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ひめみこ  作者: 転々
第十三章 心の確認
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引退

 寒稽古に先立ち、沙耶香さんに呼ばれた。

 会議室に入ると、比売神子が全員揃っている。全員揃うのは通過儀礼以来。と言っても、残りの二人――高桑(たかくわ) (りく)さんと宗像(むなかた) 敏子(としこ)さん――は、光紀さんのときが初対面。それ以後に会ったのは私の通過儀礼のときだけで、私の素性も知らせていない。というより、口外しないよう、沙耶香さんから厳重に注意されている。


 口火を切ったのは比売神子様だった。


「私も歳ですし、そろそろ筆頭から退(しりぞ)こうと思います。

 後任には次席の竹内さんを、次席には新たに小畑さんを考えていますが、意見はございますか?」


「「異議無し」」


 沙耶香さんが無言で頷くと、他の比売神子達もさらりと言う。町内会役員の譲り合いみたいだ。

 でも、ちょっと待って欲しい。私は最年少だし、比売神子の仕事というか、組織のことも分かっていない。こういうのは、歳の順じゃないのかな? それに、この外見で神子達の指導なんか出来ないし、そもそも武術訓練も出来ない。それに運転免許もない。


 思ったことを沙耶香さんに言ったが、この組織に年功は無く、実力主義のとのこと。


「じゃぁ、昌ちゃんが筆頭になる? そうすれば神子の指導も無いわよ。比売神子のことを知らないから次席に置いたんだけど。


 とりあえず、神子の指導は引き続き私がしますが、昌ちゃんには次席の自覚を持ってもらうためにも、私の補佐をしていただきます。

 後任の指導を通じて比売神子として成長すれば、『格』から言って、いずれ貴女が筆頭よ」


「主席になると、どんな仕事があるんですか?」


「それは、追々学んでいけばいいわ。

 あと、『主席』じゃなくて『筆頭』ね」


 最終的な形が解らないまま実地で見て学ぶって、結構面倒くさそうだ。とりあえず目的とか、そのためにすべきこととかを記録に残して、体系的にまとめておこう。


「昌ちゃんも、早く一人前になってね。私が結婚して産休に入ったら、あなたが筆頭なんだから。もちろんその後は引退するまで貴女が筆頭よ」


「え?」


「貴女以上の『格』を持った神子が現れない限り、そういうこと。

 あるいは、貴女がさっさと子どもをこさえちゃうか」


「竹内さんもあまり脅かさないように。

 安心なさい。私も一線は退きますが、竹内さんの補佐を、と言うより次席の小畑さんの指導を続けます。

 あと、五年ぐらいは私も現役でいられるとは思いますが、せめて二年のうちに一人前になって下さい」


 暫定『次席』か……。早すぎないかなぁ。


「筆頭と次席、二人とも独身なんて、歴史的に見ても珍しいこと。

 どちらが先に母親になりますかねぇ……」


 比売神子様が独り言のように言う。


 私は……、戸籍上は十七だけど、肉体年齢は十五になっていない。子どもはまだまだ先だろうけど、かといって沙耶香さんが結婚ってのも今ひとつ想像できない。沙耶香さんの隣に並んで立てる程の男性って、そうそう居ないように思う。

 それにしても前の二人、薄化粧した(かお)はどちらも見た目は二十代後半から三十ほどか。美人の奥様といったところだが、実際の年齢は怖くて聞けない。きっと近所じゃ美魔女って言われてるんだろうな。




「まだまだ先のことって思ってた?」


「ええ、まぁ。早くても、社会人になってからだと思ってました」


「本格的にはそうよ。でないと、神子の指導が出来ませんから。

 いくら社会人としての経験や記憶があっても、『昌ちゃん』自身は学校生活しか知らないし」


「そうですよね。それに、武術指導も出来なきゃですし。

 あ、ところで、合宿の場所とか……、宿の手配も私たちがするんですか? どういう基準で選んでるんでしょう? 前から気になってたんですけど」


「完全に、指導者の好みよ。なるべく偏らないようにという条件はあるけど。私や昌ちゃんのように、割と交通の便が良いところならともかく、他の神子達は少し偏るかしらね」


 高桑さんと宗像さんは、それぞれ中国と東北の在住で、その近辺の神子を中心に指導している。近畿や関東も守備範囲だが、極端には散らばらないようにしていると言う。


「どこでも良いんですか?」


「離島とかは無理ですけど。電車で行ける範囲ならOKよ。比売神子の役得ね。

 しばらくは今まで通り私と一緒。気分を変えて高桑さんか宗像さんと一緒でもいいけど。

 どこかリクエストある?」


「そうですね。冬場だったら北陸かな。暖かい静岡や伊豆もいいし、伊勢神宮とかも行ってみたいですね」


「結局、どこでも良いんじゃない」




 寒稽古は、時期もあってか、参加者は少なかった。特に今回は比売神子がこちらに集まっている関係で、神子達も遠くから来なくてはならない。そのため、新幹線で来やすい山陽はともかく、本州でも乗り換えが必要な北関東や甲信越の参加は居ない。

 聡子さんは北陸だから割と来やすいけど、受験が近いということで、今回は見合わせたようだ。




 来ているメンバーに自己紹介。神子達は美人揃いだ。こうして見ると、神子って判で押したように色白のきれいな肌で、揃ってスタイルが良い。

 私が、新たに比売神子となったことを言うと、既に知っているメンバーを除いた全員が驚きの表情。神子としても最年少に近いし、『血の発現』から一年ほどでというのも異例だ。


 接点が無かった神子達も簡単に自己紹介するが、あまり濃い性格の子は居なさそうだ。自己紹介だけじゃ判らないけど。




 例によって、留美子さんと組み手をする。夏頃とは違って、懐をとれる。と言っても、沙耶香さんのような、位置取りと相手のコントロールではなく、スピードとパワーに頼った踏み込みだ。それでも、身体能力を活かせる技術がついてきている。

 近い間合いなら、光紀さんや沙耶香さんとの経験か、七・三ぐらいで私に分がある。間合いが離れるとまだまだ留美子ちゃんには勝てないけど、私の踏み込みを警戒する分、本来の力が出せないでいるようだ。それでも、良くても四・六で私が押される。


 最近、沙耶香さんの狙いが分かってきた。留美子さんにとって、私は体格差を想定した人選だ。私のパワーやスピードでは体格差を再現しきれていないことも、格闘技歴の長い留美子さんなら判る。

 私程度の相手に押し込まれるということは、ある程度の体格差には留美子さんの技は十分活かせられない。それを他人から指摘されるのではなく、自分で納得する必要があるということだ。




「昌ちゃーん。たまには他の人とやっても良いんじゃない?」


 たまには良いかもしれない。

 でも、正直なところ、他の神子たちを見る限り、私と五分以上にやれそうな人は見当たらなそうだ。

 と言うより、沙耶香さんは別格としても、技だけで私を完封した光紀さんや、抜きん出た身体能力と技を併せ持った留美子さんが凄いのだ。


「では、私と。私では役者不足かも知れませんけど」


 声をかけてきたのは高桑さん。以前、留美子さんが指導を受けていた、古武術を修めている方だ。

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