33:魔女帝

先生と呼ばれた少女は一瞬でセラに近づくと首輪に触れる、そして目を細めて顔を更に険しくした。

「なによこれ！？よりにもよって原初(オリジナル)の輪じゃない！今造られてる量産品だったら解呪ができたのに！！」

ぶつぶつというには大きすぎる声でぼやきながら首輪を見ていると少女の眼が強く輝く、それは見えない線を辿る様にしてレイルの右手へと向かい続け様にレイルを睨みつけた。

「アンタが私のセラを奴隷にしたのね！？」

「あ、いや…」

「“うっさい”！！」

魔力と高まりと嫌な予感がしてその場から跳び退く、その直後にレイルが立っていた地面から火柱が噴き出した。

「“逃げるな”！」

レイルの跳んだ先が隆起した土壁に囲まれる、唯一囲まれてない前方からは竜を象った水鉄砲が顎を開いて迫っていた。

(展開速度が速すぎる！)

魔力を脚に集中して一気に上空に飛び上がる、水鉄砲が土壁を粉々にする瞬間を見て背中に冷たいものが走る。

その後ろで大気の唸る音が響く、振り向けば風を纏った少女がレイルの背後へと飛んでおり手を振りかぶって風の刃を解き放った。

(四属性を使って！？)

風の刃が切り裂く寸前に剣を抜いて受け止める、風の刃をなんとか相殺するが弾かれたレイルは地面に転がる様に落ちると地面から生えてきた草の蔓が手足に巻きついてきた。

蔓を引き千切ろうとするレイルの前に少女が立つ、膨大な怒気を伴いながら右手を上に掲げると上空に太陽を思わせる様な大きさと熱風を発する火球が生み出される。

「ま、待て！待ってくれ！？俺とセラは決して貴方が思ってる様な関係じゃない！まずは落ち着いて話し合う事が必要だと思う！！」

「奴隷にしてる時点で…」

“轟天裁火(ソドム)”に匹敵する火球を生み出した少女はレイルを見る、その眼は据わっており上空の火球を背後に照らされた姿は凄まじい威圧感だった。

「話す余地なし」

右手が振り下ろされようとした刹那…。

「待ってください先生！」

少女を羽交い締めにする形でセラが制止する、少女は突然の事に制御が乱れる事を恐れたのか火球を解除した。

「ちょっ、離しなさいセラ！今からこの変態奴隷野郎を跡形もなく消し飛ばして…」

「違います！この首輪は自分で付けたんです！私が望んでレイルの奴隷になったんです！」

ピタッと少女の動きが止まる、錆びついた鎧の様に首を動かしてセラを見た。

「自分で、望んで…？」

「はい…」

セラが顔を紅く染めながら答える、かつて共にいた時は見せなかった色香を匂わす表情に少女はよろよろとしながらセラへと向き直った。

「ま、まさか…」

少女は眼に涙を貯めるとその場にへたりこんで顔を覆って嘆き始めた。

「信じて送り出したセラが被虐主義(マゾヒズム)に目覚めるだなんて！！」

「目覚めてません！！」

珍しく声を荒立てるセラと少女の叫びが丘に響き渡る。

これがレイルとセラの先生であり魔女帝(エンプレスウィッチ)フラウ・フォーラスとの邂逅であった。

…ちなみに事の元凶とも言えるライブスはさりげなく結界を張りながら一部始終を見て微笑んでいた。