21:嘲笑
戦闘描写もっと書きたいけど短くなる...。
降ろされたレイルはふと一人足りない事に気付く。
「ゾルガ将軍は?」
「混乱した兵士達をまとめて住民の避難をさせてるわ、すぐに合流すると言ってたけど…」
シャルがちらりとキュクロプスを見ながら答える、レイルが与えたキュクロプスの傷は既に半ば程塞がっていた。
「悠長に待つ必要はないと思うわ」
「…賛成だ」
気を取り直して剣を持ち直す、キュクロプスが動き出すまで幾ばくかの猶予もなかった。
「体感だが再生能力はオーガ以上だ、頭と心臓をまとめて破壊でもしない限りは止められないと思う」
「手立てはある?」
「あるにはあるが使うには溜めがいる、その間キュクロプスの動きを止めてなきゃならない」
「…なら」
レイルの意見を聞いてセラが案を発する、レイルとシャルがそれに賛同してそれぞれが動き出すのとキュクロプスが咆哮を上げたのは同時だった。
―――――
レイルは振り下ろされる戦鎚の頭部を潜り抜けて近付いたキュクロプスの指を斬りつける、その隙に影を置き去りにする様な速さでシャルは接近するとキュクロプスの脚にナイフを突き立てていく。
「ルオォォォォォォッ!!」
キュクロプスは足下にいるシャルに視線を向けた瞬間レイルの放った『疾爪』が顎に当たる、戦鎚を振り回して追い払うとキュクロプスはレイルに眼を向けた。
一番の脅威は自身の体を斬り裂いたレイルで他のは後回しにすべきと判断したキュクロプスは再び戦鎚を振り上げる。
周囲を破壊しながら口内に魔力を集める、先程の様に動きさえ止めれば容易く潰せるのだと己に言い聞かせながら自身にチクチクとナイフを突き刺す存在を無視して戦鎚を避けたレイルに向けて口を開いた瞬間…。
「これでも噛んでなさい」
口の中に先程から周囲を飛び回ってたシャルがポーチから取り出した物を投擲する、口の中に入ったそれは急激に燃え上がり爆発を起こした。
「ガァァァァァァァァァッ!?」
「爆炎の魔晶…って言っても分からないわよね」
シャルはそんな事を呟きながら再び取り出したナイフをキュクロプスの体に突き刺しては距離を取る。
魔晶とは魔石に魔術陣を刻む事で作られる魔導具で魔力を込める事で刻まれた魔術を起動させる事が出来る。
それなりに高価で高威力や大規模なものはないが使用者が持ってない属性の魔術を使えるという利点もあってシャルは多くの魔晶を持っていた。
口内を焼かれたキュクロプスは即座に再生させると戦鎚に魔力を込めて振り下ろす、振り下ろされた戦鎚から放たれた衝撃波が瓦礫と礫を凶器に変えて撒き散らす。
レイルは即座にシャルの前に立つと『硬身』を発動して礫の雨を真正面から凌いだ。
腹立たしい!腹立たしい!腹立たしい!!
キュクロプスの胸中が怒りで染め上がる、矮小な存在と捉えていたものにここまで手こずらせられている事実に憎悪を覚えたキュクロプスが再び戦鎚に魔力を込めようとするが…。
レイルの後ろから飛び出したシャルが再び魔晶を投擲する、それは砕けると閃光と共に雷を放出してキュクロプスの体に突き立てられたナイフを伝って全身に走った。
全身に走る電撃に体を痺れさせながらもキュクロプスは戦鎚を構える、その視界に離れた場所にいるセラが映った。
キュクロプスに向けられた杖の先に白い球体の様なものが浮かんでいる、そして普通であれば聞こえる筈のない詠唱が届いた。
「“絶凍地獄・第三円”」
魔術の名が宣告されると同時に撃ち出される、球体は狙い違わずキュクロプスに命中するとその威力を解放した。
球体の中に閉じ込められていた凍気がキュクロプスに襲い掛かる、圧縮されていた凍気は白い災いと化して周囲の大気ごと凍てつかせていく。
一瞬の内に氷の像へと姿を変えられたキュクロプスは自らを閉じ込める氷の戒めを破壊せんと力を込めるが電撃と氷のダメージが残る体ではびくともしない。
その間にレイルは『天脚』を発動してキュクロプスの頭上へと跳び上がると剣を上段に構えると魔力を込める、注がれた魔力は剣から漏れ出ていくと巨大な黒い刀身を形作っていき、そして…。
「竜剣術『崩天爪牙』!」
裂帛の声と共に振り下ろされた刀身は黒い三日月となって解き放たれ、氷像と化したキュクロプスに喰らいつくと頭から斬り裂き粉砕していった。
―――――
周囲に凍りついた細かな肉片が散らばっていく、瓦礫の中には先程までの闘争が嘘かの様な静寂が支配した。
地面に着地して息を吐くと同時にゾルガ将軍がこちらに向かってくるのが見えた。
「助力は必要なかった様だな」
どことなく感心した様な呆れた様な声で言うと気を取り直してレイル達に向き合った。
「避難と同時に他の地区の報告も受けたがここ以外に襲撃の様子はない、今の所はだが…」
「…キュクロプス一体で充分だと思われたのでしょうか?」
「分からんが奇跡が関わっているのは…」
「ご名答ですわ」
ゾルガの言葉に被せる様に女の声が響く、全員がそちらに振り向くと瓦礫の上に修道服に身を包んだ女が降り立つ。
「こんばんは、そしてセラさん以外は初めましてになりますね。
私は“救済”の奇跡アステラと申します、以後お見知り置きを…」
修道服を摘まんで一礼すると嘲る様に口を三日月に歪めてアステラは一同を見下ろした…。
ニヤリ




