表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/50

19.その聖女、懺悔を促す。

「ギルドマスター、すみません」


 ドアの外で切羽詰まったような声がして、シェイナはドアを開ける。

 姿を現したのは、私も見かけたことがあるギルドのアルバイトの女の子だ。


「一階でトラブルがありまして」


「トラブル? 一体何が?」


「実はS級ランクの冒険者さんが暴れていて。アルさんが止めてくれているんですが、ヒーラーの子が怪我をしているみたいでっ」


「シェイナ、私が出るわ」


 私は整えてもらった格好が着崩れないように注意しながら歩く。


「セリシア様、S級ランクが暴れていてはお怪我をされるかもしれません。怪我人回復のためにもセリシア様はここに残って」


「だから私が出るの。せっかく可愛くしてもらったんだもの、閉じこもっているなんて勿体無いわ」


 シェイナの静止を遮って、私は慣れない高いヒールを鳴らして歩く。ああ、これなんかの訓練に似ているかも。体幹鍛えられそうと変なことを考えながら私は笑う。


「いろいろ教えてもらったお礼に、すぐギルドを静かにしてあげるわ」


 そういい残して、私は1階に向かって走り出した。


 階段を飛び降りた私の目に入ったのは、ギルドのエントランスで両手に武器を嵌めた屈強な大男を中心に柄の悪い人相をした様々な武器を持った男女が5人。視線を流した先にアルとその後ろに震えるように疼くまる女の子の姿を目で確認した。


「おいおい、うちのパーティの貴重な回復職なんだ。返してくれよ」


「女の子怪我させといて何いってるんだか。嫌がってるし、この子オタクらのグループ抜けたいんだってよ」


 大男からの圧などまるで効かないとばかりにアルはにこやかに対峙する。


「お前みたいにナイト気取りの優男って言うのが一番ムカつくんだ。女にきゃーきゃー騒がれて、いい気になるなよ。弱ぇくせに、捻り潰すぞ」


「アル、怪我してるのってその子?」


「ちょうどよかった、シ」


 私を見たアルの言葉が途切れる。


「シ……ア?」


「なんで疑問系? 私だよ」


 まぁ自分でもびっくりするくらいいつもと違うから気持ちは分かるけど。

 私は震えている子に近づいて様子を見る。腕が、ありえない方に曲がっていた。


「なんで、この子こんな怪我をしているの?」


 一応、事実確認は必要かなと思い聞いてあげる。


「はっ、守られているだけの後衛職のくせに俺様の方針にたてついたから躾けてやっただけだ。その程度、自分で治せるだろ。回復魔法使い(ヒーラー)なんだから」


「方針?」


「……無理に、決まっていますっ。勇者様もいないのに、20階層なんて! 私、死にたくないっ」


 震えていた女の子が涙を流しながらそう訴える。私は両者に視線を滑らせて状況を察してため息をつく。


「おいおい、俺は勇者と同じS級ランクに昇格した冒険者だぞ? 勇者にできることが俺にできないわけないだろ? お前は黙って回復してりゃいいんだよ。それしか能がないんだから」


 もう十分だ。これ以上の話を聞く価値はないので、私は片手でしっしっと大男に手を払い、片手で女の子に触れる。私が触れた箇所が一瞬光り、次の瞬間には元通りの腕に戻っていた。


「ほう、お前も回復魔法使い(ヒーラー)か? じゃあ、お前をそこのクズの代わりに俺様のパーティに」


「ねぇ、他に痛いところは?」


「あっ、大丈夫です。ありがとうございます」


「いいのよ。本来なら有料なのだけど、ギルドマスターに感謝してね」


 私は大男をガン無視で女の子と話を進める。


「おいっ、無視してんじゃ」


「シアに触るな」


 それまで大人しくしていたアルが私に手を伸ばしてきた男の腕を掴み捻り上げる。


「そんなゴリラ放って置きなさい、アル」


 私はアルに手を離すようにいい、後ろに下がらせる。

 アルに掴まれていた男は軽く押されただけなのに、後ろに尻餅をつく。驚いたような顔をして、そして顔が怒りで赤く染まっていく。


「貴様らっ!! 俺が誰だか分かって」


「ゴリラ、うるさい。ねぇ、アル。他に怪我した人はいない?」


「今のところはいないよ。あとゴリラ呼びはゴリラに失礼だよ」


 見惚れるくらいキラキラした笑顔でそういったアルの頭を私は背伸びをして撫でてあげる。


「そっか、みんなを守っててくれたのね。えらいわ」


 アルに危ないから後ろに下がってみんなのこと避難させてねとお願いをするとやや不満そうな顔をしたアルは渋々頷いた。


「おいっ、無視するんじゃ」


「何度も言わすな。うるさいっ」


 私は両手に2丁の銃を出現させる。


「あんた達みたいなアホは腐るほど見てるのよ。特に勇者様が通った後はね」


 そう、私はこういった勘違いさん達を腐るほど見てきている。主に勇者様(ノエル)のせいで。


「たかが回復要員が俺たちに敵うとでも」


「そう言う御宅はいいから、もう全員まとめてかかって来なさいよ。面倒臭い」


 私の呆れたようなため息に腹が立ったらしい大男とその愉快な仲間達は一斉に襲ってくる。まぁ、来いとはいったけど素直ですこと。

 私は向かってくる冒険者達を躱わしながら、タイミングを見計らって銃で思いっきりぶん殴る。


「遅っ」


 単調な攻撃をヒラリヒラリと躱して、人体の急所のツボをヒールで踏みつけ、ひとりずつ意識を保ったまま神経を麻痺させて床に積み上げていく。


「ヤダ、私まだ魔法すら使ってないわ。コレじゃあ準備運動にもならないじゃない」


 両手でそれぞれの銃をクルクル回しながら、呆れたようにため息をつく。ちょっと前までノエルの鍛錬に毎日付き合っていたから物足りない事この上ない。


「……舐めやがって」


 自称S級ランクの男が武器を構えて、武器に魔法を纏わせ空気を殴る。

 圧縮された空気の塊が私に向かって続け様に放たれた。


「この技を喰らって」


 チャキっと銃を構えた私は、放たれた魔法を読み解き発動している魔法式を連続で撃ち抜き無効化させる。


「喰らったら、どうなるのかしら? まぁ、届かないけど」

 

 コツコツコツと足音を立てながら、わざわざ私以外を狙ってくれた空気砲も全て撃ち落とし、全ての技を無効化しながらS級男に近づく。


「ちなみに、私の銃って私の魔力が尽きない限り弾切れしないから」


 私は足を止めてS級男の眉間に標準を合わせて銃口を向けた。


「この距離なら外さん」


 そう言った瞬間、近距離でS級男は重力魔法を発動させたので私は口の中で結界魔法の一文字目を転がす。

 次の瞬間、ゴギッと骨が砕ける音がした。


「がぁぁあー、俺の……腕がっあぁぁああ」


「どう? 自分の魔法が跳ね返る気分は」


 魔法を跳ね返した簡易結界を消した私は、S級男の両腕が共に明後日の方向を向いているのを確認し、両足を光の矢で貫いて床に縫い留めた。


 私の前に跪いたS級男の額に銃口を突きつける。


「私、これでも元聖職者だから懺悔させてあげるわ」


「何を、偉そうに」


「アンタの罪は大きく3つ」


 肩で息をする男を前に、私は教会で人前に立たされたときのように笑顔を浮かべ淡々と言葉を紡ぐ。


「その1。貴重な回復職を傷物にしたこと。アンタさっき後衛職や回復要員をバカにしてたけど、アンタ達みたいなのがバカスカバカスカ魔力や体力削っても無事に帰って来れるのは、自分の身を守りながらフォローしてくれる存在のおかげだってこと、まずは理解なさい」


 回復職は自分で獲物を討伐するという大きな功績は確かに少ないかもしれない。だけど、けして安全圏内で大人しく守られているわけじゃない。他人を回復させながら、自分の残りの魔力を持たせなければならない回復要員は実はかなりハードだ。


「その2。勘違いで仲間を危険に晒そうとしたこと。勇者様に引っ付いて行った結果、ランクアップしただけの奴が粋がるな。実力以上の所にいくのは死にに行く様なものよ。自殺ならひとりで行きなさい」


 まぁ、これに関してはノエルにも責任があると思っている。あの人は一人でダンジョン最下層まで潜れるくらい強い。

 が、安全確保の規定上潜るには複数人数が必要なダンジョンがほとんどで、ノエルは相手の実力など構わず声をかけてきた人間誰でも連れていく。

 勇者についていくだけで参加者全体に経験値が配布されるため、結果大幅にランクアップを果たす人もおり、自身の実力を見誤る。


英雄願望症候群(勇者の代理成功体験)って私は呼んでるんだけど、勇者様と冒険するとまるで自分まで強くなったって錯覚しちゃうのよね。バカみたいに魔獣吹っ飛ぶし、サクサク攻略していっちゃうし」


 私はノエルの仲間だったから知っている。あの人の強さは本物で、圧倒的だ。


「勇者様は大抵自分一人で大丈夫だし、誰も死なせない自信があるから、誰とでも組むけど、アレは規格外だから。S級ランクにも段階があるの。ギルドの簡易測定じゃそれ以上出ないってだけでS級ランクってだけで自分と勇者を同一視したら一瞬で詰むわよ。現にS級ランクの回復職の私に手も足も出ないじゃない。自分の実力を測れないなら冒険者なんてやめてしまえ」


 ノエルと本気でパーティを組もうと思ったら努力し続けられる人間しか残れない。

 そして強制的に勇者パーティに入れられ、ノエルに鍛えられた私はS級に上がるまでに何度死にかけたかもはや覚えていない。


「その3。うちの子(アル)への暴言は一切許さない。平伏して詫びなさい」


 私は罪状を上げ終わると、男の足を床に縫い留めていた光の矢を消す。私の威圧感に当てられたS級男は支える腕もないためそのままどさっと床に崩れ落ちた。


「ねぇ、A級までは自力で上がったんでしょ? 今回はオイタが過ぎたようだけど、元聖職者らしく、悔い改める気があるのなら救済してあげてもいいわ」


 私は銃で男の顔を持ち上げて私の方を向かせる。


「悔い、改める……?」


 虚な視線を私に寄越した男に私は聖女よろしく微笑む。


「そう、誰にでも間違いはあるもの。潔く謝るならば許しましょう。さぁ、選んで?」


 私はいつもそうするみたいに、相手の目をじっと見つめ問う。

 聖女に赦しを乞うか、それともセリシアに裁かれるか。


「……申し訳、ありませんでした」


「ええ、助けてあげる。奉仕の精神を身につけるといいわ。ちょうどボランティアを探していたの」


 そう言った私は両腕を治した直後に銃で男を撃ち抜いた。ついでに床に転がしておいたこの男の仲間たちも。

直後、ギルド内に絶叫がこだました。

 私のこの特殊な回復魔法は、潜在的に溜まったダメージを強制的にデトックスする。その代わり、かなり痛みを伴う。お仕置きとしては打って付けだろう。


「最大出力で痛くしといたから、まぁデトックスが終わったらその性根も少しはマシになってると良いわね♪」


 まぁ、人格矯正ができるかは知らないけどれど。

 銃を消失させてパンパンと手を払うと、遠巻きに私を見ていたシェイナに笑いかけ、終結を知らせた。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ