ジャック(閑話)
冷たい雨が地面に降り注ぎ、気によって光が遮られ暗い森の中。
所々に傷を負った黄金色の狼が木に寄りかかりながら歩こうとする。
「グゥゥ……」
黄金色の狼は力弱く小さく唸る。
そして木に全体重を乗せながらゆっくりと地面に倒れた。
(フェンラル狩り……僕の存在を把握しているとは……予想外だった………)
鋭い爪を木に刺し込み何とか立ち上がろうとする。
しかし、怪我した腕では体は支える事が出来ずに地面に倒れてしまった。
「……綺麗な毛並み」
弱っている黄金色の狼を見た可憐な少女が呟いた。
黄金色の狼が声の主を見ると、なぜか少女の周りだけ雨が降っていなかった。
その異常な状態が可憐な少女の姿と相まって神々しくも見えた。
「……だ、誰だ」
ザーザーという雨の音にかき消されてしまう程の小さな声で質問を投げかけた。
質問をされた少女は無言で黄金色の狼に近寄り、体に手を置いた。
「さ、触るな……!」
重い体をどうにか動かして体に触れさせないように抵抗した。
抵抗する黄金色の狼をジト目で見ながら、無理やり体に手を置いた。
「光魔法は苦手だから……上級光魔法【回復】」
少女の手から光が放出し、黄金色の狼を包み込んだ。
その光によって全身にあった傷がみるみる回復していった。
「な、なんで……?」
傷を治した事によって大量の体力を消費したのか黄金色の狼は目を閉じてしまう。
少女はまたしても質問に答えることなく小さな笑顔を返した。
「いきなりどうしたんだ?」
黒いフードを被った青年が少女に近づきながらそう言った。
少女は振り返り、青年の目を見ながら答える。
「色、目で色を見て」
少女の言葉を聞いた青年は右目を瞑る。
少し経った後に閉じた右目を開けると、そこには銀色の目があった。
「なるほどな……トラブルを持ってきそうだが連れていくか……」
青年は倒れて寝ている黄金色の狼を持ち上げる。
そして少女に目で合図を送ると、少女は青年の腕を掴んだ。
「アニムスはトラブルに巻き込まれやすいんだ、無言でどっかに行くな」
「……それはレイドも」
アニムスが上着から取り出した「転移」と書かれた巻物を開く。
その瞬間、三人はその場所から一瞬でいなくなった。
◆
(寒くない……こんなに気持ちの良い睡眠は何時ぶりだろう? ……族長が殺されてからみんなバラバラで……)
黄金色の狼が目を覚ますと、視界に映ったのは暗い空ではなく人工的に作られた天井だった。
頭を横に傾けると、そこには暖かそうなシチューがあった。
「いつの間にか人化してたのか……」
黄金色の狼と同じ色の髪を持った少年が自分の手を見て呟いた。
そんな少年の姿が目に入った、アニムスがベットに近づいた。
「起きた、グレイヴが栄養不足だって言ってたから具材多めのシチューを作った、食べてみて」
「……」
少年は指示を出されてもアニムスを睨んでシチューを食べようとしない。
そんな少年の様子を見てアニムスは情報をつけ足す。
「安心して、毒なんて入れてないから」
「……何が目的だ!」
少年が拳を強く握り、睨みつけながら叫んだ。
「私達にとって有益な人物になる可能性もあったから、それだけ」
「……恩を売って僕に何をさせるつもりだ!」
「特に今は無い、今後、貴方が仲間になる可能性があるってこと」
アニムスが少年に近づきながら説明をした。
そしてシチューが注がれている器を少年に渡そうとした。
「はい、お腹すいてるんでしょ?」
「……誇り高きフェンラルだ、施しは受けないし、仲間になるわけがない!」
アニムスが近づけてきたシチューの入った器を少年は手で吹き飛ばした。
シチューと器は離ればなれになり、それぞれが地面落ちて行った。
「勿体ない事をするな」
何処からか現れたラフな服装のレイドが器を手に取り、空中に舞っているシチューを掬った。
地面を汚すはずだったシチューは一滴も漏らさずに、器の中へと戻っていた。
「アニムスがお前を想って作ったんだ、誇りがどうとかの前に食べるのが礼儀だ」
「……っ! 黙れ!」
少年は良い返す言葉が無く、レイドに殴りかかった。
その攻撃をレイドは簡単にかわし、無防備な足を払いながら体を押してベットに倒して、元の位置に戻した。
「冷める前に食え、温かいほうが美味しいのは知っているだろう?」
レイドが薄く笑みを浮かべながら器を少年に近づけた。
少年は抵抗することなくその器を手にとってシチューを食べ始めた。
「……!?」
シチューを口に入れた瞬間、少年の目は大きく見開いた。
そして無言のままシチューをどんどん口へと運んで行った。
「よっぽど腹が減っていたようだな……」
レイドは呟くと少年に背を向けて部屋から出ようとする。
それに気が付いた少年はレイドの事を引きとめるために声をかけた。
「待て! なんで僕の事を助けた!?」
「……いつかお前が俺達を助けるかもしれないからだ」
◆
黄金色の髪を持った少年……ジャックが大きな角の生えたオーガの前にいる。
ジャックの全身には擦り傷が大量にあった。
「……神玉を使えないのに敵が随分と強いじゃないか」
ジャックはレイドが前に修業した空間に一部屋目にいた。
既に1週間が経っていると言うのにもかかわらず一体も倒せていなかったのだ。
「【双牙】」
ジャックが鋭い爪を立てて、勢いよくオーガを攻撃した。
しかし、その素早い攻撃をオーガは軽く避けた。
「上級拳技【重拳】」
オーガは無防備なジャックの横から重い一撃を放つ。
その攻撃をジャックは直撃の寸前で反応し、向かってきた腕の上に乗っかる。
「上級拳技【刃脚】」
ジャックの空を切り裂く鋭い蹴りがオーガの顔に直撃する。
直撃したのにもかかわらず、オーガには少しもダメージが無い様子だった。
(攻撃をくらわせ続けてもダメージの一つも見れやしない……)
力を入れているのにかかわらず動かない足を軸に、回転して空中でかかと落としを放つ。
その攻撃をオーガは片手で受け止め、反撃を放つ。
「上級拳技【重拳】」
「固有魔法【発雷】」
ジャックの髪から少し放電し、スピードが上がる。
オーガの攻撃が空ぶり、ジャックの攻撃が何度も直撃する。
「なんで倒れないのかな……」
ダメージどころか首の一つも動かないオーガを見てジャックが苦笑いをする。
そんなジャックにオーガの攻撃が直撃し、吹き飛ばされる。
「ぐぅ……!」
攻撃範囲の外まで吹き飛ばされる。しかし、ジャックはすぐに立った。
殴られる直前に後ろに飛んだ事によってダメージを減らしていた。
「【発雷】使ってなきゃ危なかった……」
ジャックはそう呟きながら攻撃範囲の中に入り、攻撃を再度仕掛ける。
「上級拳技【重拳】」
「上級拳技【列脚】」
オーガの鋭く重い一撃を頬をかすめる程ギリギリで避ける。
それと同時に前宙し、相手の勢いを利用して、両足をオーガの顔面に放った。
「ウグッ……!」
低いうめき声を上げながらオーガが少しだけ後ずさる。
その隙を見逃さないかのごとく、ジャックが追撃を放つ。
「戦術級拳技【牙狼拳】」
肉をえぐるように回転させながらオーガに攻撃を加えていく。
固い皮膚で覆われたオーガの体からは血が出ないものの確実にダメージは与えていた。
「【鬼火】」
ジャックがさらに追撃を放とうとした瞬間、オーガの体が火に包まれる。
危険性に気が付いたジャックは火に触れる寸前で拳を引いた。
「固有魔法【発雷】」
唯一、火を纏っていない頭部に雷を纏わせた蹴りを放つ。
オーガはその蹴りを避けるどころか、蹴りの方向に顔を向けた。
「いっ……たぁぁ!」
オーガは大きな口でジャックの足に噛みついていた。
予想していなかった痛みにジャックは大声を出してしまった。
「上級拳技【刃脚】」
噛まれている足とは逆の足で炎に包まれている服部に蹴りを入れようとした。
しかし、その蹴りはいとも簡単にオーガに受け止められてしまった。
「ウォォォオ!」
オーガが全身を勢いよく前に振って、ジャックを地面にたたきつけようとする。
その瞬間、ジャックが人化を解き、足を細くする事によって両足の拘束を緩める。
「上級拳技【空歩】」
空気を勢い良く蹴り、両足を完全に解放する。
それと同時に人化を発動し、自分から向かってくるオーガの顔面に左ストレートをくらわした。
「何度も同じ動きが通じると思うなよ……」
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