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ひめみこ  作者: 転々
第十二章 新たな日常
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通過儀礼のあと

「これで貴女も比売神子ね。これからは気軽に昌ちゃんなんて呼べないわ」


 廊下を歩きながら沙耶香さんが言う。


「いえ、これからもまだまだ教わることが多いですから、今まで通りにして下さい」


 そうだ。私はまだまだ学ぶべきことが多い。神子として以前に女性として。


「ありがとうございます。沙耶香さん」


「何よ、改まって。これは貴女の資質と努力よ。血の発現から一年! これは最短記録よ。流石、格が違うわね」




 部屋に戻ると五人が待っていた。

 春に光紀さんが抜けた。今は代わりに留美子さんがいる。


「おめでとう! 昌クン」


「聡子さん、まだボク、何も言ってませんけど」


「言われなくても結果は分かるわ。こんなフライングで通過儀礼に臨むのは、確実だからでしょ」


 直子さんが言うと沙耶香さんは首肯(しゅこう)した。


「これで昌ちゃんは比売神子よ。でも、まだまだ学ばなきゃいけないことはたくさんあるわ。今後も合宿には参加するから、よろしくね」




「あのっ、私から一言みんなに言っておきたいことがあります。

 もしかしたら、今まで通りではいられなくなるかも知れないですけど、知っておいて欲しいんです」


「昌ちゃん」


 沙耶香さんの、咎めるとも制するともつかない声。でも、言っておかないと。これ以上黙っているのは……。


「沙耶香さん。これは私のケジメなんです。通過儀礼を終えてからってのは少し狡い気もしますが、でも……。

 これで比売神子となれなくなっても、血を遺すという務めは果たします。ですから、言わせて下さい」


 沙耶香さんと目を合わせたが、返事は無かった。もっとも、どう言われても決心を変えるつもりはない。




「皆さん、本当にありがとうございます」


 私は頭を下げた。『昌』としてお礼できるうちに、この気持ちだけは言葉にしておかないといけない。


「言っておきたいこと、というのは血が出る前の私のことです」


 一呼吸して言葉を紡ぐ


「『血の発現』を迎える前は……、私は……、私は、男性でした。

 今まで黙っていて、申し訳ありません」


 下げた頭は、怖くて上げられない。

 と、誰かが近づいてきた。誰かじゃない、三、四人が近づいてくる。誰かが私の肩に手を置いた。


「やっと、言えたわね」


 直子さんだ。「えっ?」となって顔を起こす。留美子さんだけは驚愕の表情だけど、残りの四人は笑顔を浮かべている。


「薄々は、感じてたのよ。

 大卒の社会人女性としては、行動が変だったもん。でも、知識は明らかに大人。そのチグハグさが不自然だった」


 優奈さんも笑顔を浮かべている。


「でね、昌クン、本当に男の子だったんじゃない? って考えたら、ものすごく分かりやすかったの。最初に言いだしたのは光紀ちゃんだけどさ」


「そうそう。沐浴のときの恥ずかしそうな、居づらそうな仕草とか、成人女性の反応じゃないし。かといって、シモネタとかは全然平気だし」



「でも、短い間にだんだんと不自然な部分が減っていって、今じゃ普通の女の子だもんね。

 きっと、すごく複雑で大変な思いを抱えながら、一生懸命、女の子として生活してたんだろうなって」


「私らに言わせれば、なにを今更って感じかな」


「そうそう。

 でね、光紀ちゃんが言ってたの。もし昌クンが本当に男の子だったとして、でも身体に合わせて、女の子として生きようとしてるんだったら、まず私たちが受け入れなきゃってね。去年の暮れぐらいだっけ?」




 みんな私を受け入れてくれる。全身から力が抜けてその場に座り込んでしまう。


「ありがとう……、ござい……、ます。」


「ほらほら、泣かないで。せっかくの美人が台無しよ。って、美人って言われるの、やっぱり抵抗ある?」


「大丈夫、です。ちゃんと、誉め言葉、として、受けとめて、ます、から」


 私は、拳で涙を拭って、盛大に鼻をかんだ。


「ところで、私たちとしては昌クンの前の姿より、昌クンがDTだったかどうかの方が気になるんだけど……。

 あの恥じらい方はDTだからって意見と、経験が有るからこそって意見とに別れてるんだよねっ。

 どっちか、教えてくれる?」


「そそそ、それは、ちょっと……」


「言えないってコトは、DTかしら?」


「はい、そこまで。それ以上はプライバシーの侵害よ」


 沙耶香さんがそれ以上の追求を止めてくれた。




「はぁ、でも、これも無駄になっちゃったわね……」


 沙耶香さんがトランプほどのサイズのカードを直子さんに渡した。


「なんですか?」


 私が訊くと、沙耶香さんは意味ありげに笑って言う。


「血が出る前の貴方の写真よ。貴女の性別について疑いが出たときに見せようかと思って」


「えええーっ! これ、昌ちゃん本人? いや、確かにそっくりだけど」


 直子さんが叫ぶ。


「もちろん。しかも無修正! 正真正銘の生」


「沙耶香さん。ソレってまさか……」


「馬淵さんからもらった、学祭の写真。貴方が女装させられたときの」


 他の子達が一斉に写真を、私の黒歴史を覗き込み、直子さんと同じ反応をする。


「きれい……」


「美人だよ。血が出る前から美人だったんだ」


「お化粧すると、高校生でも大人っぽい」


「今は、カワイイ系よりの美人だけど、前は本物の美人だったんだ」


「昌クン、本物の美少年っていうか男の娘だったんだよ」


「これ、何年のときかな? やっぱ、一年?」


「高三でコレってことは無いでしょ」




 大学四年のときなんて言えない……。皆、私の性別なんてどうでも良くなったみたいだ。

 今の姿を誉められるのは慣れてきたけど、前世の姿を誉められるのは、改めて精神的に大ダメージ。立ち上がる気力も萎えてしまう。


「沙耶香さん……」


「何かしら?」


「どうしてあんな写真、持ってるんですか?」


「あなたの前世を疑われたときに、これを見せればみんな納得するかな、って」


「それは判りますけど、どうやって手に入れたんですかっ?」


「それは、ナ・イ・ショ」




「確かに、これ見て男だって言う人いないわ。顔の大きさ、周囲りの子とあんまり変わらないもん」


「そうそう、構図が上手いよね。振り向いた瞬間を撮るなんて。手前の女の子が上手く身体を隠してるし、遠近感で小柄に見えるし」


「でも、これで昌クンDTのセンは薄くなったね。女の子にモテてなかったら、女装させられるはずないもん。どんな人と付き合ってたのかしら?」




 言えない。妻子持ちだったなんて、絶対言えない……。

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