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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜  作者: 真心の里
シン【神玉編】
50/70

翼(シン編)

 

「ミカエル様! どこに向かうつもりですか!?」


「ついてくるな、俺は四大天使候補から外された身だ、お前が仕える理由もなくなっただろう」


「そんな事はありません! 私は生涯ミカエル様に仕えると誓いました! ミカエル様の立ち位置が変わりましても仕えることに変わりはありません!」



 大きな純白の翼をはやした綺麗な顔立ちのミカエルと呼ばれる青年を小さな翼をはやした女性が止める。

 しかし、女性がいくら言葉をかけようともミカエルの歩みは止まらなかった。



「アリエル様も事情をちゃんと話せば理解して下さります! どうか止まってください!」


「あの堅物が悪魔との交際を認めるはずがない」


「……あなたにとってグリードは四大天使を諦めるほど大切なんですか?」



 女性が歩みを止めて拳を強く握りながら質問をする。

 問いかけられたミカエルは一旦止まり、背を向けたまま答えた。



「四大天使なんてのは肩書だけだ、本物の幸せはそんな場所にはない」


「……ミカエル様」


「これ以上、俺に関わるな、最後まで残ってくれたお前を巻き込みたくない」



 ミカエルは女性にそれだけ伝えての《・》から飛び降りた。

 背中にある大きな翼が勢い良く開き、太陽の光が純白の翼に反射し、輝いて見えた。



「ミカエル様は本当に天使の敵に回るというのですか……」




 ◆




 ヴァラーグとヴリドラに出会ってから約三ヶ月、折り返し地点まで来ていた。

 シンは魔力の操作を手元でしながら、外を見て呆けていた。



「髪も伸びてきたな」



 シンは手元で行っていた魔力の操作をやめて、伸びた髪をいじる。

 空間魔法でゴムのようなものを取り出し、邪魔になった髪を後ろでまとめた。



「髪が伸びるのが早いのは前世からだが、美穂がいつも切ってくれてたから伸びるスピードがここまでとは思っていなかったな」



 シンは前世のことを思い出しながらふとつぶやいた。

 そして、また外を見ながら何かの違和感に気が付く。



「……変な魔力が溢れ出ている」



 シンが見ている方向からは優秀な魔法使いしか見えない程度だが黒い魔力が溢れ出ていた。

 魔力の質によって、その者が適性のある魔法の種類も分かる。



「嫌な予感がするが、神玉の手がかりになるかもしれない……行くか……」



 シンは馬車を減速させ、外に出た。

 そして黒い魔力が溢れ出ている場所へと歩いて向かった。



(黒い魔力があふれるのは闇の魔法適性が高い者が魔力を解放した時だ……だが、光や闇の魔法適性が高いのは稀だ、ここまで大きい魔力を感じられるとしたら魔族……いや、悪魔か?)



 魔力元が敵だった場合、先手を打つためにシンは少しだけあふれている魔力を完全にOFFにした。

 そしてゆっくりと歩いて溢れる魔力の中心に近寄った。



「アァァァァ!」



 甲高い声の叫びがシンの頭を響かせた。

 いきなり聞こえるようになった大きな声にシンは思わず耳をふさいでしまった。



(鼓膜が破れるかと思ったぞ……いきなり声が聞こえるようになったと思ったら、魔力量も一気に増えてるな……魔法やスキルで抑え込んでいたわけか)



 シンは自分に隠蔽魔法をかけて、隠れながら声の正体を見る。

 そこには頭を押さえながら体を震わせる、白目をむいた女性がいた。



(……悪魔だったか、随分と苦しそうだが外相は見当たらない、毒でもくらったか? いや、何かを押さえこんでる感じがするな)



 シンが悪魔の女性を見ながら真剣に自分なりの考察をしていた。

 そんなシンに何故か気が付いた悪魔の女性が首を回転させ、シンの方を向いた。



「アアアアアアアア!」


「見つかった……!?」



 悪魔の女性が発狂しながらシンに襲いかかった。

 見つかった事を悟ったシンは隠蔽魔法を解いて、人差し指を向けた。



「上級雷魔法【雷撃】」


「アアアアアア!」



 シンの指先から放たれた雷を悪魔の女性は片手で吹き飛ばした。



「悪魔の中でも位が高い悪魔のようだな、戦術級爆裂魔法【業爆】」



 シンが呟きながら二本指で魔法を放つ。

 悪魔の女性の胸の近くで爆発が起き、悪魔の女性を吹き飛ばした。



「とはいえ、大尉以上じゃなきゃ相手にもならないか」


「ウッ……ガアアア!」



 悪魔の女性が空中で翼を広げ、急停止をする。

 そして翼を巧みに扱い、シンに向かって襲いかかる。



「知能無しの奴に負けるほど俺はもう弱くない、戦術級闇魔法【闇渦】」



 シンが手元に魔法で黒い渦を出現させる。

 悪魔の女性がその黒い渦に吸い込まれ、勢い良くシンに近寄らされた。



「吹き飛べ、戦術級爆裂魔法【業爆】」



 向かってきた悪魔の女性の顔を三本指で押さえ、魔法を発動させる。

 悪魔の女性の顔面で大爆発が起き、地面に倒れさせた。



「ガアァ……」



 発狂する元気もなくなったのか静かに悪魔の女性は地面に顔をつけて動かない。

 しかし、シンは目の前の悪魔がまだ死んでいないことはわかっていた。



「勝手に近寄ったのは俺が悪かったが、この状態じゃ討伐依頼が出るのも時間の問題だっただろう」



 シンは倒れている悪魔の女性を見ながら言った。



「何をしている……」



 シンの真後ろから綺麗で低い声が聞こえた。

 その声を聞いたシンは援軍と思い、すぐにその場所から離れた。



「誰だ……?」


「それはこちらの台詞だ、下等生物」



 シンの目の前にいたのは綺麗な翼を広げたミカエルだった。

 ミカエルはシンのことを見下したような目で見つめながら吐き捨てるように言った。



「天使が悪魔をかばうなんて珍しいこともあるんだな」


「下等生物ごときが俺たちを語るな……!」



 どこか焦っている様子のミカエルに強気な発言をするシン。

 そんなシンを相変わらず見下した態度で言葉を返すミカエル。



「お前がやったのか?」


「……やったもなにも、すでに素面じゃなかったぞ」


「下等生物は俺の質問に答えればいいんだ、お前がグリードを傷つけたのか」


「グリード……そいつが大罪悪魔だと? 冗談もいいかげんにしろ」


「いいから俺の質問に答えろ下等生物!」



 ミカエルがシンに手を向けて光のレーザーのような攻撃を放つ。

 シンはその魔法を【障壁】を使って防いだ。



「傷つけたってのは心外だな、正当防衛、やらなきゃ俺もやられてた」


「やったのはお前なんだろ? ……下等生物ごときが俺たちの邪魔をするんじゃねぇ!」



 ミカエルが翼を大きく広げシンに向かって飛んで行った。

 シンは人差し指をミカエルに向かって伸ばした。



「戦略級闇魔法【超重力】」



 シンの魔法によってミカエルに掛かる重力が大きくなり、地面に倒れさせようとする。

 しかし、一瞬で対応したミカエルは少し体勢を崩す程度で変わらずシンに近づいた。



「【天使の槍】」



 ミカエルの左手に光が纏わりつき、槍の形になった。

 その左手でミカエルはシンを攻撃した。



「戦術級錬金術魔法【鉄壁】」



 シンの魔法によってミカエルとの間に鉄の壁が出現した。

 その壁をミカエルは難なく貫き、そのままシンを攻撃しようとした。



「手ごたえが無い……」



 ミカエルは貫いたのにもかかわらず感じない手ごたえに呟く。

 そして鉄の壁から腕を抜いて、シンのことを索敵した。



「逃げるしか能のない下等生物が……!」


「誰が逃げるしか能が無いって?」


「……!?」



 ミカエルが周りを今日キョロしながらつぶやくと、横に出現したシンが笑いながら囁いた。

 驚きながらもミカエルは声の聞こえた方向を見た。見た先には指を伸ばした右手があった。



「敵対するんなら同じ目に合わせるだけだ、戦術級爆裂魔法【業爆】」



 シンの目の前で大爆発が起き、ミカエルを包み込んだ。

 少しクレーターができ、土煙が舞って、視界がふさがれた。



(直撃したようだがどのくらいダメージを負っているだろうか?)



 舞っている大量の砂煙をミカエルが翼を使って全て吹き飛ばした。

 砂煙から出てきたミカエルはガードした腕にやけどを負っていて、口からは少し血を流していた。



「下等生物が俺に傷をつけやがったな」


「あんたが攻撃をしてくるからだろ? 攻撃してこなければ俺も攻撃はしない」


「俺に指図をするな!」



 左手の槍でシンを攻撃する。

 その攻撃をシンはしゃがんで避け、ミカエルの足を掴む。



「中級氷魔法【凍結】」


「邪魔だ……!」



 シンの手から冷気が発生し、足を凍らせようとした瞬間、ミカエルが足を振りシンをふりほどいた。



「【天誅】」



 吹き飛んだシンの方向を向いて、ミカエルが腕を振り下ろす。

 シンが着地をすると同時に、天から光の柱が降り、黒い魔力をかき消しながらシンを襲った。



「戦術級炎魔法【業炎柱】」



 シンが右手を地面につけて魔法を放つ。

 シンの目の前に火の柱が出現し、天から向かってくる【天誅】を相殺した。



「小癪な真似を、戦略級光魔法【雷光】」



 ミカエルの翼から10本の大きな光の攻撃がシンを襲う。



「戦略級氷魔法【氷囲】」



 シンが光の攻撃に向かって魔法を発動し、全て凍らせた。

 凍った光の攻撃は運動エネルギーを失い、地面に落ちた。



「何度も何度も……」


「最初からおかしいと思っていたんだが、あんた天使の輪をどうした?」


「……」



 シンの問いかけにミカエルは無言という返事をした。

 天使族は特徴的な種族で、綺麗な翼と頭の上に浮いている光る輪を持つ。

 ミカエルには翼はあったが、もう一つの特徴の天使の輪が存在していなかった。



「翼には信念を、輪には力を……天使はそうじゃなかったか?」


「……下等生物にしてはよく知っているな」


「天使にしては感じる魔力量が少なすぎる。魔力を多く持つ天使族にしてはな」


「……お前の言う通り、俺には力の象徴である天使の輪はない」



 シンがミカエルに理由を説明した。

 それと同時にグリードが大声で叫び始める。

 ミカエルはその声に反応してシンに背を向けてグリードの場所まで歩いて行く。



「アアアアアアアア!」


「俺は罪を犯してだな、翼か輪を手離さなければならなかった……普通の天使ならば翼を手放す、なぜなら天使は実力主義だからな、だが俺には信念をすられない理由があった」


「それが……その悪魔か」


「そうだ、下等生物に話しても少しは楽になるんだな」



 ミカエルは倒れている悪魔の女性……グリードを抱き上げて答えた。

 そんなミカエルの顔からは強張りはなくなり優しそうな顔を浮かべていた。



「お前の罪は天使と悪魔の関係か……」


「お前ら下等生物は良い、何と交際しようと勝手だ……だが、天使は違う。悪魔とは決して関係を持ってはいけない」


「アアアアアアアア!」



 ミカエルがそう言うと同時にグリードが暴れ出す。

 暴れているグリードの首にミカエルの手が触れた瞬間、グリードの発狂が終わる。



「七つの大罪、強欲の力よ、我に従え【罪奪い】」



 グリードの特徴的ともいえる黒い髪が白く変わり、逆にミカエルの綺麗な白い髪が灰色になった。

 そしてシンは気が付いていた、グリードとミカエルの力がさらに弱まったことに。



「まさか大罪の刻印を消しているのか?」



 シンはミカエルに素朴な質問を投げかけた。

 大罪の刻印……その昔、この世界で大暴れした悪魔が自らの魂につけたとされる刻印。

 その刻印はそれぞれの欲求を高める代わりに、自分の力を高めると言われている。



「グリードは自分の意思で刻印をつけたわけじゃない、強制的に付けさせられたんだ」


「……大罪の刻印は魂に刻みこむ、それを解く方法はないはずだが」


「グリードは力のほとんどを使い俺に一つの技を与えた、それが【罪奪い】……刻印を奪うことのできる能力だ」


「そうか……悪魔の、それも大罪の力を持つなんてのは天使からしたら大罪なわけだ」



 シンは魔力を体の中に抑え込んで納得した様子だった。

 ミカエルはグリードを地面にゆっくりと置いてシンに話しかけた。



「下等……いや、魔法使い……傷ついたグリードも見て激昂し襲いかかったのは謝ろう」



 振り向いてシンの方を向いたミカエルが頭を下げた。

 その変化の様子にシンも思わず驚いてしまった。



「どうか俺達のことを見逃してもらえないだろうか、天使の力がさらに下がった俺に勝ち目はない、頼む」



 先ほどの戦闘時とは真逆の腰の低い態度にシンは驚いたままだった。

 ミカエルの表情もどこか柔らかさを増したようだった。



「ならば交換条件だ、神玉について何か知っていないか?」


「……神玉? すまない、聞いたことが無いんだが」


「そうか……天使でも知らないのか」



 シンは悔しそうな顔をして呟いた。



「俺に手を出さないなら俺も手は出さない、どこかで隠れて幸せにすればいい」


「……お前は否定しないのか?」


「何をだ?」


「天使と悪魔が一緒にいることをだ」



 ミカエルの質問を聞いたシンは少し考える。

 そしてすぐに答えを出して当たり前のことを言うかのように言った。



「恋愛ってのは感情で起きるものだろ? そいつがそいつである限り血とか種族は関係が無い……と思うがな」


「お前は珍しいんだな……」


「珍しいのはお前の変化の方だろう?」



 シンはミカエルの津百に対して感じている疑問を聞いた。

 ミカエルは俯きながらシンに聞こえる程度の声で呟いた。



「【罪奪い】は完璧じゃない、使うたびに使用者は対象の性格に一時的に近くなる、というデメリットがある」


「お前の変化はグリードの性格に近くなったからか」


「そうだ……今は傷付けたお前でも憎いと思えない……」


「そうか、疑問が晴れたからもう良い、手綱はしっかり握っておけよ、二度目は容赦はしないからな」



 シンが静かに意識を失っているグリードを見ながらミカエルに言った。



「わかっている」


「ならいい……」



 シンはそれだけ言って止めている馬車に向かった。

 その背中をミカエルは笑いながら見ていた。

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