19:闇夜の襲撃
次回から戦闘が続きます。
「魔剣術…?」
レイルがそう聞き返すとエリファスは頷く。
「斬撃を飛ばしたり魔銀の盾を斬り裂くなど普通ではない技を使用した際にそう発していたとの事です、何か知っていませんか?」
「…俺は疑われてるんですか?」
思わずそう聞き返してしまう、今しがた制裁が使ったという技はレイルにも出来る技だからだ。
「…失礼、私も些か性急な問いをしてしまいました」
エリファスはそう言って頭を下げて謝罪する、警戒を解くわけにはいかないが話を続けてもらう事にした。
「まずレイル殿を疑っている訳ではありません、制裁と黒騎団が戦った時はおおよそですがレイル殿が陛下と謁見を行っていた時です、しかもここから馬車で四日は掛かる場所ですからレイル殿が制裁の奇跡だというのは有り得ません」
「そうですか…」
「ただレイル殿と似た剣術を操るという点は否定できません、そこでなのですがレイル殿はこの制裁の奇跡に心当たりがあるのではと思い聞いてみたのです」
「心当たりと言っても…俺の剣術はゼド師匠から教わったものですし、竜剣術を編み出したのはここ最近で…」
そこでレイルの中に疑問が生まれる、竜剣術の元になった剣術の幾つかは身体強化を前提にしたものがある、それこそ極致に至ったのを前提とした様な…。
「ゼド?お主の師はゼドと言うのか?」
疑問の正体がなんなのか考えようとした瞬間ウェルク王から声を掛けられたので顔を上げて答える。
「はい、冒険者になる前に故郷の村を出ていってしまって以来会えてはいませんが」
「…そうか」
複雑な顔をしたウェルク王に首を傾げるがその疑問が口から出る前に開け放たれた扉の音が遮る。
「も、申し上げます!」
「どうした?」
「魔物の襲撃です!現在魔術士部隊と弓兵部隊で応戦してますが止められません!」
「何!?それほどの規模なのか!?」
「ま、魔物は…」
飛び込んできた兵士は震えながら、されどしっかりとその存在を告げた。
「独眼巨人です!」
―――――
時は少し遡り、月に雲が掛かる頃…。
「くぁ…」
「あくびするなよ、眠気がうつるだろ」
城壁の上で物見の兵士達がぼやく、如何に仕事とはいえ夜通し異常がないかを見張るのは精神的にも肉体的にも堪える為ぼやきたくもなる。
「いいじゃねぇか、もう門は閉めちまってんだから誰か来ても開ける訳じゃねえし」
「交代したばっかであくびするなって話だよ、まだ夜は長いんだぞ、それにな…」
ため息をつきながら言葉を投げかける。
「ここ最近色んな事が起きてるだろ、ここにだって魔物の暴走群が来たっておかしくないんだぞ」
「はは、大丈夫だっての」
同僚の苦言にあくびをした兵士は笑いながら答える。
「魔物の暴走群が来たってこの城壁は越えられねえよ、王国の魔術士達が強化してドラゴンの体当たりにだって耐えられるんだぜ?それに今は将軍も副将もいんだからよ」
「だからって気抜くなよ…ん?」
物見の一人が闇夜の中にあるものを見つける、笑っていた兵士も続いてみると遠くに灯りが見えた。
「なんだありゃ、松明の火か?」
灯りのすぐ下にはこちらに向けて歩いてくる人の体らしき影が見える、冒険者かなにかかと思ったがとある事に気付いた。
「なぁ、あれってかなり遠くにいるよな?」
「あぁ、それがどうした?」
「だとしたらあいつ大きくないか?」
言われてみると確かにおかしい、未だ距離は開いてるのにその人影は普通であれば城壁の真下にいるのと同じくらいの大きさだ、それに見えている灯りは顔の眉間の位置に浮かんでいる。
そこで雲から月が顔を出す、月明かりに照らされて朧気ながらもそれは物見の兵達に姿を晒した。
「「なっ…」」
兵達は揃って絶句する、決して地上に存在する筈がないものを見たが故に…。
―――――
ダンジョンには深いもので50層以上のものもある、50層以降のダンジョンは神話層と呼ばれ、そこには古代に存在した神秘が今なお残っており国ひとつ動かせる様な宝があるが強大な魔物が跋扈するとされている。
それは岩の様な肌に二階建ての家すら超える巨体、そして顔の中心には炎の様に輝く眼を持っていた。
ダンジョンの神話層にしかいないとされている存在のひとつ、古き神々の血を引くとされる地上から姿を消した巨人の魔物。
独眼巨人が月明かりに照らされて咆哮を上げた。
サイクロプスの方が分かりやすいですかね?




