魂(シン編)
シンが放った魔法によってヴァラーグは火の球に包まれる。
その球から発せられる熱によって近くの植物は燃え、石までもが溶けかけていた。
「早く……あの防御を貫かないと……維持する魔力が足りない……」
シンは炎の弾に両手を向けて魔力を送り続けていた。
既にシンは限界で足は小刻みに震え、倒れる寸前だった。
「……無理か」
ついにシンの限界が訪れ魔力の供給が終わる。
その瞬間にヴァラーグを包み込んでいた炎の球は消えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
体内の魔力が極度に少なくなったことによりシンは強い吐き気とめまいに襲われる。
普通ならば意識を手放してしまうが、シンは何と四つん這いで意識を保っていた。
「凄まじい攻撃だった、神竜の翼を焦がせる威力を使う魔法使いは知っている限り一人しかいなかったが、二人目となった」
「はぁ……はぁ……それは嬉しいね……」
炎の球から出現した少しの火傷を負ったヴァラーグがシンを見下しながら言った。
シンは襲ってくる吐き気とめまいに耐えながら笑って答える。
「ここで……俺も終わりかよ……」
シンが苦しそうな声を出しながらつぶやく。
そんなシンを見たヴァラーグはシンに手を向ける。
(父さん……母さん……生き返らせてやれなくてごめん……美穂、お前を残して死ぬ俺のことを許してくれ……)
シンは目を瞑り覚悟を決めて、家族に謝った。
「【神竜の補助】」
ヴァラーグが技を放つと手から光の弾が発射されシンの体内に入った。
球が入った瞬間にシンの魔力の内、四分の一ほどが回復した。
「これで少しはまともになっただろう」
「なんのつもりだ……?」
自分の魔力を回復させたヴァラーグを睨みながらシンが言う。
「我は神竜だ、本来なら私的な理由で勝手に使っていい力ではない、ましてや勝手に使った力で死人を出していいわけがない」
「ならば何故、勝負を仕掛けた?」
「言っただろ、死に場所を探していると……この神竜化もそろそろ終わる、その時が我が死ぬ時だ、我の願いを叶えてくれた者を殺すほど愚かではない」
ヴァラーグは立ち上がるシンを見ながらそう語った。
魔力が回復したとはいえ具合の悪さが治らないシンはヴァラーグを未だに睨み続ける。
「俺はお前を満足させられたのか? 本気を出しきれていないと感じたんだが」
「お主には教えておくが、神竜が本気を出すことはあってはならない。なぜなら、神竜が本気を出すときは世界を変えるときか世界を滅ぼす時だと決められてるからだ」
「お前は死ぬんだろ? 関係ないんじゃないのか?」
「我には息子がいてな、ただでさえ神竜の力を私的な理由で使い竜族に狙われている。もし、神竜の本気を出せば我が死んだあと息子達は竜族に殺されるだろう」
ヴァラーグがそう言った瞬間、体からあふれていた光が突然消える。
それと同時にヴァラーグが心臓を押さえながら苦しみ始める。
「ぐっ……予想以上に魂を失っていたか……」
「本当に死ぬのか……」
「当たり前だ……戦いで魂を削りすぎた、もう我に生きているだけの力はない」
ヴァラーグが地面に膝をついて苦しそうに語る。
その様子をシンが見ていると、どこからかドラゴンが飛んで近くにやってきた。
「父上! 大丈夫ですか!?」
そのドラゴン……いや、竜族はヴァラーグと同じく黒い鱗を持っていた。
だが、その大きさは普通のドラゴンよりも小さく子供だということがわかった。
「それが息子か……」
「そうだ……見つからないように来たはずなんだがな……」
「お前が父上をやったのか!?」
ヴァラーグの息子……ヴリドラは人化してヴァラーグとシンの間に入って威圧する。
その威圧は神竜の威圧を正面で受けたシンには少しも効かなかった。
「やめろ……我が選んだ結末だ……」
「安心してください父上、俺がこいつを倒します!」
「……」
シンを威圧しながら大声でヴリドラがそう言う。
魔力が四分の一ほど回復したシンにとってヴリドラは相手ではないと感じていた。
「止めろと言っているんだ……!」
「……っ!?」
ヴァラーグが苦しみながらもヴリドラを睨みつけて制止させる。
父親のいきなりの大声にヴリドラは驚き体を少し跳ねさせた。
「我は【神竜化】を使ったんだ……これは自滅だ……」
「なぜ……!? なぜ【神竜化】を使ったんですか!?」
「言っておいたはずだ……我はいつか魂を削る戦いをすると」
「でも……でも……」
ヴァラーグの言葉が納得いかない様子でヴリドラが強く拳を握る。
そんな様子を見ていたシンはゆっくりと歩を進め、ヴァラーグに近づいた。
「父上に近づくな!」
「……」
近づいてくるシンの目の前に立ちふさがるヴリドラを無視して、シンはヴァラーグに近づいた。
「無視するな!」
ヴリドラが歯を食いしばりながら腕を後ろに引き、パンチを放った。
シンはそれを首を動かして避け、ヴリドラの顔面にカウンターをくらわした。
「うぐっ……!」
「何のつもりだ……魔法使い……」
「魂を削ったんだろ? 少し前に精神を治療したことがあってな、成功確率は低いが俺に賭けてみないか?」
シンが不敵な笑みを浮かべながらヴァラーグに問いかけた。
ヴァラーグは一瞬驚いた顔をして、すぐに首を横に振った。
「魂は……直せん……魂は直すことができないから魂なのだ……」
「だから賭けだ……どうせ死ぬ運命なんだろ? 最後に賭けてみないか?」
「ふざけるな! お前なんかに直せるわけがないだろ!」
起き上ったヴリドラがシンの背中を睨みつけながら叫ぶ。
そんなヴリドラを無視してシンはヴァラーグに質問を続けた。
「そんなに頼むならば……やってみるがいい……」
「父上!?」
ヴァラーグがついに首を縦に振った。
その様子を見たヴリドラは信じられないと言った表情で声を上げた。
「さて、じゃあ始めよう……」
「父上に触るな!」
シンがヴァラーグの胸に手を置こうとした瞬間、ヴリドラが殴りかかる。
それに気が付いたシンは人差し指を後ろに向けた。
「上級無属性魔法【障壁】」
シンが魔法を発動すると、魔力の壁がシンとヴリドラの間に出現して攻撃を防いだ。
その壁を壊すためにヴリドラは何回も攻撃するが壊れることはなかった。
「行くぞ、準備は良いか?」
「死ぬ準備はいつでもできている……」
「少しは信じてくれ、固有魔法【魂遊】」
◆
真黒い空間の中に一つの光る球が存在している。
シンはその球をそっと、赤子を扱うように優しく触れた。
「これが魂……所々かけているのは削った後ってことか……」
シンは球をゆっくりと回転させながら観察する。
「正直な話、魂の治し方はわからない、代用できないか試そうと思ったが見た感じできそうにもない」
シンは薄い笑みをこぼしながらつぶやく。
何度も回転させ、何度も同じ馬車を観察して方法を考え続けた。
「簡単な構造に見えるが複雑にも見える……変な物だ、直径を変えるのが可能性があるか?」
シンは魔力を使って魂の形を変えようとした。
魔力が魂に入った瞬間、魂はグニャグニャと軟らかく不安定な物となった。
「これは……魔力のコントロールを練習してなかったらバラバラになってたな」
シンの表情が苦笑いに変わり、額に汗を流した。
ゆっくりと慎重に魔力のコントロールをして形を丸に整えていく。
「精神でも少しずれれば後遺症が残るんだ、魂ならば少しずれただけで形を失ってしまう可能性は十分にある」
シンは魔力の供給の強弱を加えながら形を整えていく。
その間にも、魔力の強弱をミスり、最初からになっていた。
「これ以上長引くと俺の魔力が無くなるのが先になってしまう……失敗はあまりできないな」
失敗ができないシンは少し方法を変えた。
それは魔力で大きな丸で魂を包み込み、その丸を小さくしていく方法だった。
「これは魔力のコントロールを同時に二個する必要がある、失敗すればそれだけ魔力の無駄にもなる……これが失敗すれば終わりかもしれない」
シンは深呼吸をして集中力を高めた。
そして、左手で魂の形をコントロールしながら、右手で魔力の丸型を作り出した。
「ゆっくりだ、計算があってれば魔力量は足りるはずだ……慎重に……慎重に……」
シンは自分に囁きかけながら魂の形を修復していく。
魂は段々と球の形になり、元の大きさの三分の一ほどの大きさの球になった。
「これで魔力の供給をやめ、形が安定すれば成功なんだが……」
シンがそう呟きながら魔力の供給をやめると魂はグニャグニャになった。
それを見たシンは失敗だと思ったが、魂はすぐに安定して、グニャグニャではなくなった。
「成功なのか……?」
◆
シンが魂の修復が終わり、瞑っていた目を開けるとそこには目を見開いたヴァラーグの顔があった。
「まさか……成功したというのか……」
「そのようだな……運が良かったな」
「ありえん、魂を直すなど、何で代用したんだ!」
元気になったヴァラーグが飛び起きてシンに問いかけた。
シンは首を横に振りながら質問に答えた。
「代用はできそうになかった、しかし、魂の大きさを変えることによって元の形に戻した」
「そうか……どうりで力を全く感じないわけだ」
「父上! 大丈夫ですか!?」
ずっと殴りつけたことによってついに壁を破壊したヴリドラがヴァラーグに近寄る。
「我はもう大丈夫だ、この者が助けてくれた」
「ですが、竜族の力が……」
「我はもう竜族ではないらしい、ただの蜥蜴にすぎん」
「そんなシャラみたいなことを言わないでください!」
笑いながらもどこか投げやりの声色でヴァラーグが言うと、ヴリドラが叫んだ。
その叫びを聞いたヴァラーグはヴリドラの頭をなで始めた。
「いきなりなんですか……?」
「まだ愚息といるのもよいかもしれないな、と思ってな」
ヴァラーグがやさしい声でそう言うとヴリドラが胸に飛び込んだ。
そしてヴァラーグは目の前にいるシンの目を見ながら話を始めた。
「助けてくれたことに感謝する」
「俺も助けてもらった身だ、これでお相子だろ?」
「それもそうだな……」
「それに俺は急いでいるからな、戦いには終わりが来た、俺は行かせてもらう」
シンはそう言って二人の竜に背を向けた。
そして何かを思い出したかのように振り返って一つだけ質問をした。
「そうだ……最後に一つ聞きたいんだが、神玉について知っている事を話してほしい」
「……我が知っているのは勇者の証だということと魔王の証でもあるということだけだ」
「そうか……」
「力になれずすまぬ」
「いや、気にするな」
シンはそう呟いて、二人に背を向けた。
その瞬間、胸に顔を疼くめていたヴリドラがシンの方を向いた。
「お前のことは嫌いだ……いくら父上を直したとはいえ、嫌いだ」
「それは良かった、いつ敵になるかもわからない奴と仲良くはしないんでな」
「そういうところが嫌いだ」
嫌味ったらしく言うシンに悪態をつきながらヴリドラが言った。
そしてシンは空間魔法で馬車を取り出し、サウスへと向かった。
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