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ひめみこ  作者: 転々
番外編
193/202

円 姉さんの里帰り 三

 来たのはやはり凛香ちゃんで、亜紀ちゃんを待ちながらメニューの相談。結局、野菜中心の和風お惣菜だ。もっとも、姉さんもきっちり作るのは和食だけで、洋食や中華は出来合の調味料を使うことが多い。

 程なく亜紀ちゃんもやってくる。


 夕食のメインディッシュは魚。何を使うかはお魚屋さんで決めることにして、副菜は野菜中心のメニュー。由衣ちゃんは肉じゃがを推すけど、それは私でも作れる。

 手料理と言うとこのイメージなのだろう。実際はわざわざ教えられなくても、誰でも作れる料理だ。




 さて出発、と思ったら、姉さんの料理講座はここからスタート。


「どっちにしても絶対に使うからね」


 まずは鍋で昆布を戻す。亜紀ちゃん由衣ちゃん凛香ちゃんの三人が、ひと切れずつ昆布を固く絞った布巾で拭く。それを水を張った寸胴鍋に放り込む。

 更に、切干し大根と干し椎茸も軽く洗ってホコリを落とし、ごく少量の水で戻す。


「昆布はね、高級品を使った方が良い出汁が取れるんだ。高級って言っても、一回あたり五円と違わないから、こういうのは良いのを選ぶこと」


 でも、今どき乾物を水で戻すところからする家は少ないと思う。そして、出汁も島根とか鳥取から取り寄せてる。金額自体はそこまでじゃないにしても、わざわざそういう労力を使うあたりが贅沢だ。




 ショッピングセンターに着くと、マイバスケットを二つカートに乗せて食料品売り場へ。


「ここ来るのも久々だぁ。結婚してからは来ること無かったし。

 円、憶えてる? ベビーカーで私と買い物来てたんだよ」


「そんな、二歳か三歳の頃の話、憶えてるわけ無いじゃない。

 私の知っている姉さんは、既にお母さんになってたし……」


 姉さんが子どもを産んだのは私が五歳のときだ。そうか、姪とは五歳差なんだよね。




 まずは魚屋さん。姉さんが魚を見る。煮魚と言えば、カレイかキンメかサバか。イワシなんかもアリだ。

 結局、姉さんが選んだのは鮭。と言うことはホイル蒸しかバター焼きか……。初心者には無難な選択だ。

 それにしても、姉さんは魚が好きだ。冷酒のアテは大抵イワシかサバの缶詰だ。けっこう生臭いのに。




 次は野菜。あ、ゴボウを買ってる。これはゴボウの下処理を教えるつもりだろう。そして今日は葉物野菜が安い。更にブロッコリ。でも、保存時の温度管理が悪いと、茹でたら臭うんだよね。

 その後は豆腐と油揚げ。豆腐は白和えかな。油揚げはこの量、何に使うんだろう?


 調味料コーナーで、ミリンと料理酒。そして冷酒と缶の発泡酒を大量に。今晩も呑む気だ。でも、このメンバーで姉さんの外見だ。買えるのかな?




 案の定、レジ係から明らかに疑わしい視線を受ける。当然、年齢が分かるものの提示を求められた。

 姉さんは、免許証を取り出して見せるが、レジ係は納得しない。有り体に言って、偽造を疑ってる。疑わしいと思っても、そこまで厳格に対応するものだろうか? 一応書類としては整っているのだから、スルーすればいいのに。

 そう思っていたら、後ろから声をかけられた。


「おう、姉ちゃん。久しぶり。何揉めてんだ?」


「あ、おっちゃん。久しぶりっ。

 私が未成年に見えるって、お酒を売ってくれないんだよぉ」


「はっはっはっ! そりゃ仕方ねぇ。その見た目で三十つっても、誰も信じねぇよ」


 姉さんの知り合いらしい。そのお爺ちゃんがレジ係に少し話すと、あっさりレジ作業が再開する。




「おっちゃん、ありがとう」


「いいってことよ」


「でも、こういうの、結構多いんだよね。夫と一緒に飲んでて、二軒目探してたら、職務質問されたこともあるんだよ。

 本当に困るよ」


「はっはっは。まぁ、年より若く見られて怒ってるうちは、まだまだ子どもってこった」


「別に、怒ってはないですよ。ただ面倒くさいだけで」




 帰りの車中で聞いたところ、あのお爺ちゃん、姉さんが実家で暮らしてた頃、ここのテナントで鮮魚店の店長をしていたそうだ。


「でもねぇ、あのお店があったときはもっと品物が良かったけど、直営の魚屋さんだと一ランク落ちるから、割高に感じるなぁ」




 家に帰ると、まず出汁作りから。


「昆布出汁はね、沸騰させないのが重要。

 六十度からせいぜい七十度までに保っておけは失敗しないよ」


 IHは保温になっている。

 その間、ゴボウのささがきをみんなにさせる。なるほど、ささがきの前に、表面に包丁で切り込みを入れるんだ。お母さんが作るより口当たりが柔らかいのはこういうことか。


 寸胴から昆布を引き上げると、IH全開で沸騰させて鰹節を山ほど入れる。昨日まではだしの素だったのに、みんなの前だからか張り切っている。


「本当は()すんだろうけどね」


 そう言いながら鰹節を引き上げ、最後はあく取りシートに絡めて取る。味見して、「うーん、お魚弱いかな?」と言いながら、だしの素を目分量で入れ、みんなに味を見てもらう。

 昨日までと違って、美味しい。昨日までのも十分美味しかったけど、今回は薫りから違う。

 みんなも「ほーっ」という顔で姉さんを見る。




 次は野菜の下処理。


「まずは、ブロッコリからね」


 流水で、蕾についた防水の粉を流す。そして逆さまにし、房を水につけて揺すりながら洗う。そして逆さまのまま十分ほど水につける。


「どうして水につけたままにしておくの?」


「房の所に虫が付いてるかも知れないから。水につけておけば、苦しくなって浮いてくるでしょ。

 まぁ虫ごと食べたって、大した問題じゃないけどね」


 虫ごとって……、そうなの?

 その間に寸胴でたっぷりの湯を沸かす。塩も入れる。


「本当は一・五パーセントぐらいらしいけど、目分量でOK」


「そんなに沢山のお湯?」


 姉さんによると、短時間で火を通すためには、なるべくお湯の温度を下げないこと、そのためには大量のお湯を使うことが重要とのこと。

 下ごしらえで、大きさを揃えるのは基本だけど、てっぺんの方の大きいのは、茎に切り込みだけを入れて、手で裂くときれいに分けられるとか、茹でるときは蓋をしないで、茹でたときに出る物質を揮発させるとか、いろいろと小技が出てくる。

 二分ほど茹でたら、氷水で一気に冷やす。


 この辺の下ごしらえは亜紀ちゃんも知っていたけど、その意味や目的までは知らなかったらしい。


 その後、ホウレンソウのおひたし。びっくりしたのがゆで時間の短さだ。そしてやはり急冷する。ビタミンCは水溶性で熱にも弱いからとのこと。

 姉さんは、味付けとかは目分量の割に、こういう所はかなり理詰めだ。


 モヤシだけは水から茹でた後、ザルで水を切っただけだ。理由を聞いてみたが「この方が美味しいから」としか応えてくれなかった。

 前言撤回。理詰めとは限らない。




「じゃ、ここから料理ね」

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