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50:個にして群


「なるほど…」


アステラは呟きながら地面に降り立つと静かに語り掛けた。


「僅かな期間の間にまた強くなられたのですね、王都で相対した時の貴方を参考にして生み出しましたがそれをこうも簡単に倒してしまうとは」


徐に拍手をしながらセラを讃える、一見相手を煽る行いだが魔術を発動したとしても対処できるギリギリの距離をアステラは保っていた。


拍手を終えるとアステラの気配が揺らぐ、体中の顔が突然叫び出して空間を割らんとするかの様な絶叫が響き渡った。


「ええ、ええ、もはや出し惜しみはしません、神槍に捧げられた魂と私がこれまで救済してきた事で集めてきた魂を使いましょう、全てはバニス様より賜りし使命を果たす為に!」


阿鼻叫喚の空間の中でアステラの声が耳に入る、並の冒険者なら気を失うほどおぞましい圧が空間に放たれた。


セラは即座に魔術を発動する、杖の先から氷の嵐が解き放たれてアステラに襲い掛かるがアステラの左腕が隆起して膨れ上がり、一瞬にして肉の壁がアステラの前に生まれて氷嵐の防ぐ。


肉の壁は悲鳴の様なものをあげながら凍りついていく、アステラは肉の壁と分離して下がると再び体中が蠢いて四個の肉塊を生み出した。


肉塊は変成して複合巨人(キメラント)になりセラに向けて襲い掛かる、更にアステラは右腕を変容させて竜の首へと変えるとセラに向けて火球を放った。


セラは襲い掛かるキメラントの猛追をかわしながら逃げる、逃げた先に放たれた火球を風魔術で逸らすと逃げながら誘導したキメラントを“第四円(ジュデッカ)”でまとめて貫いた。


だがその間にアステラは新たなキメラントを生み出す、更にサイズは縮小されているが翼竜(ワイバーン)闇毒蜘蛛(ブラックウィドウ)といった魔物がアステラの周囲に所狭しと現れていた。


「貴方は強い、それは理解していますわ、ですがそれを支える魔力はどこまで持つでしょうか?如何に魔力操作が巧みだとしてもその消費を零にする事は出来ません、休む間もなく使い続ければ尽きるのは必然なのです」


アステラの合図と共に魔物達が動く、ブラックウィドウが壁を這って、ワイバーンが宙を切り裂いて、キメラントが床を踏み鳴らしながら迫る。


「百人力ならば千を、一騎当千というならば万を以てすり潰すだけです!これこそがかつて一国を救済(ほろび)へと導いた私の奇跡の力!私という()から多くを救済する()を生み出す御業なのです!」


セラの周囲を魔物達が覆い尽くす、魔物達が壁となってアステラの視界を塞ぐと魔物達が我先にと攻撃を仕掛けている様子が窺えた。


「どれだけ鍛えようと数には勝てないのです…」


呟いた瞬間に閃光が走る、次いで爆発音が響いて包囲していた魔物達が焼かれ、あるいは吹き飛ばされていた。


カツン、と杖を突く音が響く、杖を突いたセラの周囲には燃え盛る炎の竜と冷気を纏った氷の竜がまるでセラを守護するかの様に控えていた。


「個にして群、確かにその力は凄まじいかも知れないけど私との相性は最悪と言っても良い」


セラが進み出る、それに従う様にして二体の竜は後に続く姿はアステラは過去の記憶を想起させた。


かつて自らが率いた一国すら滅ぼす万を超える魔物の軍勢、それをたった一夜で跡形もなく消し飛ばした世界に伝わる魔鳥を顕現させる魔女の頂点に立つ存在。


「貴方が万を従えるというのなら、私は万に値する力を以て貴方を倒すだけ」


アステラにはかの魔女帝と目の前にいるセラの姿が重なって見えた…。

師弟は似るもの

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新作書き始めました、良ければご覧ください。 侯爵次男は家出する~才能がないので全部捨てて冒険者になります~ https://book1.adouzi.eu.org/n3774ih/
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