36:影
金眼の強さは暴走したレイルと同じくらいです
「ふざ…けるな」
痛みを堪えながらも立ち上がる、目の前にいる金の眼をした己の似姿たる存在を睨みつけて剣に魔力を流し込んで『崩牙』を発動させて斬り掛かる。
金眼も『崩牙』を発動させて応じる、黒刃が火花と魔力を散らして削り合う音が響き渡る。
「ふざけてなどいない、我は貴様から生まれた内なる影、貴様が奥底で成したいと、そうありたいと望んだものでもある」
魔力の衝突が拡大して互いに弾かれる様にして離れる、直後に金眼が放った『疾爪』を『扇尾衝』で砕きながら距離を詰める。
レイルが放った横薙ぎを仰け反ってかわした金眼は逆袈裟で剣を振るうもレイルはそのまま踏み込んで肩から金眼に体当たりを仕掛けた。
だが体当たりを受けた金眼はレイルの肩を掴むと頭を振りかぶって頭突きを叩きこんだ。
「がっ!?」
頭に火花が散ったかの様な衝撃と痛みが走る、金眼はそのままレイルを片腕で放り投げた。
「お前では勝てない」
金眼がレイルを見下ろしながら告げる、その瞳には人の情らしき光はなかった。
「人は弱い、人は脆い、人は愚かだ、くだらぬ事で他者を貶め苦しめ痛めつけ…挙げ句の果てにはそれを正当化してさもその脆弱さを正しきものだと主張する」
金眼が左手から炎を生み出す、炎は手の上で球体となって浮かぶとレイルに向けて放たれる。
咄嗟に剣で受けるが着弾と同時に爆炎が吹き荒れて更にレイルを吹き飛ばす。
「我等は違う、我等の体には捕食者の頂点たる竜の血が流れている、脆弱たる人から外れた我等はその様な愚を犯す事があってはならない」
雷を生み出した金眼が腕を振りかぶる、雷はレイルに向けて飛んでいき身構えたレイルの全身を走ってその身を焦がした。
「故に貴様は必要ない、その身が人から外れたと理解しながら人であり続けようする貴様では駄目だ、化物になる事を認められない簡単に揺らぐ脆弱な心を持つ貴様では荷が重すぎる」
金眼がゆっくりと片膝をついたレイルの下へと歩み寄る、すぐ傍まで来ると剣を振り上げた。
「今度は人たる貴様が影へと消えよ、我はどの様な事があろうと揺るがない、迷わない、立ちはだかる全てを薙ぎ払って我が道を進む、人ならざる我ならば成し遂げてみせよう」
剣が振り下ろされる…。
「…ふざけるな」
振り下ろされた剣を弾く、極限まで魔力を込めた拳を金眼の顔に向けて叩きこむ。
殴り飛ばされた金眼は地面を削りながら吹き飛ぶも身を翻して立ち上がると鋭い眼光をレイルへと向けた。
「…確かに俺は弱いんだろうな、傷ついて、躓いて、迷って…裏切られただけで死にたくなる程ぼろぼろになるくらいな」
「…ならば」
「だけど選ぶ事をやめた事はない」
レイルの体から魔力が放たれる、それはレイルの覚悟を示す様に集束していき全身に駆け巡っていく。
「リリアと決別した事も、セラと共に歩む事も、師匠と戦う事も俺が選んで決めた事だ!どれだけ後悔しようと!どれだけ傷つこうと自分で選んだ事から逃げ出したりはしない!!」
だから、と続けたレイルと金眼の視線が再び交差する。
「お前がそれを阻むなら…俺はお前を倒す」
「…あのまま影となって消えれば良いものを」
金眼は吐き捨てる様に言うと魔力を解き放つ、火山の噴火を想起させる程の圧倒的な量と圧はかつて相対したドラゴンを思い出させた。
「立ちはだかるものは薙ぎ払う、それは貴様であろうと例外ではない」
牙を剥き出しにして金眼は魔力を纏っていく、まるで一匹の黒竜の様なそれは極大の圧を放ちながら口を開いた。
「消えよ、貴様にこの竜の力を背負う事は出来ぬ!」
その言葉と共に光と影は動き出した。
セイバー対セイバーオルタみたいのが見たかったと供述しており...




