28:もう一人の黄金級冒険者(シャルside)
「どうした?惚れ直したか?」
巨漢がシャルの顔を覗き込む様にして傍に立つ、シャルは立ち上がると…。
「おっそいわよこの引きこもり!!」
「おぐ!?」
刀の峰で頭をガツンと叩いた。
「おま…命の恩人に対して礼がこれか!?」
「それに関してはありがとね!だけどアンタが引きこもってる間にアスタルツが滅ぶくらいヤバい事になってんのよ!!」
「引きこもりって言うんじゃねぇ!俺だって幾つか住んでたダンジョンが失くなって久々に顔出したらともかく王都に行けって言われて来たんだぞ!?」
言い合ってる間もシャルは刀で竜の喉を貫き、巨漢は戦鎚を振り上げて迫ってきた竜の頭をかち上げる。
「それだってこの国が潰れるかも知れない事が起きてたのよローグ!」
シャルが魔晶を竜の口の中に投げ入れ爆発させながら叫ぶ、爆発して怯んだ竜をローグと呼ばれた巨漢が薙ぎ倒す。
巨漢の名はローグ・カイゼル、レイルとセラがなる前にはウェルク王国に二人しかいなかった黄金級冒険者であるが同時に王国一の奇人とも言われる男だ。
「やっぱなんかあったのかよ!墓地がごっそりなくなってるわ他のも軒並み沈静化してるわ幾つか崩れて住み家が潰れるしで散々だ畜生!!!」
その由縁は彼が魔境のダンジョンに居を構えて過ごしており、地上の街に出るのが年に二、三度あるかどうかでフォルトナールの冒険者や住人の間では半ば伝説と化しているからだ。
「そんで久々の外がこんな状況とはな!だがまぁ竜種の群れ相手なら不足はねぇ!!」
ローグは戦鎚を振りかぶると魔力を流し込んでいく、流し込まれた魔力に呼応する様に戦鎚の周囲には火花が飛び散り爆ぜる。
「今日はこいつも調子がやけに良いしな!ぶち砕け『破天の雷鎚』!!!」
気合いの声と共に戦鎚が投擲される、火花を纏って高速で回転する戦鎚は戦場で弧を描きながら周囲にいた竜達の頭や体を砕いていった。
唸りを上げながら戦鎚はローグの手元に戻るが戦鎚を掴んだローグの手からは鉄板が焼ける様な音と煙が上がった。
「あちちちちっ!?調子が良い分いつもよりあっちいな!?」
厚手の布で覆われた手袋から煙を上げながらローグは戦場を駆けて目に映った新しい竜に飛び掛かっていく、その光景を横目で見ながらシャルは疑問を浮かべる。
(以前はただの強力な魔導具だと思ってたけど、こうして見るとあの武器は聖具に近いわよね…)
通常の魔術が付与された武器は大半は魔術でより頑丈になるか斬れ味や威力を高めたものが普通だ、属性を宿したものもあるがローグの戦鎚ほど強力なものを作れるものはシャルでさえ知らない。
(レイル君の竜から聞いた話じゃ普段は普通の武器でしかない筈よね?)
だが今目の前で猛威を振るうそれは普通どころかシャルの奥の手である妖刀より遥かに強力だと分かるくらいの威力を誇っていた。
(まさか古竜ですら知らない事が聖具には隠されている?)
頭に過った思考をすぐに払ってローグの後に続く、今は考えるのは後回しにしてこの戦場を生き抜く事が先決だと判断して竜に向けて刀を振るった。




