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【書籍化決定】愛など初めからありませんが。(第一章完結、第二章準備中)  作者: ましろ


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48.答え合わせをしましょう(5)

ぽやん、と私を見つめる瞳は、いっそ子供のようで。きっと中身もこんな感じなのでしょう。


「そういえば、私の母は37歳なのですよ」

「え…、私と3歳差……?」

「そうです」


現実を見るにはご自分の年齢が、世間ではどの様な立場にあるかを知ればいいかと思いましたが、案外響いたようです。


「……こんなに大きな娘の母親が?」

「だって15か16歳差ですよね。ダイアナ様は私の母親世代です」


あ、旦那様も少し落ち込んでいます。以前、子供達との方が年齢が近いと教えたではありませんか。


「何が言いたいか分かりますか?子が大人になる程の年齢だと言っているのです。それを……何が狡いですか。狡い狡いと騒ぐのは幼児のやることですよ?

先日コニー……コンラッド様が、姉様だけズルい!と言っていましたが、貴方は4歳児と同レベルのことを言っているのです。その恥ずかしい言動に、いい加減気付いていただけないでしょうか」


この人に優しくお話しは無理だと理解しました。脳味噌に行き届くよう、多少キツめの言葉に変えさせて頂きますわ。


「…酷いっ!」

「あのですね、元伯爵夫人。少し責められて『ひどいっ!』と涙目になることも恥ずかしいですよ?

それも許されるのは10歳くらいまでです。語彙が足りなく、気持ちを上手く言葉に出来ず、感情も抑えられない子供と同じだとは。淑女教育のやり直しが必要ですね。

ああ、平民になられるなら必要ありませんけどね。結局貴方はどう生きていきたいのですか?」


何故今更蒼白になるのでしょうか。

本当にこの家に戻って来られるおつもりだったのでしょうか?


「既に私という妻がおりますので、貴方様の居場所はここにはございませんの」

「私は!あの子達の母親よ!?」

「いえ。今は私が母です。貴方が離婚届を置いて出ていったせいです。だからここに貴方の居場所はありません」

「……そんな……どうして?グレンなら、待っていてくれると思ったのに……」

「待っていてと伝えなかったのにですか?」

「言わなくても何となく分かるでしょう」

「貴方にだけ都合のいい世界などありません。そんな世界があるなら、そもそも死にかけないでしょうに」

「あっ……」


あ、じゃないですよ。今気付いたのですか。


「ダイアナ。君があの子達の母親なのは間違いない。だが、もう今更君が伯爵夫人に戻る道は無い。

しかし、このまま君を路頭に迷わせれば子供達が悲しむ。

だから……君はこれからは少しずつでいい、仕事をしてくれないか」

「しごと……私が?」

「王都に買った家はそのまま住めばいい。治療にかかった費用も返す必要はない。君の持参金も返すよ。

だが、今、手元にあるお金は返してくれ。このままでは君は泥棒になってしまうぞ」

「でも、仕事だなんて……」

「まずは真面目にリハビリをしてくれ。それから、家事なども出来るように。その進行具合に応じて給料を払うよ」


なるほど。子供達が見て、恥ずかしくない母親になる為にお金をかけるのですか。


「というのは、駄目だろうかミッシェル」


あら。私に相談ですか?勝手に決めなかったのは進歩ですね。


「いいですよ。ただし、期間をしっかり決めましょう。ダラダラやっていたら給料は無しです。

義足は作っていますか?」

「……あれ、痛いのよ」

「あるなら、それを使いこなす練習も必要ですね」

「痛いって言っているじゃない」

「あのですね。本来ならば泥棒だと言って突き出すことも、貴方の実家に慰謝料を請求することも出来るのです。それを子供達の為だけに許しているのですよ?

甘えるのも大概になさいませ。

痛いのは生きている証拠です。生きていられるのは旦那様がずっと頑張って働いてくれてお金をたくさん稼いでくれていたからです。

グダグダ文句ばかり言っていないで、感謝と謝罪の言葉を述べたらいかがですか?」


1から10まで説明が必要なタイプですか。

確かに、もしかしたら女神級に人の世に疎いのかもしれません。


「あ、給与ですが、女性が一人で最低限生活出来る程度です。もともと修道院にいくつもりだったのですから、それで十分ですよね」

「えっ!?」

「契約は一年更新ですから。真面目にやらなければ、一年で終わると思って下さい」

「そんな……」

「あと、ブレイズの給与はありません。当然ですけど」

「どうして!?」

「……執事を辞めたからですよ。彼の勝手な退職ですから紹介状は書けません。退職金ももちろんありません。というか、駆け落ちしてから彼が使ったお金は全額返済してもらいます」


あらあら。絶望的な顔になりましたね。


「子供達の為に、清貧、勤勉を学んで下さい。

と、こんな感じでどうでしょうか旦那様」






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