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第20話 物理で分からせましょう

 


「待て待て待て……待ってっ。ってお願いっ、聞いて!?」



 じりじりと後ろに下がりながら、ルイーザに向かって必死に止まってくれとアピールするものの……。



「ふんっ。聞く耳持ちませんっ」



 鼻であしらわれ、一蹴された。



 そして……。


「お覚悟なさいませ、クレイブ様……」


 そう言うと、今度こそ本気で逃げ出そうとするクレイグに向かって手に持った扇を、大きく振りかぶった。



「ルイーザ嬢!? な、何を?」


「ま、まさかそれを投げるのか!?」


「バカな真似は止めるんだっ。そんな事をしてなんになる!?」


「きゃぁっ、ルイーザさまったら怖~い!」



 二人のやり取りを唖然と見守っていたランシェル王子たちが、ルイーザの本気をみて慌てたように声を上げる。


 ひとりだけ、本気で怖いと思っているのかと問い詰めたくなるような、キャピキャピした女の声も混ざっていたが……。



 ――しかし今さら慌てても、もう遅い。



「天誅、ですわ――!!」



 彼女の手からは、ビュンっと風を切る音と共に勢いよく扇が放たれたのだから!



「わ、わ、わっ。わ、わわわ……っ!?」


「え、嘘でしょ!? て言うか本気だったの!?」


「クレイブ、避けろっ」



 スコーン――ッと小気味の良い音を立てて、逃げきれなかったクレイブの額に扇がクリーンヒットしたっ。



「ふぎゃう!?」


 直撃を受けて、バタリっと倒れるクレイブ。



(((ナイスショットですわっ、ルイーザ様!!!)))



 いけないと分かっていても、みっともなくひっくり返った男を見て思わず笑みがこぼれてしまいそうになる。


 それを必死にこらえながらも、鬱憤が溜まっていたシルヴィアーナ達は胸のすく思いがしたのだった。




「きゃあぁぁぁっ、クレイブさまぁ!!!」


 扇が当たる瞬間を間近で見たサリーナが、甲高い悲鳴を上げる。


 さすがにびっくりして涙も引っ込んだようだ。


 ……まあ元々、嘘泣きだったのだからどうということはないだろうが。



「クレイブっ、随分と良い音がしたが……だ、大丈夫か!? しっかりしろ!」



 ひっくり返った彼に、リアンが慌てて声を掛ける。



「なっ、なっ、ななな、な!?」



 ……ランシェル王子はとっさに言葉が出ないようだ……な、な、ななっ、しか言えていない。



 ルイーザのような完璧な淑女が、まさかそんな暴挙に出るとは思わなかったようで、目の前で起こった出来事が信じられないみたいだ。


 目を見開いたまま、固まっている。



(はぁ。予想外の出来事が起こるとパニックになる癖は直っていないようですわね、殿下……王族としては失格ですわよ)



 これまでは婚約者であるシルヴィアーナが隣にいて、彼が再起動するまでの間をさりげなくサポートしていたからこそ、目立たずに済んでいた悪癖である。


 彫像のように動かない、見た目だけは完璧な美貌の王子様を見つめて冷静に分析しながら、いつまでたっても成長しない彼に、ため息を吐きそうになるのを色々な思いごと飲み込んだのだった。






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