最終話 国付き魔女の薬屋
それから数ヶ月後。
ロイドとともに王都に来ていたメロリーは、まもなく着く目的地に心踊らせていた。
(本当に楽しみ! 皆さん、どんな反応なんだろう)
無意識に足早になるメロリーの姿を横目に、ロイドは嬉しそうに目尻を下げる。繋いでいない方の手がるんるんと動いているのが、たまらなく可愛かった。
「メロリー、そんなに早く着きたいのなら、私が君を抱き上げて走ろうか? そうすればお互いに嬉しいこと尽くしだと思うのだが……」
「お互いではなく、早く到着できる私が嬉しいだけでは?」
ロイドは何を言っているんだ? と言わんばかりに素早く目を瞬かせた。
「合法的にメロリーとくっつける。周りにメロリーは私のものだと見せつけることができる。メロリーのいい香りを嗅ぐことができる。むしろ私の方が嬉しい点は多い」
「ううっ、匂いを嗅ぐのは、本当にやめてください……! あと、婚約者なんだから、別にどれも問題ありません……」
恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしながら、メロリーはロイドとは反対側にある通りに並んだ店に目を向ける。完全に照れ隠しだ。
可愛いなぁ、とロイドが目をギンッと見開くと、近くを歩いている青年たちの話に意識が傾いた。
「なぁ、そういえば魔女様の両親と妹が、牢獄行きになったんだって?」
「そうらしいな。これまで魔女様のことを虐げてきた上、監禁までしようとしたんだろ? しかも妹の散財を補うために領民から過剰に税を徴収してたらしいぜ? 捕まって当然だろ」
ロイドはちらりとメロリーを見やる。
硝子越しに見えるワンピースを見ながら、「これルルーシュに似合いそうね」なんて呟いているところから察するに、どうやら聞こえていないらしい。
「しかもあれだろ? 魔女様の妹が牢屋に入ってから老婆みたいに老けたって」
「え? 俺は牢屋に入る前から老けてたって聞いたけど。少し前までは普通に若い見た目だったらしいんだけどさ」
「そうなのか? ま、どっちにしろ、これまでの報いだよなぁ」
「ほんとにな」
その会話を最後に、青年たちは人混みに紛れていった。
「ロイド様……? どうかしましたか?」
互いの好意を理解してからというもの、ロイドは以前に増して甘い言葉を吐いていた。
そんなロイドが無言でいるのは珍しい。そう感じたメロリーが問いかければ、ロイドは爽やかな笑みを浮かべた。
「いや、なんでもない。……あ、見えてきたよ、メロリー」
「えっ」
ロイドが指を差す先にある、真新しい建物。
白を基調とした清潔感のある色合いのそれは、王都に構える様々な店の中では人目につくような派手さはない。大きさもほどほど。
だが、その店の前は多くの人が列をなしている。
「本当に、夢みたいです。私の調合した薬が並ぶ薬屋さんができて、こんなに沢山の人が利用してくださるなんて……!」
「嬉しそうなメロリーが可愛い……。が、メロリーの凄さを知っている私からすると、遅すぎると思っているくらいだ」
あの事件からすぐ、メロリーが国付きの魔女に認定されたことは、国中に知れ渡った。
国王主導のもと、新聞の一面にメロリーの記事が載ったのだ。彼女がこれまで作った薬の効果、人柄の良さ、薬を飲んだ人たちの体験談などが載ったその記事は、人々に衝撃を与えた。
しかし、以前から貴族の一部が、メロリーの作る薬やメロリー本人に対しての好意的な感想を話していたこと、その声が平民たちにもちらほらと伝わっていたこと、そして国王がメロリーの作る薬に太鼓判を押したことから、人々は魔女であるメロリーに対してのイメージを一転させた。
更に、記事を読んだ多くの人々から、メロリーの薬が欲しい、平民にも購入できるようにしてほしいという声が上がった。
その声は、自分が作る薬で多くの人の役に立ちたいというメロリーの考えと一致しており、国と何度も何度も、様々な検討を重ねて今日に至る。
『国付き魔女の薬屋』
それが店の名前だ。
貴族も平民も分け隔てなく購入することができる。
格安であることに加え、国から派遣された優秀な人員が薬の効果や副作用を購入者に丁寧に説明してくれるところが、大人気たる所以である。
因みに、これらは全てメロリーが国に求めたことだ。安全に、そして多くの人に薬が届いてほしいという、強い思いからだった。
「メロリー、店から出てくる皆の顔を見てごらん」
ロイドにそう言われ、メロリーは店から出てきたばかりの若い女性の顔を見る。
「お父さん、これを飲んだら肩こりが楽になるかな」
そう言いながら、購入した薬を手に、満面の笑みを浮かべている女性の姿に、メロリーは胸がじんわりと温かくなる。
他にも、購入後すぐに薬を飲んで、足のむくみが無くなったと喜ぶ人や、視力が回復したと感動する人、足がとっても速くなったと興奮を抑えられない人などがいた。
若干毛深くなったり、鼻が痒くなったり、語尾にぴよが付くなどの、副作用も受け入れてくれているようだ。
「ロイド様、私、調合を続けてきて良かったです」
「ああ」
「それに、魔女で……良かったです」
「ああ、そうだな」
「……あと、ロイド様と出会えて、良かったです」
薬屋から隣に立つロイドに視線を移せば、彼は一瞬泣きそうな顔をしてから、目元をくしゃりとさせて笑った。
「私もだよ、メロリー」
メロリーの作る薬は、人々の生活を豊かにし、笑顔にした。
それは近隣諸国にも伝わり、「よく効く薬らしいけれど、副作用で変な語尾になるんだろう?」なんて噂も広まったとか、いないとか。
〜完〜
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました(*^^*)
このお話はここで完結となります!
毎日読みに来てくださっている皆様のおかげで、ここまで書き切ることができました。本当に感謝で胸がいっぱいです!
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