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40.その聖女、打ち明ける。

 もうすぐ満月の夜がやってくる。その前にアルとちゃんと話がしたい。

 私はシェイナにアドバイスをもらった可愛く見える服を着て、髪も頑張って編み込んで整え、化粧をした気合いの入った女の子としてアルの部屋の前に立つ。

 コンコンっとノックをすると、すぐ開けてくれたアルは私を見て固まった。


「……今、時間取れる?」


 緊張とアルの反応が怖くて、俯きそうになる自分を叱咤して、私はそう尋ねる。


「大丈夫だけど、どうしたの? その格好」


 すごく可愛いとアルがふわっと表情を緩ませる。それがとても嬉しくて、私も釣られて笑う。


「デートのお誘い。風邪引いた時、デートしてくれるって言ったの、まだ有効?」


「いいけど、今から?」


 アルの答えにほっとした私は、アルの袖を子どもみたいに引っ張って、


「今から夜の散歩、どうかなって」


 話したい事があるのと告げれば、アルは少し待っててと部屋に戻って、数分で準備を整えて出てきてくれた。


「これ羽織って。外は寒いから」


 ふわりとショールを肩にかけてくれたアルにときめきながら私はお礼を言うと、アルから手を差し出された。

 アルの顔と手を交互に見ていたら、


「デートなんでしょ?」


 と笑って、当たり前のように手を繋がれた。手なんて何度も繋いだ事があるのに、いつもと違う格好とデートという響きに私の心拍数は否が応でも上昇する。


「ふふ、照れてるシア可愛い」


 揶揄うようにそう言ったアルは、私の髪型が乱れないようにそっと撫でて、


「俺も話したいことがあったから」


 と、静かに笑ってそう言った。ここ最近距離を置かれていたのが嘘みたいにいつも通りで、それが余計私の心をざわつかせた。

 

「行こうか?」


 アルにそう促されて、私達は夜のデートを始めた。


 外は散歩するにはまだ肌寒くて、澄んだ空気のおかげで星がとても綺麗に見えた。


「もうすぐ満月だね」


 随分大きくなった月を見上げて私はアルに話しかける。


「うん、そうだね」


「私、子どもの頃満月の夜がずっと待ち遠しかった。満月の夜はアルに会える日だったから」


 ゆっくり話し出した私の話にアルは耳を傾けてくれる。アルの柔らかい雰囲気も拙い私の話をちゃんと聞こうとしてくれるところも子どもの頃と変わらない。


「私ね、アルに言ってなかった事があるの」


 子どもの頃の話なんだけど、聞いてくれる? と尋ねるとアルは紅茶色の瞳を瞬かせて頷いた。

 私が記憶を全部取り戻した事を悟ったのだろう。アルの顔が少し陰ったのを見て、私はアルの頬に手を伸ばす。


「これはアルにずっと謝りたかった私の話」


 そう前置きをした私は懺悔をするように、子どもの頃の話をはじめた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 アルが満月の晩に私と遊んでくれるようになって、2年は経っていたと思う。

 アルは会うたびに"また大きくなった"なんて、親バカみたいなこと言うけれど、私は相変わらず小さく痩せて幼く見える、貧相な子どもだった。

 この頃のアルは多分今と同じかそれ以上に、私に対して親バカフィルターがかかっていた。いつも私のことを愛で倒す母と同じ目で私のことを見ていたから。


『いい? シア、母がいない時はなるべく地味な格好していてね。あなたの髪と顔立ちはここでは少し目立ちすぎるから』


 そう母が言っていたことの意味を理解し始めたのは、知らない人から声をかけられる機会が増えたからだと思う。

 子どもが消える事は、貧民街では珍しいことではなかったけれど、私の見目はどうやら金になるらしかった。

 そんなことを大人が話しているのを聞いてから、私はより一層目立たない容姿になることを心がけていた。

 それでも誰かの目に留まる事はあったけれど、幸い私はおいかけっこが得意な方で逃げ足は早かったし、アルに無理矢理教え込まれた護身術もなかなかに役にたった。


 この頃の私は、まだ自分が魔力を持っていることを知らず、ましてや自分が聖女だなんて知らなかったけれど、なぜかヒトとそれ以外を見分けることができていた。

 そして、ヒト以外のヒトに扮したその人たちは何故か私に水を注いでもらいたがった。

 たった一杯、それも自分の持参した水を注いでくれないかと頼む。望みを聞いてやるととても大事そうにお礼を言ってそれを持って帰って行く。気に留めるほどのことではない、ただそれだけの事だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「何をしていたのか、今ならわかるわ。アルは何度も聞いてくれていたのにね"変わりないか?"って」


 私が注いだ水に宿った神気を摂取していたのだろう。

 つまりこの頃にはもう、私が聖女だと言う事も、その居どころも、そして本人が自覚していないと言うことも、魔族側にはバレていたのだ。

 

『シア、身の回りで変わったことは起きてない? 変なのに絡まれたりとか』


『アルって心配症ね。何もないったら』


 アルは私の髪を撫でながら、いつも心配そうに私にそう尋ねてくれていた。

 この時点でアルに伝えられていたら、あの日は来なかったのかもしれないと今なら思う。


「ごめんなさい、私が浅はかだったの」


 いつだって優しく私の事を気にかけてくれるアル。私のことを売り捌こうと追いかけてくる人間なんかよりずっと、魔族は優しい存在だ。

 いつの間にか私の中にそんな刷り込みのような構図が出来上がっていた。

 アルの仲間かもしれない誰かを疑うことは、アル自身の事を疑うような気がして、アルを悲しませたくなくて、私は私のもとを訪ねてくるヒト以外の存在についてアルに口外する事はなかった。


「俺が教えなかったからいけなかったんだ。俺がシアに近づいた目的も自分が魔力を持っていることも知らなかったシアが悪いわけないだろう?」


 アルはそう言って私に非はないと首を振る。


「俺が、願ってしまったんだ。もしも、シアが聖女じゃなければって。いつの間にかシアといるのが、楽しくて。あの時間が手放し難くて。シアの事を思うなら、早く離れるべきだったのに」


 後悔を馴染ませたアルの声を聞きながら、それでも楽しかったと言われたことが嬉しくて、なんだか泣きそうになった。

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