表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/50

43.その聖女、主導権を取られる。

 アルの部屋のベッドに2人で並んで腰掛ける。初めてこの空き部屋をアルにあげてからもうすぐ1年。物はないけれど、そこかしこにアルの気配を感じる。

 ほとんど立ち入ることのなかったここに今自分がいることが不思議で、ここがアルの部屋だと意識して私の心音が早くなる。


「シア、本気?」


「冗談でこんな事言わないわ」


 首筋が見えるように髪を結い直した私は、アルに問われて迷わず頷く。


「解呪の条件は、満月である事、満月であってもアルが普段通り動けること、私が呪いに負けるくらい魔力が弱っている事、私が呪いに負けて死神に殺された後アルが死神を倒せる事、仮死状態の私を私の聖女の力を入れた古術式を発動させて蘇生できること、これらを全部満たす必要があるわ」


 次の満月まであと一週間。

 次の満月に呪いを強制的に発動させ、死神を呼び決着をつけようと2人で決めた。 

 呪いを成就させるためには、私は一度死ななくてはならない。とはいえ、本当に死ぬわけではなく、仮死状態に留めるつもりだ。

 そのためには、私の強過ぎる魔力と聖女の力を削らなくてはならない。そしてアルが動けるためには、魔力が必要だ。


「一番効率良く条件を満たすには、アルが私の魔力と神気を喰べること、だと思う。時間もないし」


「そう、なんだけど」


 アルは歯切れ悪くそういうと、私の提案に難色を示す。


「俺は、シアを傷つけたくない。絶対痛いと思うし。泣かせるのも怖がらせるのも嫌だし」


 目を伏せたアルは私の首筋をそっと指先でなぞる。とても大切な物でも触るかのような優しい手つき。

 私が傷つかないように、いつも爪を短く整えて、外では手袋をはめているその指を見ながら私は笑う。


「怖くないよ、アルだから。知らない魔族に喰い荒らされるのは2度とごめんだけど。まぁ、痛いのは我慢するよ」


 なお決心がつかない様子のアルに、私は仕方ないなと苦笑して身体を預けて寄りかかる。


「アルは私の事、嫌い?」


「シア?」


 昔受けたレクチャーを懸命に思い出しながら、まさか実践する日が来るとは思わなかったなと内心でつぶやく。


「ねぇ、私のこと食べて?」


 小首を傾げて、上目遣いに。オッケーをもらうまでにめちゃくちゃ何度もリテイクを喰らったからできているはずだと自信ありげな私の頭上にアルから鉄拳が落とされた。


「いったぁ。なんで怒るの?」


「あざとい。意味違うし。他所で絶対やらないように。あと誰に習ったの?」


 詳しく教えて? と笑顔で怒るアルの顔が怖くて思わずベッドに正座し背筋をピンと伸ばした私は、


「昔、お世話になった娼館のお姉様方に」


 と勇者様御一行に連れて行かれた経緯まで洗いざらい吐いた。


「うちのシアに余計な事吹き込みやがって。今度会ったら勇者吊し上げる」


 やばい、魔王が勇者にお怒りだ。私、この場合どっちについたらいいんだろうとそんな事が一瞬脳裏を掠めたけれど、面倒になったので次がない事を祈ることにした。


「シア」


 俯いた私の事をアルが優しくそう呼んで、腕を伸ばしてくる。先程怒られたばかりで正解が分からず戸惑う私を、自分の膝に乗せたアルは、


「なるべく、痛くしないから。怖かったらいつでもやめるからちゃんと言ってね」


 と、優しい口調でそう言った。

 怖くない。その気持ちに嘘はなかったけれど、首筋にアルの顔が近づいて来た瞬間、どうしても子どもの時の光景がチラついて、私はぎゅっと目を閉じた。


「……アル?」


 いつまでもやって来ない痛みに私はアルの事を呼ぶ。アルはそのまま私に牙を立てたりしないで、首筋に顔をうずめて私の事を抱きしめる。


「……シア、すごい心拍数。怖い?」


 いつもより少し低い声で、アルが耳元で囁く。心配そうなアルの声になんだか落ち着いた私は、


「少しだけね。でも、今平気になったみたい」


 とアルの黒髪をそっと撫でた。触り心地のいい髪がさらりと指先を抜ける。それがとても私を安心させて、何度もそうやって髪を撫でた。 


「アルの髪好きだなぁ」


「髪だけ?」


 顔を上げたアルの紅茶色の瞳が私を覗き込む。


「アルの笑った顔が好き、あと優しいところも、心配症なところも、ちょっと寂しがり屋なところも、全部好き」


 もう、次の満月が終わったら2度と伝える機会はないかもしれない。

 そう思ったら、自然と言葉が溢れていた。


「……それだけ言っておいて、さっきの返事、俺に言わせてくれないの?」


「それは解呪できてからで」


 そう断った私に、少し不満気なアルは、


「ずるいなぁ、シアは」


 そう言ってコツンと私と額を合わせた。


「俺も自分の気持ち言っておきたかったんだけど、シアが言わせてくれないから、態度で示しとくね?」


 そう言ったアルは私の首筋に唇を寄せる。チュッと音を立てて、アルは私の首筋に口付けを落とす。


「えっと、アル?」


 魔力と神気を喰べるのって確か血を吸うのと同じだった気が、と言いかけた私を見る紅茶色の瞳があまりに色っぽくていつもと違うアルに言葉を失くす。

 ふっと笑ったアルは、言葉を失くした私をしばらく見つめたあと、私に見せつけるように首筋からその周辺にかけて甘噛みをしたり、舐めたり、キスをする。

 静かな部屋に音が響いて、のぼせたように耳まで赤くなった私の顔を見てアルは満足そうに、


「伝わったようで良かった」


 と囁いた。


「か、揶揄わないで、よ」


 涙目になっている私の目を覗き込んだアルは色っぽく笑って、


「真剣だよ? あとこんなんじゃ全然伝え足りないから」


 そう言って私の唇を指でなぞる。アルの顔が近づいて来て、私はそっと目を閉じる。

 とても優しい口付けの後、


「シアの魔力と神気もらうね。この続きは、解呪した後、ちゃんと言葉で伝えてからね」


 と頭を撫でられた。そのあと魔力も神気も抜かれたが、さっきまでの刺激が強過ぎて思考がダウンしていた私は、痛みも恐怖も感じなかった。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ