よ、我らはとっかかりとしてかねてより目障りだったどっちつかずのコウモリを落とそうと思うのだが」
「奇遇だな、我もだ。そうだ、どちらが先に抑えることができるか競わぬか?勝った方がその後のルベストの分割を有利に進められるというのはどうか」
「ほう、なかなか面白そうではないか。その話、のったぞ帝王よ」
そう言って両者は握手を交わした。その後、共同戦に関しての細かい規定を詰めていく。そして侵攻開始の時期が決まったところで両者は自国へと帰っていったのであった。
2人が示した地点はアムストルの町。侵攻は兵の整う2週間後。それは奇しくも、キルヴィ達が到着するであろう頃である。
こうしてノーラとドゥーチェの両国からアムストルへと兵が向けられたのであった。




