57:目的
「人と人が手を取り合う世界…?」
告げられた言葉の内容にバニス以外の全員が呆然とする、バニス教団の今までの行いとバニスが語った言葉の繋がりがまるで分からなかった。
「…貴方の言葉が真実だとして、何故それが魔族を生み出す事に繋がるの?」
セラが魔力を練りながらも問いかける、すると界枝焼剣の炎が枝葉の様に広がってセラ達に襲い掛かる。
「何故魔族を生み出すのか、か…それが必要だからさ」
炎が波打ちながら迫る、レイルはセラに迫る炎を剣で防ぐ、質量を伴った炎の刃が四方から襲い掛かりがレイルは竜剣術を駆使して凌ぐ。
「君達なら正教の教典を読み聞かされたんじゃないかな?“かつて人々は堕落し悪徳に染まり、荒廃した世界に神は怒りと悲しみに暮れ、天の焔を以て邪悪なる人々を焼き尽くした”とね…あれは三千年前に起きた本当の事なのさ」
レーヴァテインの炎の刃が空間一面に広がる、セラは氷の魔術で四人に迫る炎を防いだ。
「人族はこの世界に存在した時からそうなんだ、隣にいる誰かが自分より優れている、富んでいる、幸福である事が許せない、自分は誰よりも優先されるべきで許されるべきだとだという自己欲、少しでも自分達とは違うというだけで恐れ、憎み、迫害する浅ましさを人族は抱えて生きている」
バニスは語りながらもレイルに迫りレーヴァテインを振り下ろす、『崩牙』を発動させた剣で受け止め、燃え盛る刃と打ち合いとなった。
「レイル、君やセラにも覚えはあるだろう?セネクという男は道理のない恨みで君の大切なものを奪った結果、君達のパーティは解散となってアインツを出ざるを得なくなり、セラは生みの親や守る立場の者達の都合と私情に振り回されて本来あるべき子供としての時間を失った」
バニスの言葉にレイルは一瞬だけ顔をしかめる、バニスはまるで懺悔を聞く神父の様に慈悲深さを感じさせる笑みを浮かべていた。
「ただ一人、ほんの少数の悪意から多くの人達が巻き込まれ、そこから悪意が連鎖し拡まっていく、それが国や権力者といった影響力を持つ者ならばそれこそ国どころか世界中の無関係な人々が巻き込まれ無駄な被害や死が拡がっていくんだ」
バニスは宙を裂きながら迫る戦槌を炎の魔術で弾く、その瞬間にレイルが下から剣を斬り上げるが紙一重で避けたバニスが炎の刃を拡げて追撃を防ぐ。
「だけどね、人はある時利害や思惑はあれど手を取り合う時がある…それは自分達が争ってる相手よりも強大で共通の敵が現れた時だ」
「強大で、共通…まさかお前は!?」
「そう、魔族という人族の脅威を生み出し人同士が争わない世界を編み出す事さ、魔王やバニス教団を生み出してきたこれまでの様にね」
「ふざ…けるなぁ!!」
“竜血魔纏”を発動させたレイルが“崩天爪牙”で炎の刃を蹴散らす、レイルの剣とバニスのレーヴァテインがぶつかり鍔迫り合いとなった。
「その為に多くの人達を、師匠を、俺達を巻き込んだのか!?」
「そうさ、少なくとも私が敵を用意し続けた事で人同士の争いは目に見えて減った、犠牲になった者達には申し訳ないけどお陰で人同士の争いや負の連鎖は少なくなったんだよ」
「…お前は、神にでもなったつもりか!?」
「流石にそこまで思い上がってはいないよ、だが…それに近い力と意志を持っていると自覚はあるけどね」
「っ!!」
歯を噛み締めてレーヴァテインごとバニスを弾き飛ばす、その瞬間を狙い澄ましたかの様にセラが翳した杖の先から“正しく回帰する魂”の光が放たれた。
「しまっ…」
光は弾き飛ばされたバニスへと命中する、その直後にレーヴァテインの炎の勢いが弱まり、レイルはその瞬間床を蹴り砕く勢いでバニスに迫り剣を振るう。
レイルの剣がバニスの首に吸い込まれる様に振るわれ…。
「なんてね」
その寸前でレーヴァテインから炎が噴き出してレイルに幾つもの炎の枝が襲い掛かって吹き飛ばした。
「なっ!?」
「レイル君!?」
驚愕の声を上げながらも吹き飛ばされたレイルをローグが受け止める、エルグランドとクロムバイトの武具によって掠り傷で済んでいたレイルはすぐに気を取り直して立ち上がる。
「なんで…?不発なんかじゃない、確かに発動に成功したし命中したのに…」
セラがレーヴァテインを見ながら呟く、それにバニスは当然の如く答えた。
「何故かって?簡単な話だよ、レーヴァテインは奇跡達の様に歪められてる訳じゃない、私を所有者として認めて本来の力を発揮しているからさ」




