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【書籍化決定】愛など初めからありませんが。(第一章完結、第二章準備中)  作者: ましろ


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35.恋の爆弾

「ミッチェ、今日は私と一緒に寝ましょう」


フェミィ様からの意外なお誘いでした。

昼間のお話しのせいでしょうか。


「ぼくも!ぼくもミッチェとねる!」

「コニーは男の子だから駄目よ」

「ひどいっ!なかまはずれはダメ!」

「あなたはお父様のベッドに潜り込みなさい」

「えー?」

「勇者のお話、聞かせてあげたら?」

「うん!ぼく、おはなしじょうずよ?父さま、よろこぶかな!」

「ええ、男同士の話でもしてきなさい」


要するに、フェミィ様は()()()のお話しがしたいのですね。


「では、旦那様にお手紙を書きましょうか」


『おとこどうしのおはなしがあります。いっしょにねようね。

コニーより』


ふふっ、意味が分からず困惑する旦那様が目に浮かびますわ。




◇◇◇




部屋に入ってきたフェミィ様は何だかとても寂しそうです。


「ミッチェ、くっついてもいい?」

「もちろんですよ」


普段はこんなふうに甘えることは少ないのですが、お姉さんだからと我慢していたのでしょうか。

駄目ですね、まだ七歳ですのに。気づけなかった自分を叱りたい気分です。


「ミッチェ。内緒のね、お話しがあるの」

「はい」

「ミッチェを信じてるから話すのよ?」

「ありがとうございます」


フェミィ様は何がそんなに不安なのですか?


「……お母様は、お父様を裏切っていたのかしら」

「!」


……ずっとそんな不安を抱えていたなんて。


「なぜ、そう思ったのか聞いてもいいですか」

「……馬車の中で……お母様は眠ってしまわれたの。しばらくしたら……寝言でね?『フィル』って言ったの。ブレイズじゃなくてね、『フィル、フィル』って名前を何度も呼んでいたわ」

「……そうですか」

「うん」


フェミィ様がさらに私にしがみついてきました。

私もギュッと抱き返します。


「安心して。コニーは寝ていたから聞いていないわ」


コニーは。では、旦那様は聞いていたのですね。


「フェミィ様。私の正直な気持ちをお伝えしてもいいですか?」

「……うん」

「まず、残念ながら、ダイアナ様と旦那様は一年前に離婚が成立しています」

「そうね」

「ですから、闘病生活の中でお二人に愛が芽生えたとしても、旦那様への裏切りにはならないのです。

ただ、ダイアナ様にはフェミィ様達がいます。本当ならば、お二人のお気持ちを考えてほしかった。そう思います」


でもこれは、駆け落ち()に愛が芽生えた場合ですけれど。

そもそもなぜ、逃げる相手がブレイズだったのか。その理由が愛であったなら一大事です。


「お母様は大変なご病気だったのよね?」

「そうですね。ブレイズが言うには、三ヶ月前にやっと普通に暮らせるようになってきたと言っていました」

「……それは、どれだけお金がかかったと思う?」


フェミィ様が現実を見過ぎです。七歳でお金の心配をしないでほしかった……


「だって、お家が綺麗だったわ。ここみたいに大きくはないけど。

でも、お母様はご病気でブレイズは付きっきりだったのでしょう?だったら使用人を雇わないといけないわ。

お仕事を全くせず、家を買い、人を雇い、大きな手術をして、その後一年近くも難病の治療にあたって。

お母様はいったいどれだけのお金を持って駆け落ちしたの?」


すっごく具体的に算出していますね。

確かに私もそこは気になっていました。でも、旦那様のことだから、奥様の資産は莫大だったのではと考えていたのですが。


「……たぶん、伯爵家の資産ではなく、ダイアナ様個人の資産だと思いますよ。だから」

「本当に?それは伯爵夫人のための維持費ではないのかしら。社交のためのドレスなどを買う、伯爵家に貢献する妻への費用では?それは勝手に家を出ていく人がかすめ取っていいものだったの?」


かすめ取るって……でも、そうなのよね。

ちゃんとした話し合いもなく、一方的に離婚届を置いて、お金だけはたくさん持って出ていったのは、かなりアウトだと思っていました。

ブレイズが言ってたダイアナ様の言葉が気になりましたし。


『お前はきっと、どこかで彼女が生きているならそれでいいからと、絶対に探さず、今まで通りにひたすら働き続けるから』


それは、大金を持ち逃げしても、旦那様ならばダイアナ様を探すことなく、すべてを許すという意味にも取れてしまうのです。


「フェミィ様。不安なことを私に教えてくださりありがとうございます」

「……お母様は悪い女なの?」

「今はまだ分かりません、としかお答えできません。

この件は、私が旦那様とダイアナ様それぞれとお話ししてみます。

もちろん、私自身も疑問に思っていたことですからフェミィ様のお名前は絶対に出しません。ご安心くださいね」

「……ごめんなさい」


フェミィ様の柔らかい髪を撫でる。今日、コニー様を撫でた旦那様には本当に驚きました。でも、この感触を一度覚えたらもう止められないはずです。

今後も撫でる回数が増えることでしょう。


「なぜ謝るのですか?悪いことをしていないときに謝っては駄目ですよ?」

「……じゃ、ありがと。ミッチェだいすき」


お話しして少し安心したのでしょうか。眠た気な声になってきました。


「フェミィ様から見て、ブレイズ様はどのような方でしたか?」


フェミィ様はとても(さと)い方だから、何かしら気付いていそうです。


「……ノーランみたい」

「似てますか?」


少し意外な回答でしたね。


「ブレイズはお母様が一番大切なの。ノーランと一緒。彼はミッチェが一番でしょう?」

「へ?!」


駄目です。おかしな声が出てしまいました。

そうですね、私が主ですもの。この屋敷の中で私が一番で間違いない……のかも。


「……あの時は分からなかったけど、お父様が怒った気持ちが少しだけ分かった。また、大切なひとを同じように盗られるって……、すごくこわかったのね……」


……フェミィ様。たったそれだけの台詞に爆弾がいっぱい含まれています。

一体どういうこと?と聞きたいのに、フェミィ様は夢の国に旅立ってしまいました。


「……何それ。ありえないのですけど」







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