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ひめみこ  作者: 転々
第十六章 夏の騒動
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うかつ

 ここ数日の心配事が消え、鼻歌交じりに夕食の準備。

 季節的には合わないけど、鮭のバター焼きを仕上げる。塩コショウで下味をつけた鮭の切り身を、ニンニクで下味をつけたバターで焼き、仕上げに焦がし醤油とバターをもう一片。

 これをお皿に盛った後、レンジで加熱済みのニンジンとジャガイモを、魚の旨みが溶け込んだバターで再びソテーする。

 円などは、メインの魚よりも野菜の方が好きだ。




 夕食後は、周と円を風呂に入れる。風呂から上がると、二人は疲れていたのか、もう寝室だ。

 ダイニングでは、お母さんが一人で梅酒をチビチビやっている。


「昌も飲む?」


「もちろん!」


 私も純米大吟醸を冷蔵庫から出し、グラスに注ぐ。


「今日はまた、ご機嫌ね?」


「まぁね」


 冷酒を口に含む。うーん。旨いなぁ。出来れば風呂を食事の前に済ませて、夕食時に飲みたかったところだ。米は液体に限る


 お母さんはそんな私をニコニコ笑いながら見ている。

 その視線にちょっと照れる。いや、そういうお誘いがもう無いことは分かってるけど……。あれ? 何か忘れてる気がするぞ。


「なにか、いいことでもあったの?」


「ナイショ」


 私は二口目を口に含む。風呂上がりの冷酒は格別だ。




「ところで、ご機嫌はこれと関係ある?」


「ん?」


 お母さんがテーブルに置いたのは、〇・〇一ミリ。

 瞬間、私は凍り付く。悪い汗が全身から噴き出す。


「近々、使う予定でも、あるのかしら?」


 お母さんの笑顔と猫なで声が怖い。忘れていたのは、コレだ!


「幸い、お義父さんやお義母さんには見られなかったけど……。

 使う予定でもあるのかなぁ?」


「なっ、無いよっ!」


「じゃぁ、どうして、こんなの出してきたのかなぁ?」


「み、水風船にするため、って言ったら、信じる?」


「もちろん!

 信じないわ。で、なんでかなぁ?」




 結局、正直に話すことに。そして、光紀さんと同じく、準備したことの意味について、厳重に注意される。こういう部分、まだまだ女性としての判断力が不足しているということか。


「まぁ、昌の気持ちも分かるけど……。お人好しというか、お節介というか。それで、その作戦に、幾ら使ったの?」


「……えっと、ちょっと予想よりかかったかな」


「幾ら?」


 正直に言う。

 どうせ、ここまで知られたら、利用明細を確認されるのだ。


「ふぅ~ん。お友達のために、結構、使ったわね。

 目的が目的だから、頭ごなしに叱れないけど。相談ぐらいは欲しかったかな。

 って、こんなこと、大人には言えないわね」


「ごめんなさい」


「でも、ディズニーランドかぁ。お土産とかはあるの?」


「ク、クッキーを貰ったよ。食べる?」


「梅酒には合わないから、また今度にしようかしら。

 でも、私も何か買いたいな~」


「あ、明日でも、買い物、行く?」


「そうねぇ。ディズニーのグッズを買いに行きたいわね~

 小さな世界とかシンデレラ城とか見せたら、子ども達もきっと喜ぶわね~」


「じゃぁ、夏休み中に、泊まりで……」


「夏休み中は、暑いから止めときましょ。

 寒くなってきた頃の方が、そうね、ハロウィンのが終わって、クリスマスのが始まる前ぐらいなんて、どうかしら? 平日の空いてそうなときを狙って。

 周が小学生になったら、そんなこと出来ないでしょ?」


「えーと、私も学校あるし、一応受験生なんだけど」


「高校受験ぐらい、大学出てる貴女にとっては、どってことないでしょ? 今すぐ受けたって、主席に近い成績取るんだろうし」


「まぁ、そうだけどさ」


「じゃぁ、その辺でコーディネートしといてね」


「……はい」


 これぐらいで済んで良かったとするべきか……。でも、十一月まではいろいろお強請(ねだ)りされそうだなぁ。

 これは次席としての経費としては、認めてもらえないだろうし。出費になる。って、貧乏性だな。




 お母さんがお風呂に向かったので、テーブルに置かれた〇・〇一ミリを持って、急いで二階の寝室へ。でも、自分が使うのは何時になるだろう? それまでに使用期限が来そうだ。いや、そもそも、女性の側がコレを準備するのは、如何なものだろう。


 そんなことを考えていたら、光紀さんから着信があった。

 長くなりそうなので、エアコンを動かしてから電話に出る。


「やっほー、昌ちゃん。今、大丈夫?」


「大丈夫ですよ。

 本当に、いろいろとありがとうございます。どうお礼をしたものかと」


「お礼なんて。

 アゴアシ付きでディズニーなんて、お礼というなら、むしろこっちがお礼をしなきゃね。

 私も楽しかったし、隆さんも、いい息抜きになったみたいだし」


「そう言って貰えたら、嬉しいです」


「ところで、お礼という程じゃないけど、お土産買ったのよ。日持ちするから、渡すのはいつでもいいけど。

 一応、私は昌ちゃんがどこに住んでいるか、知らないことになっているから、明日にも、どっかで待ち合わせる?」


「うーん。明日は難しいかも」


 例のモノが見つかって、顛末を全て知られて、旅行計画を立てることになった経緯を話す。


「……というわけで、明日はお母さんのご機嫌を取らなきゃいけないかも知れないんです」


「そういうこと? それじゃぁ仕方ないわね。

 にしても、昌ちゃん、迂闊(うかつ)だったわねぇ」


「面目ない」


 その後、ディズニーランドでのお勧めや、恵里奈ちゃんにとって、光紀さんが憧れのお姉さんになっていそうなことも話す。




「それじゃ、おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 電話を切る。右手にはまだ例の箱を持ったままだ。枕元の引き出しではなく、クローゼットに封印する。


 でも、自分がコレを使う日が来るんだろうか?

 クラスの面々を思い浮かべる。誰一人とも、そういう関係を想像できない。


 では、慶一さんは?

 彼は私のことを、どう思っているんだろう?

 そういう対象として見てるんだろうか?


 薄い胸元を見下ろす。


「やっぱり、物足りないよね」


 パジャマの上からそっと触れる。ちょっと固めだ。もう少し大きくて、あと柔らかめの方が良いのかな? 少し手に力を込めると、切ない感覚が拡がり、別の場所に熱がこもる。

 いけない! そろそろお母さんが風呂から上がる。




 私は寝台のマットレスにタオルケットを敷き直すと、エアコンを切らずに部屋を後にした。

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