ついに我が…(レイド編)
レイドはリックに復讐し少しの余韻に浸った後、すぐに次の目的地に向かった。
途中で見つけた行商人の馬車に忍び込み次の標的について考えていた。
「……他の二人はあんま成長していなかったが、シーカは成長しているかな?
ちゃんと見てくれているよね?あの時は瀕死で会いに行けなかったけど、今から会いに行くよ」
レイドが誰かに話しかけるようにそう呟く。
まるでその様子を見ているかのような笑い声が聞こえたような気がした。
「この馬車で5日程だろう、少しあそこに入ってみるか?」
レイドがそう言って目を瞑った瞬間に外から大声が聞こえた。
その大声に反応してレイドはこっそりと外の様子を見た。
「お前ら!この馬車いいもん入ってそうだぜ!やっちまうか!」
「「へい!親方ぁ!」」
外見も中身も完璧な「The盗賊」のような男たちが10人、馬車を囲んでいた。
レイドはめんどくさそうにため息をついて【空間倉庫】から剣を取り出した。
「やっちまうぞ!」
「ひぃぃ!」
「……仕方ない、ついでにリックの剣を試し切りさせてもらおうか」
盗賊たちが馬車を操縦している商人に襲いかかるとレイドが呟きながら荷台から出て先頭の盗賊の首を切り飛ばした。
切った場所は瞬時に焼かれ血が飛び散ることはなかった。
「ほぉ……これは便利でちょうどいいな【炎翔】」
レイドが怯えて近寄ってこない盗賊に向けて火の斬撃を飛ばした。
火の斬撃は正確に盗賊をとらえ、上半身と下半身を切り離した。
「やっぱり生まれつきの能力は魔剣にも有効だったみたいだな」
レイドの生まれつきの能力、それは持った武器の特性を瞬時に知ることができるというものだった。
【魔剣練成】で作った魔剣は材料となったモノの特性によって剣の力が変わる。
「さぁ……少しばかり運動しようか、クズども」
レイドは不敵な笑みをこぼしながら逃げる盗賊の殲滅を開始した。
誰がどう見ても一歩的な殺人に助けてもらった商人も顔が青ざめていた。
「おい……」
「は、はい!」
盗賊の屍の上に座っているレイドが商人に話しかける。
商人は少しおびえながらもしっかりと返事をした。
「これからグエルに向かうんだろ?」
「はい、グエルに向かった後にはその先にも行くつもりです」
「恩をひけらかすのは主義じゃないが、グエルまで連れてってもらえるか」
「そ、その程度のことでいいのでしたら!」
「そうか、それはよかった俺は馬の使い方がわからなかったからな……」
レイドはそう言ってまた荷台へと戻って行った。
商人も安心したように深呼吸して馬を操縦する場所に戻った。
(……ん?もしかして断ってたらボク殺されてた?)
「ま、まさか……そんなことないよね、ない……よね?」
レイドは商人がそんなことを心配していることなど知らずにゆっくりと目を瞑った。
その瞬間、レイドの荒々しい気配と殺気が消え、かわりに穏やかな雰囲気を醸し出し始めた。
「…………」
レイドがゆっくりと目を開けると、そこには真っ白な空間が広がっていた。
体は半透明で明らかに普通の肉体ではなかった。
『精神体でこっちに来るのは随分となれたみたいだね』
「…………」
『無視なんてひどいじゃないか、命の恩人に対して』
レイドの正面にはさかさまの状態で空中に浮いている若い青年がいた。
青年は笑っていてレイドに合うのが楽しい様子だった。
『また無視かい?まぁいいや、いきなり来て何の用なのさ』
「……神玉の解放率は下がったか?」
レイドの言葉で青年の顔から笑顔が消える。
『復讐を終えたのかい?』
「……あぁ、まず一人は完了した」
『そうか……少し待っててね。確認するよ』
青年はそう言って姿勢を正してレイドの右手に手を当てる。
『……下がってはいないようだね』
「それならいいんだがな」
『力が低下したのを感じたのかい?』
「違う……もし下がっていた場合、次の標的には不安が残ってしまう」
レイドの言葉で青年の顔がさらに険しくなった。
『神玉を使ってもか……次の相手は勇者かなんかなの?』
「普通の戦闘なら負けることはない、でもあれは……」
『そうか……君はとうとう奴に挑むんだね』
「あぁ、あれは早く殺さないとまずいからな」
レイドはそういうと青年の言葉を聞かずに目を閉じた。
そしてレイドの精神が再び体の中に戻って行った。
精神が体に戻ると荒々しい雰囲気と殺気が元に戻り近くにいた動物は逃げてしまった。
「……あそこは暇つぶしにはちょうどいいな」
「あっ!やっと起きましたか!」
レイドが目を開けると同時に商人が荷台の中に入ってくる。
「助けてくれた日から目を覚まさない心配しましたよ」
「ちょうどよく着いたらしいな」
レイドは商人の言葉を完全に無視して荷台の外を見る。
そこには多くの人間や獣人が歩き、お店や宿が並んでいた。
「グエルっていい街ですよね……平和で、みんなやさしくて、僕この街とっても好きなんですよ!」
「……そうか」
レイドは何かを探すようにきょろきょろしながら適当に返事をする。
「興味なしですか……そういえば、何をしにここに来たんですか?」
「少し人に会いたくてな」
「え、もしかして恋人とかですかー?どんな人なんですか?」
「……恋人じゃない」
「あ、そうなんですか」
「恋人ではないが、1年間ずっと想ってきた人だ」
「あっ!もしかして片思いの人ですか!意外にピュアなんですね」
レイドと話しながら商品の鉄を整理していた商人は友達をいじるかのような声でそう言いながら振り返る。しかしその目線の先にはすでにレイドの姿はなかった。
「……もう行ってしまったんですね、勇者……いや、元魔法の勇者レイドさん……」
商人はそう言って馬車をグエルのさらに先の都市へと走らせた。
一方レイドはグエルの中心にある魔法学院に向かっていた。
※魔法学院……魔法の才能を磨くために作られた学校的な存在。
「シーカ、お前はそこにいるんだろ……待ってろよ」
レイドはそう呟いて人ごみの中に消えていった。
◆
「シーカさん!」
一人の少女が魔法学院の実験室のドアを開きながら大声でそう言った。
その声に実験室の椅子に座りながら寝ている幼女が反応して起きる。
「んぅ……セリナ、あと十分だけ……あと十分だけ寝かせて……すぅすぅ……」
幼女……シーカ・エテレは一瞬目をこすりながら目を開けるもすぐに眠りについた。
セリナという少女はそんなシーカに近づき白衣をつかんで廊下に連れ出す。
「ぅあ……な、なにするんだ、セリナ!今すぐ止まりなさい、私の至福の時間を取らないで!」
「もう至福の時間は終わってますよ。今から講義なんですからしっかりしてください」
「やだ……やだ、やだ!」
「はいはい、だだこねてないで行きますよ」
シーカは子どものように手足をじたばたさせながら拒否の意を示すが
セリナは軽くあしらい教室へと引っ張って行った。
「まったく、なんで私が講義なんてしなくてはいかないんだ」
「仕方ないじゃないですか、シーカさんに普通魔法の分野で並ぶものはいないんですから」
「むー、隠居してるじじいどもがいるじゃないか」
「賢者さまをじじい呼ばわりはシーカさんでも怒られますよ」
シーカはセリナに抑えられながら文句いっぱいといた表情でセリナと一緒に教室に入って行った。
教室に入ったシーカはさっきまで駄々をこねていたのが信じられないほどピシッとした表情だった。
「シーカ様よ」
「本当だ……やっぱすげー小さいな」
「お、お前シーカ様に聞こえたらどうするんだ!」
「あんなに可愛らしいのになんて落ち着いた雰囲気なのでしょう」
「あれこそ私たちの目標ね」
教室はシーカの登場にざわざわとうるさくなった。
「皆さん静かにしてください、今回の授業はシーナさんが来てくださいました。事前に用意した教科書を机の上に出して下さい」
「なぁ、シーカ様に彼氏とかいんのかな」
「年齢は何歳なんだろう」
「なんで魔法があんなできるのかな」
セリナが声をかけても誰も聞く耳を持つ様子は見られなかった。
シーカはそんなセリナを横目に黒板の前に立つとセリナに渡された講義用の本を魔法で燃やした。
「……静かにしなさい【静寂】」
シーカの魔法が発動すると教室内の音が全て消える。
生徒が声を出そうとしてもその声が教室に響くことはなかった。
「私の授業を受けるにあたって必要なのは教科書でもなければノートでもない。
必要なのは好奇心だけ。私の魔法を見て、この場所まで来たいのだったら好奇心を持ちなさい」
シーカの言葉を生徒たちはさっきとうって変わって黙って聞いていた。
生徒たちはシーカの魔法がすでに解けていることには気がつかなかった。
「よし……じゃあさっそく講義を始めよ、最初は魔法の基本の話……
魔法というのは精霊からの力を借りて何か現象を起こす技のことを言う。
精霊は魔力をもらう代価として魔法の力を私たちに渡してくれる。
長い間そう考えられてきた、でも近年その考えが誤りである証拠……魔法が発明された。
それは魔法陣魔法、魔法陣魔法はある規則性に基づいた魔法陣を書くことによって魔法を発動させることができるというもの。
このことから詠唱は魔法を発動させるためのプロセスの一つでしかないことが判明した。
そのことがわかった魔法研究者たちの研究は加速した、例えば魔道書とよばれる本の作成。
魔道書は魔法の才能がない人でも一冊に月一回だけ使うことのできる魔道具……
この魔道具のおかげで魔族勢力との戦争も人類側が優勢になりここグエルにも平和が訪れている……
………………これで、今日の講義を終わります」
合計三時間にも及ぶ長い講義はシーカの礼によって終わりを告げた。
シーカとセリナが教室を出ると生徒たちは一斉に息を吐いた。
「ふっ……はぁぁ……俺初めてかも、こんな授業に集中したの」
「私も、セリナ先生も教えるのは上手いと思っていたけど、なんかこう、好奇心をくすぐられる感じ」
「俺も、俺も、シーナ様ってやっぱすごいよな!」
教室の外までシーナに対する称賛の言葉が聞こえる。
「シーナさん、お疲れさまでした。あんだけ嫌がっても、流石元教師ですね」
「あーもう疲れちゃった!パンケーキ、セリナ今日のおやつはパンケーキ用意して!」
「はいはい、わかりましたよ」
シーナのわがままに呆れながらも返事して実験室へと戻って行った。
その後セリナは講義を行い、シーナは魔法の実験を行った。
「シーナさん……もう夜ですよ」
講義のあとから8時間たった今でもシーナは実験を続けていた。
そんなシーナを見ながら10分ほどパンケーキを作って待っていたセリナも流石に声をかけた。
「もうそんな時間かー、パンケーキ食べようか」
「はい、食べましょう」
そう言って2人はナイフとフォークを持って食事を始めた。
2人はまるで誰かに習っていたかのような綺麗な作法でパンケーキを食べていく。
「どうですか?この実験室にも慣れてきましたか?」
「そうね、子どもたちがいない分あそこよりは実験に向いているかもね」
「シーナさんがそう思ってくれて何よりです」
「セリナ、ここにはもう誰もいないんだから、孤児院にいたときと同じでいいよ」
「でも、シーナさ「いいのよ」……わかったわ、シーナ」
セリナはまるで緊張の糸が切れたようにラフにシーナと接し始めた。
「セリナ……あの子たちは元気にしてるかな、新しい先生には慣れたかな?」
「手紙によれば新しい先生とも仲良く楽しくやっているらしいわよ」
「そうなんだ……何期生だっけか?」
「私で4期生ですから、今は6ですね」
「もう6なんだ……私がいなくても大丈夫になっちゃったのかな?」
シーナが笑いながらも悲しい顔でそうつぶやく。
セリナはそんなシーナを見ながら笑顔で話しかけた。
「シーナがあの孤児院に必要ない時なんて来ないよ」
「いや、いいんだ。私の助けがなくてもいいってことは喜ばしいことだから」
「シーナ……また、孤児院に行こう」
「……うん、あの子たちも元気にしてるといいな」
そう言って今までのかなしい雰囲気はなくなり昔の卒業生について楽しく語った。
「ルイド、あいつはやんちゃだったよなー」
「ルイド先輩はすごく強かったですからね、あんなに小さい子嫌いだったのに今は……」
「孤児院の用心棒だもんね、何があるかわかんないね」
「そうね、あの子とかも……」
シーナとセリナはその後も楽しく会話する。
カーテンがかかっている窓の外にレイドがいるとは知らずに……
「……孤児院か」
レイドはそう呟いて飛び降りた。
そしてすぐに裏路地へと向かった。
「……っ!」
レイドはいきなり襲ってきた右目の痛みに耐えきれずに裏路地で倒れる。
右目を押さえながら身を縮め痛みに耐える。
「い……てぇぇな!クソがぁぁ!」
(のまれんな、孤児院を……襲うほど、俺は墜ちてねぇ!お、俺は……悪だが、クズになるほど復讐に取りつかれてねぇぞ!)
「くそ……出てくんじゃねぇ!……来る……な、出てくるな!ハデェェェス!」
レイドの叫び声によって近くにいた警備兵がレイドに走って寄って来た。
倒れているレイドの安否を確認するために警備兵が近寄る。
「大丈夫か!おい、返事をしろ!」
警備兵の声でレイドの目がいきなり開く。
その眼は赤く充血していた、その目を見た警備兵は一瞬身を引いてしまった。
「ひっ!」
『おい、ここはどこだ』
「あ、頭に直せ……っ!?」
警備兵が頭に直接流れてくる言葉に戸惑っているとレイドが警備兵の口を手でふさぐ。
そしてそのまま立ちあがるとつかんでいる手に力を入れる。
「ウグッ……!むぅぅ!!」
『答えろ……ここは一体どこなんだ』
警備兵は痛みのあまり浮いている足をじたばたとさせる。
攻撃しようにもレイドの眼光によってその気持ちは失せてしまっていた。
「うぅ……!」
『そうか……貴様らクズは直接話せんのか』
レイドはそう言って手を離した。
警備兵はレイドから逃げるように這いつくばって動いた。
「だ、だれか……たすけて……!」
『ふん!やはりクズに聞くのは間違っていたようだな……我の前ではクズは正気も保っていられんか』
「だれか!誰でも……いいんだ!」
『クズとはいえ哀れだのう、少し楽にしてやろう【破壊】』
レイドが這いつくばっている警備兵に手を向けてスキルを発動した。
その瞬間、警備兵は叫びながら息だえた。
『ふむ……この体とはいえ戦争のころのようにはいかなそうだな、忌々しい力め!』
レイドはそう言いながら横の家の壁を叩く。
叩いた壁は砕け散り中にいた人たちは瓦礫によって怪我をしてしまった。
「な、なにが……」
「いてぇ……いてぇよ」
『すまなかった、我としたことが【破壊】』
家の中にいた2人が痛みでもだえているとレイドはまた【破壊】で2人を殺した。
その後に中にある椅子に座り少し考えた。
『ふむ……この体にいられるのも一日ぐらいだろう。どうするか………………レイドに恩でも売っておくか』
レイドはふと思いついたことをすぐ実行に移し始めた。
まず一瞬ではるか上空へとジャンプした。
『さて……みていた限りあの娘に復讐をするのだろう、我が変わりに苦しめてやろう【天眼】』
レイドの視力と視界が一気に広がり、上空できょろきょろし、孤児院を探した。
そこそこの距離に合った孤児院を見つけたレイドはそこに向かって凄まじい速度で移動した。
『この距離、レイドじゃ随分と時間がかかる距離だな。我に感謝してもらわなければな』
レイドがそう笑っている間に孤児院の前についてしまった。
ゆっくりとスタスタと孤児院に近づいた。
「なにものだ……?あいにくこっから先は孤児院しかない。道に迷ったなら西の方角に行け、グエル軍の基地がある」
『安心し……これじゃダメなんだったな……あーあー、これで通じるか?」
「一瞬頭に直接……あんた一体……」
「通じているようだな、安心しろ、俺は道に迷ったわけではない。孤児院のやつらに用があるだけだ」
レイドが不敵な笑みを浮かべながら剣を腰に賭けた青年に言う。
青年は一気に警戒心を高める。
「孤児の引き取りなら帰ってくれ、今はまだ成長していないからな」
「ふん……いちいち説明しないといけないのはめんどくさい、簡単に言ってやろう孤児を殺しに来ただけだ」
「貴様ぁ……今なら逃がしてやる。これ以上こっちに近づいたら容赦なく切るぞ」
青年は土に線を引いてレイドに忠告した。
レイドは馬鹿にするように笑いながらその線の近くまで歩いて近寄った。
「我に気がついたのはお前だけだった……名前を聞いてやろう」
「ウル、ウル・テミスだ」
「ほぉ……正義の神、貴様……正義の勇者か!」
レイドは口角を上げてうれしそうにウルに言う。
ウルはシャツをまくり腕の文様を露出させた。
「よく知っていたな、今なら逃げてもかまわないぞ」
「くっくっくっ……よかったなレイド!お前じゃ苦戦していたぞ!」
「……戦うのか」
「当たり前だ、中途半端とはいえ勇者、楽しくて仕方がない。勇者であるお前には教えてやる!我の名を」
青年はレイドの言葉を心して聞く。
「我の名前は、レイド・ハデス!貴様らも聞いたことはあるだろう、最恐の神の名前を!」
そう言ってレイド……いやハデスは線の内側に足を踏み入れた。




