29:喰らい合い
エルグランドとクロムバイトが戦場の上空を飛び交う、クロムバイトの周囲に黒球が浮かび上がると“潰矢の雨”となって放たれる。
襲い掛かる黒球の群れを認識したセラが大量の氷の矢を生み出して解き放つ、黒球と氷の矢が衝突して周囲の空間をひしゃげながら消えていった。
「エルグランド、魔力は俺がなんとかする!全力でやれ!」
「良いだろう!枯れてくれるなよレイル!」
レイルは竜の血を最大限に励起させて生み出した魔力をエルグランドに注いでいく、エルグランドは注がれた魔力を使って魔術を構築すると共に口から雷のブレスを放った。
空間を舐める様に広がる雷はクロムバイトの逃げ道を塞ぐ様にして迫る、それに対してクロムバイトは腕を翳すとクロムバイトの前に巨大な黒球が出現する。
「呑み込め“黒水の月”!」
詠唱と共にクロムバイトの周囲に広がっていた雷が黒球に吸い込まれていく、一瞬で全ての雷を吸収した黒球はそのまま縮小して消えていった。
(“轟火裁剣”を防いだのもあの魔術か!)
雷をしのいだクロムバイトがその巨体を影すら置き去りはする様な速さでレイル達に迫る、セラが“第三円”を複数発動して迎撃しようとするがクロムバイトは放たれた凍気の爆弾を複雑な軌道を描いて全て避けた。
クロムバイトが顎を開いてエルグランドに目前まで迫る、だが上空から落ちてきた雷霆がクロムバイトの背中に直撃した。
「がぁっ!?」
鱗を砕くほどの威力を持った雷霆に焼かれて落ちるクロムバイトにひとつの影が降り立つ、クロムバイトの背中に立ったレイルは剣を逆手に構えると溢れんばかりの魔力を込めた。
「竜剣術『穿角』!!」
砕けた鱗に剣を振り下ろす、焼け爛れた肉を裂いて突き立てられた刃はクロムバイトの背中に鍔まで刺さるが…。
(…届いてない!)
伝わってくる感触から心臓に届いてないと察したレイルは『崩天爪牙』を発動して心臓を裂こうとするがその瞬間、レイルの周囲に複数の黒球が出現した。
レイルは剣を手放すと『天脚』と『飛翼』を駆使して空を駆け上がる、その直後にレイルが立っていた背中を黒球が高速で飛び回って焼けた肉ごと切り裂いていた。
エルグランドの背中に戻る頃には再生は終わり、レイルの剣はクロムバイトの背中に突き立ったままとなっていた。
「すまない、仕留め損ねた」
「構わぬ、この程度で終わる様なものではないのは分かっていた事だ」
クロムバイトが下から高速で飛び上がる、エルグランドも上へと飛び上がると上空でUターンしてクロムバイトと真っ向からぶつかり合った。
手四つの状態になったエルグランドとクロムバイトがせめぎ合う、雷火の体をしたエルグランドを掴んだ手から煙が上がるが意に介さずクロムバイトは至近距離からブレスを放とうとする。
エルグランドが頭を振りかぶって叩きつける事でブレスを阻止する、だが頭上から尻尾が槍の様にレイル達に迫るが永劫争剣を握ったレイルが尻尾を弾く。
その間にセラが“第三円”をクロムバイトの顔面に叩きつける、顔を凍気と氷に襲われたクロムバイトが怯んだ瞬間にエルグランドがブレスを放ってクロムバイトをふき飛ばした。
エルグランドは上空に展開した雷雲から雷霆を落とすが顔の氷を取り払ったクロムバイトが“重力断”を放って雷霆を弾き飛ばした。
「我が魔術を忘れた訳ではあるまい、クロムバイト」
「かかか!これが貴様の“天を裂く者の正体”か!中々やるではないか!!!」
クロムバイトの体が再生すると同時に魔力が吹き荒れる、歓喜の咆哮が雷鳴轟く空に響き渡った…。




