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15.その聖女、乗せられる。

 カフェは想像以上に大繁盛で、連日お客で大賑わい。まぁ、ひとつ誤算があったとすれば、


「今日の日替わり追加、大盛りで!」


「いや、あんたそれ何回目よ!? ちゃんとお金持ってるんでしょうね?」


 勇者様が1匹、うちのカフェに居着いたことだろうか。


「いやぁーでもおかわりしたくなるのわかります〜。スイーツセット、オレンジジュースでお願いします。支払いは勇者様にツケで」


 なぜかノエルと相席しているシェイナはメニューを恍惚な表情で眺めて、注文をオーダーした。


「ていうか、ギルドマスターがサボっていいの? ヒト足らないんじゃなかったの? あとうちツケ払いやってないんで、どっちでもいいけど、ちゃんと払ってよね!」


「大丈夫です〜みんな勝手にエントリーして勝手に討伐して勝手に申請してくれるんで」


 いつの間にかギルドはセルフシステムになったらしい。


「それは……大丈夫……なの?」


「ふ、ふ、ふ、なーんと勇者様がラスティに来てくださってから勇者様に憧れていたり知り合いだったりするA級以上の冒険者が続々とラスティに押しかけてきていて、魔獣討伐だったりダンジョン攻略だったりを勝手に繰り広げてくれてるのですよ! 中間マージンの収益でギルドうはうはです〜。最新設備も勝手に投入しちゃいました!!」


 いやぁー有名人いると違いますねとシェイナはホクホク顔だ。ラスティ全体が潤っているようで、それはそれで喜ばしいのだが。


「おかわり」


「食べるの早いわっ!! もう、アルががっつりメニューなんて入れるからっ!!」


「シアが食べたいって言ったんでしょう? まぁ俺としてはまかないのつもりだったんだけどね」


 女性ターゲットメインのゆったり、まったりカフェの予定だったのに、勇者様が1匹居着いたせいで、女性そっちのけでランチタイムは冒険者やギルド職員が押し寄せる。

 可愛い癒やし空間を予定していたのに、むさ苦しいことこの上ない。


「まぁ、良いではないですかぁ〜。この時間帯を除けばアル様目的の女子達が入れ替わり立ち替わり訪れているわけですし」


 本日のスイーツのスコーンを食べながら、シェイナはおかしそうに話す。


「はぁーそれにしても御身にかけられた呪いまで解いてしまわれるなんて、流石聖女様。仕事をしないといいながら、ついうっかり働いてしまう社畜体質。すばらしいです〜」


「あーハイハイ。そーですね」


 言われ過ぎてもはや否定する事の方が面倒になってきたその揶揄いに私は適当な相槌を打った。

 アルがいきなり大きくなってしまったことを町の人達にどう説明しようかと悩んでいた私をよそに、アルは『聖女の神聖な回復魔法で、呪いが解けた』などと若干芝居がかった口調で説明した。

 いや、誰が信じるのそれ? って思った私のツッコミは空振り『流石聖女様だ』とあっさり受け入れられてしまった。

 戸惑う私に、


『疫病からの一瞬で全回復だっけ? 一度奇跡を目にしたら何でも信じちゃうのが人間って生き物だよね』


 と、とてもいい笑顔で、アルはそう言った。アルは案外私が思っている以上に強かで腹黒いのかもしれない。


「おやおやおやー照れなくても良いではないですかぁ。聖なるものに逆らえない女子の略なら間違いなくセリシア様は聖女ですよ〜」


 ふふっと、シェイナは間延びした声でそう笑う。アル様キラキラしてますものねと私を見ながら楽しそうに付け足す。


「いや、セリシアの聖女は、聖なる力ですべてをゴリ押す女の略だろ」


 とノエルはそう訂正し直した。


「よし、分かった。ケンカね! ケンカを売りに来たのね!! 高値で買って安売りしてあげるから2人ともまとめて表へ出ろや」


 この2人が揃うとなんだかとても腹が立つ。私は2丁の拳銃を表出させて、2人に向かってそう叫ぶ。


「はいはい、そこまで。こんなでもお客さんだから、シアもあんまり騒いじゃだめだよ」


 コトっと小さな音を立てて、アルは私の目の前にプリンを置く。


「新しいの、試作してみたから食べてみて」


 アルがニコッと微笑んで、スプーンを渡す。


「はわぁぁー。もうこれ絶対おいしい確でしょ!」


 私の機嫌は秒で改善され、出されたプリンを素直に食す。プリンはとてもなめらかで口の中でトロリととろけて、幸せしかなかった。


「シアは本当に何でもおいしそうに食べてくれるよね。作りがいがあるよ」


 アルはクスクスと笑いながら、おかわりいる? と聞いてくる。私は両手を挙げて全力でプリンをねだる。

 そんな私たちのやりとりを見ながら、ノエルは、


「セリシア、お前このカフェにいる? お前がここで働いてるの見たことないし」


 とちょっと私も気にしてた事をズバッとのたまった。


「まぁ確かにセリシア様は、食事を作られているご様子もないですし、ウェイトレスもされてませんよね。何しに来てるんですか?」


 ほぼ常連のシェイナにもそう指摘を受ける。うん、キッチンもホールもアル1人で全然回せてるから、私の出番がないなぁと私自身も思ってた。


「わ、私オーナーだからっ! メニュー一緒に考えたりとか、営業の状態チェックしたりとかしてるもん」


「それ、黒髪1人いたら足りるくね?」


 一番気にしてたこと言われた。うすうす気づいていたけど私、多分役に立ってない。発案しただけで、ラスティに来てからほぼアルの働きだけで生きている気がする。


「シアはそこにいてくれるだけで、俺が頑張れるから。こう、心の清涼剤みたいな?」


 アルはキラキラ眩しい微笑みを浮かべて言い切ったけど、それは多分フォローになってない。


「セリシア、お前聖女やめたらただの紐じゃん」


 ノエルにそう言われ、返す言葉が見当たらない。うん、確かに現状を正しく客観的に見れば、養うどころかぶっちゃけ養われている。


「シアは居てくれるだけで良いんだけど、お茶入れてくれたり、コーヒー入れてくれたり、ホットミルク入れてくれたりするからそれだけで俺的には十分かなって」


 アルが照れながらそういうけれど、できたら言わないで欲しかった。そして実感する。私の存在価値、飲み物の準備のみか、と。


「いやぁーアル様はできた嫁でいらっしゃいますねぇ」


 アルが嫁。うん、なんかすごくしっくりくる。でもなんかそれはダメな気がする。


「ところでお伺いしたかったのですけれど、セリシア様の送りたかった"スローライフ"とは、このようなものだったのですか?」


 シェイナが小首をかしげて、私にそう問うた。


 確かに働かないとは言ったけど、ここまで誰かに依存するのはいけないと思う。もうヒトとしてアウトな気がする。


「そんなセリシア様に朗報です」


 黙りこくってしまった私の表情を見て、シェイナがニコっと微笑んでそう話を切り出す。


「ギルド主催で催しを開催しようかなぁと思っているんですがぁ、実行委員されません?」


 私は話についていけず、首をかしげる。


「ほらぁ〜今までラスティでは催しをやるほどの財力もなければ、余力もなかったわけなんですがぁ、今なら余暇活動できそうですし。それってなんだか、と〜っても、セリシア様の言うところの、スローライフっぽくないですか?」


 余暇活動とスローライフの単語に私はピクっと反応する。確かにすごくスローライフっぽい。何かそういうの、小説で読んだことがある。


「……ちなみに、何する予定なの?」


「まぁベタなんですけれども、釣り大会なんていかがかなぁと。それでぇ、賞品を調達して欲しいわけなんですよ」


 他にもやることは細々ありますけどねとシェイナは企画案を見せてくれる。


「……賞品」


「ラスティではなかなか手に入らないものがいいなぁと思っているんですが、私、個人的には、首都でしかお目にかかれないという、冷凍庫付き冷蔵庫なるものが欲しいです」


 冷凍庫付き冷蔵庫あると便利だそうですねとシェイナは私欲全開で賞品をねだる。


「アレ、かなり高いよね。私もほとんど見たことない。確か、維持するのに風の魔石と氷の魔石両方必要だって聞いたことがある気がする」


 うろ覚えの知識を思い出し、用意したはいいが、使えなかったでは困るのでシェイナにそう言うと、


「風の魔石も氷の魔石もラスティのダンジョンでドロップするアイテムですから、ギルドで販売取り扱ってますよ。冷凍庫付き冷蔵庫をもらった後、継続して稼働させることも可能そうですね」


 色良い返事が返ってきた。


「金銭面はともかく、冷凍庫付き冷蔵庫を取り扱ってくれる商会との取引かぁ。私はあてがないなぁ」


 何せ追放されてるし、何なら死亡扱いらしいし。うーんと唸る私に、


「紹介、してやろうか?」


 ノエルがにやっと笑ってそういった。


「ツテ、あるの?」


「まぁ、あちこち行ってるからな。ちょっと気になること調べに一旦首都戻るし、声かけといてやるよ。まぁ正当な取引ができるかどうかは、セリシア次第だけどな」


 ノエルの含みのある言い方は置いといて、


「首都に、帰るの?」


 確かに勇者がいつまでもひとつの場所にとどまっておくなんて普通はなかなかないけれど、突然の帰郷宣言に私は驚く。


「なーんだ? 俺がいないと寂しいのか?」


「言ってない。食べた分綺麗に精算してからどうぞお引き取りください」


 うっかり寂しいとか思いかけた気持ちをバッサリ捨てて、私はそういった。


「ツテ紹介してもらったとして、冷凍庫付き冷蔵庫って需要あるかしら?」


 みんなが喜ぶ賞品でなければ、意味がない気がするしなぁと漏らす私に、


「冷凍庫いいなぁ。氷貴重だし」


 とアルがそう反応した。


「アル、冷凍庫付き冷蔵庫、欲しいの?」


「うーん、俺も見たことないから分かんないんだけど、あると便利そうだなぁって」


 料理のレパートリー広がりそうと楽しそうにそう笑う。

 そのキラキラした笑顔がすごく可愛くてかっこよかったので、


「採用でっ。実行委員やるわ! そして釣り大会も参加もする。冷凍庫付き冷蔵庫は私がもらう」


 私は即決で実行委員を引き受けて、参加も宣言した。

 シェイナが、聖なるものに逆らえない女子ですねぇとニヤニヤ笑うのは見なかった事にした。

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