布告(シン編・レイド編)
シン達人間連合が会議をしてから一ヶ月後、人類だけではなく世界に向けてレイドから宣戦布告があった。
『宣戦布告だ。このくそみたいな世界の腐った連鎖を断ち切ってやる。理不尽な運命に縛られた者たち、苦しみに耐え続けた者たち、もう安心しろ、世界ごとその理不尽や苦しみ全て壊してやる。そしてその理不尽や苦痛を与え続けたゴミども覚悟しろ、貴様らの全てを一つも残らず壊してやる。俺は人類の敵でも魔族の敵でも全ての種族の敵では無い! この世界の敵だ! 世界を壊すために、変えるために俺達が革命を起こす! もう一度宣言する、これは世界に対する宣戦布告だ! 俺たち【神妙の皇】は世界の敵だ!』
アニムスの作り出した【拡大音声】という魔道具によってこの世界のすべてに宣戦布告は行きわたった。
この宣戦布告でレイドの存在を知った貴族たちは冗談だとあしらいながらも、少しばかりの不安を感じていた。
「あ、あれが噂に聞いていたレイドか……わ、わ、私達は殺されるんだぁぁぁ!」
レイドの情報を既に手に入れていたより位の高い貴族たちはパニックになる者、自分の身だけは守ろうと高い戦闘能力を持つ者を雇い自分の身だけは守ろうとする者が現れた。
また、その貴族たちによって搾取されてきた奴隷や、理不尽な運命を握らされた者たちは宣戦布告を聞き少しばかりの希望という名の光を掴もうと動いていた。
「クソッ! やられた!」
クルスが自分の机を力強く叩きながらそう叫んだ。
その様子に少し驚くチャーラと落ち着きながら紅茶を飲むシンがいた。
「奴隷たちや貴族が勝手な行動をし始めたせいで他の三カ国が準備に手間取っているという連絡がきた……このタイミングで宣戦布告したのは俺達に準備させないためか……」
「風の国には影響があまりないようだが、他の国はそれほどの影響があるのか?」
「この国は成り立ちが特殊だからな、貴族と言っても他の国と違って貴族らしくない、それに風の国では奴隷制度を禁止している。見つけた場合は極刑を言い渡すとまでしているしな。それに風の国の民は昔から知っている顔ばかりだ。奴隷なんてのは性に合わないだろう」
「……とはいえ不味いんじゃないの? いちばん奴隷に頼っているアイロンなんかはまともに動けないだろうし」
「いや、アイロンはむしろ大丈夫だろう、アイロンの奴隷にはあの国独自の魔道具がつけられている。胸糞悪い話だがあの魔道具がある限り奴隷たちは従うしかあるまい」
「シンの言う通りだ、奴隷の影響を大きく受けそうな国はアイロンの魔道具を交易しているからな、奴隷の影響はほとんどない。一番の問題はジュエリニアの貴族だ。あいつ等は自分の保身が大切だからな、ちょうど仲間に参戦してくれたベールが家族でいざこざ起きているらしい」
「あの家族に至っては平和そうだったが」
「ベールの家は五人兄妹だ、その長男が有名貴族やら親やら皆殺しにして国外に逃亡したらしい、その影響もあってかレストリア家は他の貴族から敵視されていてな、レイドのせいにしてレストリア家を潰そうとしている貴族から守るためにも準備が必要、次男や三男がジュエリニアのほぼ最高戦力であるのに動けないから戦争の準備も手間取っているらしい」
レストリア家か……アルカの身に何か起きていないか少し心配だな……
「シン、そう不安そうにするな。俺達ほどではないにしろベールの戦闘能力は相当なものだ、普通の奴には触れることすらできやしない。お嬢さんの身は安心安全だ」
「……っ!」
ニヤニヤと馬鹿にするような冗談混じりの声でクルスがからかう。
その言葉でシンは少し顔を赤らめながら顔をそむけた。
◆
金属の神玉使いガーベが城壁の中に隠された階段を下っていく。
王城のちょうど真下の地下には大きな牢獄が存在していた。
「ガーベさん……」
「ガーベ兄ちゃん……」
サイドにいくつもの牢屋がある一本道を進んでいくと、厳重に警備された牢屋があった。
そこには小さな子供や弱った老人が手と足に鎖でつながれていた。
そして鎖だけではなく首には黒い禍々しい魔道具がつけられていた。
「何の用だ、ガーベ」
「予定されている面会日はもう少しの先のはずだが」
「家族に会うのに理由が必要か……?」
牢屋の横で待機していた二人の大男が剣を向けながら威圧的にそう言った。
その威圧が霞んでしまうほどの空気を出しながらガーベが反論をした。
「そんな反抗的な態度を取っていいのか? ガーベよ」
そう言いながらさらに奥で待機していた悪そうな男が牢屋にいる子供に剣を向けながらそう言った。
「剣を下げろ……」
「いつから俺たちに指図できるようになったんだ? そろそろ見せしめしとくか?」
「剣を下げろ……」
「だから一体てめぇは何時からこの俺様に指図できるようになったって言ってんだよ!」
悪そうな男が起こった様子で剣を振りかぶる。
「剣を下げろと言ったんだ……!」
ガーベが叫んだ瞬間こめかみの模様が光り出す。
それと同時に男たちが持っていた剣と、目の前の牢屋以外の牢屋の鉄格子がドロドロに溶けた。
「「「なっ……!」」」
「この牢屋からこいつらを出すのは簡単だ。俺が従っている理由はここじゃない事を、俺はお前らをいつでも殺せる事を、しっかりと思いだすんだな」
そう言いながらガーベは振り向いて地上へと戻って行った。
俺の家族は俺が守る……この戦争に勝てばシンやクルスの力を借りる事が出来るかもしれない。
あの二人ならばきっと俺の家族を助けてくれるはずだ……そのためにも俺はこの戦争に生きて勝たなければならない
レイド……貴様にも信念があるのは宣戦布告の言葉からあふれる雰囲気からも分かる、だが俺にも負けるわけにはいかない理由がある。
そんな事を考えながらガーベが地上に出ると一人の男がガーベを待っていた。
その顔を見た事があるガーベは警戒しながらも声をかけた。
「こんな忙しい時に何の用だ? セラ・レストリア、いやいまは破門にされ国外逃亡中の身だったな、セラ」
「あの時は感謝をしている、お前のおかげで俺はあの腐った奴らを皆殺しにできた……残った物は何もないがな……」
「お前からはもうすでに生気が感じられない、生きていたとしても死人の様な抜け殻にも感じられる。アードを追ってもうとっくに自殺したかと思っていたが」
「少し旅をしていた、俺の死に場所を探してな。アードを守れなかった俺には無様な死に方がお似合いだ……ずっと、ずっと、長い間目指していたのさ……あるはずもない幻想大陸を……」
「結局見つけられずに戻ってきたってとこか? 残念だが俺は今お前にかまっている暇は無い、すまないが当分後にしてくれ」
「……お前の言う通り幻想大陸は見つからなかった、ただし抜け殻の俺を埋めてくれる他のものが見つかった」
正規の感じられなかったセラの眼に段々と光が戻っていく。
その様子を何故か冷や汗を少したらしながらガーベは見ていた。
「ここに来た理由だっけか? 親友のお前を誘いに来たのさ、ガーベ」
「セラ、お前は一体旅で何を見た……!」
「ガーベ、お前の今の状況も俺達は知っている。こんな理不尽な世界に耐えるのはもう勘弁だろ? あの人ならお前の望みを叶えてくれるぞ」
「セラ! お前の……! お前の大切な剣はどこにやった!」
「剣は置いてきたよ、セラの旅は少し前に幕を閉じた……あれはセラの大切な剣だ、今の俺が持っていいものじゃない」
「な、何を言っているんだ……セラ……」
「ガーベ、大切な物以外全て、経歴も名前も友人も今のお前の全てを捨てて俺達の仲間になれ! 神妙の皇に入れ!」
セラ(?)の言葉の瞬間、腰にある剣を抜いてガーベに襲いかかる。
持ち手しか存在しない剣を抜いてセラ(?)も戦闘態勢に入る。
「目を覚ましてやるぞ! セラ!」
「セラという名前は既に捨てた! 俺の名前はペルセウスだ!」
持ち手しか無い剣に魔力が集まり始める。
その様子を見たガーベは直感で見の危機を感じ取り距離を取った。
「……こんなところで力を使うわけにはいかない、お前の勧誘は諦める事にしよう。しかし俺の存在がばれたらいろいろ厄介だからな、少しここで足止めしてもらう」
そう言いながら持ち手しか無い剣を勢い良く振った。
刹那、ガーベの後ろにあった城壁が二つに分かれ、音を立てて崩れ始めた。
「貴様ッ……!」
「ガーベ、覚えておけ……そちら側にいる限りお前の家族もお前も救われることは一生ない……」
「何処に行く、セラ! セラァ!」
ペルセウスが懐から転移と書かれた巻物を取り出すと同時にその場からいなくなった。
ガーベはペルセウスの行方を探そうとしたが崩れ始めている城壁を見て、拳を強く握りながらも救出を開始した。
ここに訪れたことはほとんどの者に知らされている……
そして城壁が壊れたと知れば俺に容疑が掛かり、その弁明やらなんやらの手続きで俺はシンやクルスの元に行けない。
手紙や魔道具で伝えようにも共謀者の可能性を疑われ使わせてくれないだろう……
どちらにせよ俺はこれから戦争の指示があった時にのみ外に出ることになるだろう……
神玉同士の戦争に、いかにセラが強いとはいえ大した干渉はできないだろう、心配することは無い、無いはずだが……
あの持ち手しか無い剣……あれを抜いたセラからは嫌な雰囲気が溢れ出ていた。
俺はセラと戦うしかないのか……
◆
ペルセウスがレイド達の隠れ家の中にいきなり現れる。
しかし、レイド達はその様子に驚く事無く対応する。
「ペルセウス、お別れは済んだ?」
「はい、アニムスさんが作ってくれた転移の魔道具のおかげで挨拶に行く事が出来ました、ありがとうございます」
奥の部屋から出てきたアニムスがペルセウスに声をかける。
ペルセウスはアニムスに感謝の意を示すように深々と頭を下げた。
「気にしないで、元々相手の神玉使いの邪魔をするために誰かが出向く予定だったから」
「とはいえ、自分の存在がばれる可能性があったのにもかかわらず自分の我儘を押し通してもらったので……」
少し申し訳なさそうな表情をしながら頭を下げるペルセウスにアニムスも少し困っていた。
「ペルセウス、お前は俺らのなんだ?」
「レ、レイド様! 自分がレイド様達の……?」
アニムスが出てきた部屋と同じ部屋から現れたレイドに驚き、頭をとっさに上げた。
そしてレイドの質問に対して真剣に頭を悩ませていた。
「お前は俺達の仲間だ、仲間の我儘をリスクがあるからって聞いてやれないような奴らをお前は仲間と呼ぶのか?」
「……」
レイドの言葉にペルセウスは昔の事を思い出しながら黙ってしまった。
その様子を見たレイドはため息をつきながらペルセウスに近づいた。
「過去を忘れろとは言わない、むしろ忘れてはいけない……だが、過去に囚われ続けるな」
「あ、頭ではわかっているつもりなのですが、どうしても……」
「いきなりそうなれと言われても誰もできない、少しづつ今の為に歩め、自分でどうしてもできないなら……俺達が理由になってやる」
「……!? は、はい!」
レイドの言葉で何かに気がついたペルセウスは困り顔から少し吹っ切れたかのように返事をした。
その様子を見ていた他の仲間たちも多種多様な表情を浮かべながらも満足そうにしていた。
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