46:魔都
「ふっ」
『天脚』を使って竜の背に戻る、その後ろでは真っ二つになって燃え尽きていきながら墜ちるロック鳥の姿があった。
「まさかロック鳥が出て来やがるとはな、バニス教団ってのは想像よりヤべえな」
「ええ、だけど他の魔物達がいなくなったのは幸いね、今の内に進みましょう」
「賛成だ」
シャルがそう言うとレイルは魔力を注いで竜の飛翔速度を高める、眼下の景色がコマ送りの様に流れていき山岳地帯を越えていった。
地上には今なお魔物達がウェルク王国に向かって行進しておりレイルはその光景を見下ろして静かに拳に力を込めていた。
「…レイル」
握り込んでいた拳にセラの手が重ねられる、思わずそちらをセラはレイルを気遣う眼で語り掛ける。
「確かに今ここで攻撃すれば多少の足止めにはなるとは思う、でも根本的な解決にはならない」
「そうね、その場しのぎにしかならない以上力を温存しておく方が良いわ、それに…」
シャルはどことなく意地の悪い笑みを浮かべながら呟く。
「レイル君がここで頑張っちゃったら発破を掛けられた人達が何も出来ないでしょう?戦う機会すらなくしたら刃を納める先がなくなっちゃうわ」
「…そうだな」
レイルとて身に余る激情を戦いにぶつけてきた、それすら出来なくなったらどうなっていたかなど想像すら出来ないが録な事にはなっていなかっただろう。
レイルは気を落ち着かせて拳から力を抜くと竜を飛ばしていく、山岳地帯を越えてアスタルツ領内に入るとローグがピクリと反応した。
「こいつは…」
「どうしたの?」
「…匂いがしやがる、俺が大分嗅ぎ慣れたやつだ」
ローグが呟く中、レイル達を乗せた竜は遥か先に都の影を捉える、堅固な防壁で囲まれたアスタルツの首都パンデラムだがその姿が近付く度にレイルもその気配を感じ取っていた。
それはアインツで魔物の巣と化していた山に入った時や天竜の封窟、ウクブ・カキシュの内部へと入った時と同じ感覚だった。
「まさか…そんな事が」
視界が完全にその姿を捉える、そこにあったのは伝え聞いたものでも、過去にシャルが見たものでもなかった。
所々が崩壊した防壁や家屋からは荒廃した雰囲気が漂い、街の至るところに人型の魔物が闊歩していた。
更にはかつてイデアル達が住んでいたという居城からは遠くからでも分かるほどに濃密な魔力が感じ取れた。
「ダンジョン化してやがる、特にあの城は内と外は間違いなく別物になってるだろうよ」
鼻を鳴らしながらローグは変わり果てた都を見ながら目の前の光景を言葉にした…。




