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22/50

22.その聖女、噂される。

◆◆◆◆◆


 首都にあるとある酒場でノエルは酒を飲みながら、向かいに座るダークブラウンの髪の青年をチラッと見る。

 自分とは違い、上品に酒を飲みツマミを運ぶその様はとても貴族らしく、ここが酒場ではなく高級な食事処ではないかと錯覚しそうだ。


「それで、僕らの可愛い妹分のシアは元気にしてたの?」


 帰還したばかりの勇者様が怒り狂って王城から出て行ったときはどうなるかと思ったよと苦笑気味に笑って、青年はシアの様子を尋ねる。


「ラウル。大賢者がついていながら、なんでセリシアを最果てになんか追いやったんだ」


 かつてともに魔王を討ち取った仲間である大賢者に恨めしげにそう漏らす。


「ああするのが、一番確実にシアを逃してやれたんだから仕方ない。この国にシアは勿体ない」


 キッパリ言い切ったラウルは新しい自称聖女のワガママっぷりに手を焼く神官たちにざまぁとつぶやいて、酒を飲んだ。


「首都の結界壊れたらどうする気だよ」


「今まで散々シアをこき使ってくれたんだ。死ぬ気で修復してもらうよ。それに、最果てにシアがいるなら、多分国は安泰。シアは放っておいても勝手に瘴気浄化しちゃう子だから」


 働き者さんめっとデレっとシアを愛でるラウルを横に見ながら、それだけ可愛がってる妹分をよくあそこまで追い詰めたなとノエルは呆れた様に肩を竦める。


「それで、シアはどうだった?」


「先代の魔王に憑かれて、養われてた」


 と現状を報告する。


「本人? 生きてたんだ」


 少しばかり眉が上がり、素直に驚いたように感嘆を漏らしたラウルは、パラパラと手持ちのメモをめくる。


「本人らしい。ちなみに生姜焼きが絶品だった。あと今度釣り大会するらしい」


「お前、マジで何しに行ってきたの!?」


「観光」


 キッパリ言い切ったノエルは、ラスティでの日々を思い出す。


「先代魔王って、先代の聖女殺しってなってるけど、アレは本当なのか?」


 シアと接する彼を見る限り、とてもそうは見えなかった。

 それどころか、むしろ聖女を守っているように見えた。


「そもそも、セリシアは本当にノートン伯爵の娘なのか? 俺が漁った範囲でノートン伯爵の家系にセリシア以外の聖女は存在しなかったんだけど」


「記録上、シアの母親は間違いなくノートン伯爵家でメイドとして働いていたし、彼女が追い出された時期とシアが生まれた年は一致する。が、それだけ。あとはノートン伯爵の自己申告だし、平民出の孤児が聖女であることをよしとしない身分主義者たちの思惑もあって、ノートン伯爵の家系が聖女の血を継いでるって発表されてるけどね。僕は、聖女の血を受け継いでいたのは母親の方じゃないかと思ってる」


 ラウルはメモを見ながら声を顰めてそう解説する。


「先代魔王アルバートが魔ノ国を治めていた時、人間側が攻めて行って返り討ちにあった記録はあっても魔族側から襲われた記録って、実はないんだよね」


 公式発表は全部魔族のせいってなってるけど、よく魔王の怒りを買わなかったよねとラウルは肩を竦める。


「そんな辻褄を合わせるように聖女を単身で生贄とした差し出して、彼女は公式的に死亡したことになっている。それで、まぁうちの国の聖女の血筋が失われたハズなのに、百年経って聖女が見つかったと。面白い話だよね。ぜひ僕も本人から真相が聞きたいなぁ」


 生姜焼き好きなんだよねと上品にツマミを口に運んで咀嚼したラウルは、手帳をパチンと閉じた。


「あ、じゃあ俺も釣り大会に参加しに一緒に行く!」


「ダメ。2人で行ってシアが生きてるのバレたらどーすんの。ただでさえ今シアがいなくなった穴埋めで王城てんやわんやなのに、バレたら連れ戻されるでしょうが。せっかくシアの孤児院もスポンサー見つけてノートン伯爵家から切り離したのに」


 すぐさまノエルにダメ出しをしたラウルは、


「そんなわけで、勇者様はお留守番よろしくねー」


 カランと氷の音を立ててグラスを見つめながらそう言った。


◆◆◆◆◆

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