準備(閑話)
金色の剣を持った半透明のレイドがヴリドラの前に立っている。
ヴリドラの全身には切り傷があり、少し出血していた。
「偽物とはいえ流石は主だ、この俺が苦戦するとはな……」
「………」
偽物のレイドは無言のままヴリドラに襲いかかる。
向かってきた偽物のレイドにヴリドラは振りかぶった一撃を打ち込む。
「上級拳技【重拳】」
「……上級剣技【流々】」
ヴリドラの重い一撃を偽物のレイドは剣を使い、軽く受け流す。
その流れのまま隙だらけのヴリドラの腹部を金色の剣で切った。
「………」
しかし、ヴリドラの肌には小さい切り傷しかなかった。
固い皮膚で覆われたヴリドラには偽物のレイドではダメージが与えられていなかった。
(敵の攻撃も俺には大して効かないが、俺の攻撃も一週間の間、一回も当たっていない、多彩な剣技の種類を何とかしなくてはな……)
ヴリドラはそんな事を考えながらも偽物のレイドに拳を放つ。
その拳も前と同じく偽物のレイドによって軽く流されてしまう。
「【龍の咆哮】」
攻撃を流された瞬間に、口を大きく開けたブレスを放つ。
至近距離で放たれたブレスは偽物のレイドをたやすく包み込んだ。
「上級剣技【回転切り】」
素早く体を捻り、回転しながら剣を振る。
その剣技によってブレスは四方八方に散っていった。
「想定済みだ、【龍の爪】」
「上級剣技【流々】」
左手だけ人化を解いて、大きな爪で偽物のレイドを攻撃する。
偽物のレイドは全身を使い、攻撃の軌道を少しだけ変えてかわした。
「上級拳技【列脚】」
偽物のレイドが足を上げてヴリドラに二発の蹴りを放つ。
その蹴りをヴリドラは避けることなく、片手で受け止める。
「……なるほど、やっと主が出した課題が分かった」
ヴリドラが何かを思いついたかのようににやける。
そして偽物のレイドに拳を打ち込む。
「初級剣技【流し】」
技ですらない普通の一撃を偽物のレイドは簡単に受け流す。
その瞬間、流される勢いに逆らうことなく体勢を崩す。
「上級剣技【断斬】」
「上級拳技【重脚】」
体勢を崩した瞬間に偽物のレイドがヴリドラを攻撃する。
その攻撃が触れる瞬間に、空中で体を回転させて、偽物のレイドに蹴りを打ち込んだ。
「……!?」
攻撃の最中に攻撃された為、受け流す事が出来ずに吹き飛ばされた。
重い一撃が直撃した偽物のレイドは足を少し震わせながら立ちあがった。
「俺の戦い方はあの悪魔大佐と一緒だ、ステータスで勝っている相手にしか勝てない、全部流すような技を磨いた敵には触れることすらできない、戦争には搦め手を使ってくる敵などいくらでもいる」
「……」
ヴリドラが独り言にしては大きく話していると、偽物のレイドが襲いかかる。
襲いかかってきた偽物のレイドに対して、ヴリドラが振りかぶった重い一撃を放つ。
「上級拳技【重拳】」
「上級剣技【流々】」
その重い一撃を偽物のレイドは流そうと剣を向かってくる拳の前に移動させる。
その瞬間に、ヴリドラが拳を広げて、前にあった剣を掴んだ。
「……!?」
剣を掴んだ瞬間にヴリドラが偽物のレイドごと自分の方に引っ張った。
そして、掴んでいる手とは逆の手で顔面に重い一撃を放った。
「上級拳技【重拳】」
剣が掴まれている事によって剣技が使えない偽物のレイドは重い一撃が直撃した。
持っていた剣が勝手に離れ数メートル吹き飛ばされ、地面を転がった。
「力だけが勝敗を決めない、アニムス様が何かと言っていた事だ」
「……」
偽物のレイドが顔を少し上げてヴリドラを見る。
そして目を閉じて、重力に逆らうことなく、地面に頭をつけた。
「二週間には間に合ったようだな」
ヴリドラの体が光に覆われてその場所から姿を消した。
◆
オーガがジャックの攻撃で体勢を崩す。
そのチャンスを逃すまいと、ジャックが追撃を放つ。
「上級拳技【刃脚】」
ジャックの鋭い蹴りがオーガの顔にクリーンヒットし、出血する。
顔から地面に落ちたオーガは手を地面につけて体を起こそうと、顔を上げた。
「上級拳技【列脚】」
上げた顔に二発の蹴りを間髪いれずに打ちこんだ。
容赦のない連撃に流石のオーガも、少しだけ怯んだ。
「固有魔法【発雷】」
怯んで無防備になったオーガの腹部に雷を纏った拳を放つ。
痛みによってオーガが腹部を抑えた瞬間に、回し蹴りを空いた顔に打ちこんだ。
(……痛っ! 体に纏っている炎で少し火傷したか……だが、あれだけ直撃したんだHPが高いオーガとはいえ既に満身創痍のはず)
火傷している拳を手で抑えながらも勝利の兆しが見えたジャックは笑っていた。
顔面に蹴りをくらってからピクリとも動かないオーガに近づいた。
「……死んでいないのは分かっているよ」
ジャックが何かの臭いを嗅ぐように鼻で息を吸い込みながらそう言った。
オーガの口から出される口臭から死んでいない事を見破っていた。
「死んだふりを続けるなら別にいいよ……」
ジャックの全身から小さな稲妻が放出される。
身の危険を感じ取ったオーガは死んだふりをやめて起き上がった。
「……野生の感、オーガにあって、僕には無くなった物、取り戻させてもらうよ」
放出している稲妻の量が多くなり、目つきが鋭くなる。
そんなジャックが息を吐いた瞬間、オーガの視界から姿を消した。
「ウガッ……!?」
「こっちだよ」
止まるために足で地面を削った跡が足元にあり、体勢を崩したジャックが後ろから声をかける。
声に反応したオーガが振り向くと、一瞬で顔が真上に向く。
「お腹を攻撃したはずなんだけど……やっぱり早すぎて体が付いていかないか……」
自分の瞬発力に体が付いていけないジャックは思うように体が動かせていなかった。
しかし、その凄まじい速度にオーガはジャック以上に対応できていなかった。
「使えるようになっただけマシかな……」
ジャックが深呼吸をして無呼吸運動で攻撃を放つ。
その凄まじい速度にオーガはなすすべなく攻撃を全て受けた。
「ウゴッォォ!」
オーガが雄たけびを上げながらジャックに攻撃を放つ。
しかし、一瞬でジャックは視界から消え、攻撃は空を切った。
「レイド様が言っていた、俺の戦い方は一方的に攻撃をし続けて倒すのが理想だって」
後ろから声が聞こえると、オーガは振り向きながら攻撃を放つ。
ジャックの姿は後ろにはなく、かわりに視界に映ったのは向かってくるかかとだった。
「ウグゥ……!」
思いがけない攻撃をくらったオーガは顔を押さえながら後ずさった。
そんなオーガの腹に鋭い右ストレートを打ち込んだ。
「上級拳技【重拳】」
オーガのアバラを折りながら腕を振り切った。
そのままオーガは吹き飛び、地面を転がった。
「少しはフェンラルの力も取り戻せたかな」
ジャックがそう呟いた瞬間、全身が光に包まれその場所から姿を消した。
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