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棒倒し。そういうのもあるんですね。

「ほら、クロ。これも食べてみる?」


収穫祭にはたくさんの屋台があって、なかなかにバラエティー豊かな食が並んでいた。

僕もそんなに詳しい方ではないけれど、王都では見たことのない、この土地ならではのご当地グルメもたくさんある。

僕はどの中から、小麦粉を丸く焼いて中に肉をいれたものをひとさら買って、クロに示した。


「わふ、わふぅん?」


クロはそれをすんすんと鼻先でつつくようにして、ぱくり、とくわえる。


「わち、わ、わふぅぅ」


それをぐにゅ、と噛みぬくや、クロは目を白黒させた。


「ごめんごめん。熱かったね。冷ましてあげようか・・・・・・」

「わふっ」


僕がふうふうして冷ましてあげようとするのにかまわず、クロは飛びついて船ごと小麦粉を丸く焼いて中に肉をいれたものをさらっていく。


「あふっ、わふっ、あふっ、わふっ」


それから器用にひとつづつくわえあげ、熱がりながらもはむはむとかたづけていった。

よかった。気に入ってくれたみたい。


「アイオンさん、これ、食べました? 結構いけるって思うんですけど」


メイが鉄板で焼き上げた太麺を持ってやってきた。


「ありがと。食べてみるよ」


そういって受け取ろうとしても、彼女はそれを渡してくれなかった。


「だめですよ、アイオンさん。私が食べさせてあげるんですから。はい、あーん」

「え、恥ずかしいよそんなの」

「いいじゃないですか、せっかくのお祭りなんだし。はーい、あーーん」


つられてひらいた口の中に、焼きそばがつめこまれる。


「むぐむぐ。うん。美味しい」


「よかったー。あ、次はこれ!!」


「なにこれ? うわっ辛い」


「あはは、そこがいいんですってば」


ぴりぴりする辛さに悶絶する僕に、横からなにかが差し出された。


「はい、これをどうぞ」


ミリエルだ。

目深にかぶったフードで特徴的な耳を隠し、お祭りに溶け込んでいる。

まあ、もし耳が誰かに見られても、お祭りの余興とごまかせそうではあるのだが。


「ありがと。あー、助かった」


レモン汁で味付けされた炭酸水だ。

メイに詰め込まれたなにか辛いものが、それですっきり流されていく。


「これも、よかったらどうぞ」


なにかの果実が飴で包まれて木の棒に刺さっている。


「ほんとだ。甘くて美味しい」

「うふふ、なめちゃいましたね。おもしろいんですよ、これ」


そういうと、ミリエルはぺろりと舌をだしてみせる。

それは、見事に赤く染まっていた。


「アイオンさんも、おそろいですね」


そういって、彼女は笑った。

うん、みんな楽しんでいるみたいで、なによりだ。


と、


「おい、あんたか? アイオンってやつは」


何人かの若い男たちが、僕に声をかけてくる。

肯定。頷いてみせると、彼らはざわざわと顔を見合わせた。


「ほんとに? いやしかし、アイオンってのは王都から来たってきいてるぞ」

「それがこんなに、さえない? いや、まさかな」

「本人がそうっていってるんだからそうなんだろう。おい、いってやれよ」


なにやら失礼なことをいいながら、男たちは僕に用事があるみたいだ。


「ふん、またアイオンさんの魅力がわからないなまくらが来たみたいね」


メイが僕の後ろでいっている言葉は聞き取れなかったけれど、ミリエルが横でうんうんと頷いているのはわかった。


「なあ、あんた、アイオンさん。コンテストのレシピを考えたのは、あんたなんだって?」

「え、それは違うよ」


僕はちょっと、改良のお手伝いをしただけだ。


「そうなのか? しかしプエラポルタンのやつらはそう触れ回っていたがな」


彼らはそういうと、自分たちはギドー村の者だと名乗った。

たしか、去年までコンテストで連覇をしていたプエラポルタンの隣村だったっけ。


「料理コンテストに勝ったくらいで、調子にのっちゃいけねえよ。そりゃあ、王都の最新トレンドを知っていりゃ、あのくらいやれるんだろうがさ」


そんなもの、僕が教えてほしいくらいだよ。とはいわずに黙っておく。


「そうだぜ。祭りの本番はこれからだ。次の『棒倒し』こそ、祭りの華って忘れちゃいけねえ」

「王都のもやし野郎にゃ過ぎた競技ってもんかもしれねえがね」

「料理コンテストではちょっと後れをとったが、『棒倒し』ではそうはいかねえ。直接カタをつけてやるからそう思うんだな」

「ま、王都育ちのエリートさんだ。尻尾巻いて逃げ出しちまっても、誰も不思議には思わないだろうがなあ」


めいめいが好き勝手なことをいってくる。

でも、そもそも僕にはなんのことなのかよくわからない。

なんとなく、バカにされているような気はするけれど。

王都でもたまにいたよね、こういうひと。

僕にはあずかりしらない理由で、勝手に怒って噴き上がっているみたいだ。


「待ちなさい。あなたたちアイオンさんに対して、失礼じゃない」


僕の代わりに、メイがそう返した。


「そりゃあ、アイオンさんに完膚なきまでにこてんぱんにやられて、悔しいのはわかるけど」


「なんだと?」


ちょっと、メイさん? と止める間もなく、彼女は続けた。


「だからって、他の分野なら勝てるって? そんなの甘過ぎよ。アイオンさんはどの分野だって、十全にやってのけちゃうんだから!!」

「いったな。よおし、『棒倒し』できっちり決着をつけようじゃないか。逃げるなよ!!」

「逃げるわけないでしょう。アイオンさんと、この私が相手になってあげるわ」


メイは胸をはって、そうギドー村の男たちに告げるのだった。

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