24.変化する日常
あれから一週間が経ちました。旦那様からの連絡はまだありません。
王都までは片道一日半程度。小さな子供連れです。長く見積もって往復五日。差し引くとニ日。
話し合いに時間が掛かっているのか、それとも久々の再会にそのまま王都見物などを満喫していらっしゃるのか。
「ノーラン、そろそろ交流会のお断りをしたほうがよいのではないかしら」
私にはそういった書状を作る権限がありません。家令のホワイト様にお願いするしかないのです。
「本当に何なんですかね。責任能力皆無ですか。よくあれで当主をやってこれましたよ。皆様甘やかしすぎ」
ここ数日、ノーランの毒吐きが止まりません。
「ノーラン?それでもフェミィ様達の大切なお父上なの。あまり悪く言わないで」
「くそっ。ホワイト様の所に行ってきます」
貴方、今、私にまで毒づきましたか?
ノーランは私の頭をクシャクシャと撫でてから部屋を出ていってしまいました。
「なぜ髪をかき混ぜるのですか!」
何だかノーランが変わってしまいました。私に対して遠慮がなくなった?そんな感じです。
そして、執事というよりも私の侍従のように側にいるから困ってしまいます。
『馬鹿が多すぎるから仕方がありません』
そう言って憚らないのですよね。
まあ、理由は私が一部の使用人にとっても嫌われているからです。
旦那様効果は思ったよりも強かったようで、お屋敷にいてくださった今までは何も言わずに遠巻きにしていた方達が、ダイアナ様をお迎えに行ったと知った途端に敵意を剥き出しにしてきたのです。
『やっぱりダイアナ様以外の奥様なんてありえなかったのよ』
『ユーフェミア様達をおかしな呼び名でよんで』
『偽物のくせにえらそうに』
聞こえるように嫌味を言ってくる勇気に思わず拍手してしまいそうです。
そもそも奥様役だと伝えていましたし、えらそうにした覚えはないのですけど……ああ、もしかしてドレスを買って頂いたのがいけなかったのでしょうか?
ですが、あれは必要経費ですもの。交流会のために仕方なく──
ドンッ!
「っ痛」
……信じられません。弾き飛ばされました。やっと手首が完治したばかりですのにっ!
「邪魔よ。あなたと違って私達は仕事がたくさんあるんです。タダ飯食いの厄介者は邪魔にならない場所にいたらどうですか」
「ちょっと止めなさいよ。そんな人のせいで罰せられたら馬鹿らしいわよ」
「そうね、そんな価値もないわね」
………ははっ、何でしょうねコレ。
「ダイアナ様は本当に素晴らしい方なのよ。貴女なんかが代わりになれるわけないんだからっ!」
それだけ言うと鼻息も荒く私を睨み付けながら去っていかれました。
「……私にどうしろというのかしら?」
「反撃しろと言いたいですね」
え、ノーラン?!ヤダな、振り向くのが怖いような不穏なオーラを感じます。
「いつまで床に座り込んでいるんですか」
ほら、と手を取られ、立ち上がらせる。その、同意を得ずに勝手に触れてくるのは如何なものでしょう。
「最近のノーランは私に対して無礼ですよ」
「貴方が何度言ってもご自分を大切になさらないので仕方がありません。さきほどのメイドの発言はメイド長に報告しますから」
「そんな、」
「形だけだろうが何だろうが、今の貴女は伯爵夫人です。それなのに、あのように悪しざまに罵ってくるなど許すわけにはいきません。
そもそも文句があるならば旦那様に言うべきでしょう。貴女にはどうしようもないことだと分かっているはずなのに卑怯なんですよ」
ノーランが正しすぎて反論できないから悔しいです。
「……でも、タダ飯食いなのは本当ですよ」
「旦那様のせいでしょう?お二人を連れていかずにダイアナ様をこちらに連れてこればよかったんだ。
貴女だって当事者なのに、除け者にしている今の状況がおかしいんですからね。
ミッシェル様は旦那様の言いなりになってはいけませんよ」
一つの言葉に倍以上のお小言が返ってくる最近のこの状況が、うんざりするような、でも、こんなにも考えてくれてるのだなと思うとくすぐったいような。
「……善処します」
「言いましたね?」
「もう、ノーランは私のお母様ですか」
「せめてお兄さんにしてください」
なるほど。兄がいたらこんなふうに守ってくれたのかしら。




