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 「――よかったな、泰介……三年生のクラスが〝一階〟にあって……」

 そう甲呀に皮肉を言われたのは、早くももう昨日のことである。

 ――四月十七日水曜日。登校中、朝の校門。

 いつもの時間、いつもの電車に乗り、いつもと同じ通学路を歩きながら、ずっとボクは考え続けていた。

 昨日の〝三連戦〟……いずれも完膚(かんぷ)なきまでに〝敗北〟してしまったその戦いに、そもそもボクは〝なぜ負けて〟しまったのか? ――それがボクの中では未だに、〝謎〟のままだったのだ。

 えーと? 最初のが〝触った〟からで、次が写真を〝見せた〟からでしょ? んで、最後のは〝マネ〟をしたから…………ダメだ。〝共通点〟が全く見つからない。……やっていることは全部違うのに、なぜにこれほどまで見事に失敗してしまったのだろう? 一つくらい成功しても誰も不思議には思わないはずなのに……。


 「――あ! ねぇ、あそこにいるの……れーの〝変態〟ってやつじゃない?」

 「マジで!? なんか昨日も学校中で〝暴れ回って〟たらしいし……めっさ怖いんだけど!」

 「なになに? 〝変態〟がどうしたの?」

 「いや、ね? 昨日学校中でウチら〝女子を片っ端から襲い〟まくってぇ……」


 ………………。

 「……うーむ…………なぜだろう?」

 「――現実逃避している場合ではないぞ、泰介」

 突然の〝聞き慣れない〟声……ボクはすぐに声がした方向を見てみると、そこにはやはり、特徴の少ない、短髪の〝見知らぬ男子生徒〟の姿が――

 「……やぁ、〝甲呀〟。おはよう。こんな朝っぱらに出会うなんて奇遇だね?」

 見知らぬ、という時点でもはや〝確定的〟である。おそらく今は〝太郎くん〟として登校してきている真っ最中なのだろう。確信を持ってボクは甲呀にあいさつをした。

 ――しかし、

 「あいさつをしている場合でもない。……急いで俺についてこい、泰介。かなり〝マズイ〟ことになったようだ」

 「〝マズイ〟こと? いったい何が――って! ちょっと甲呀!」

 ほとんど駆け足だ。ボクはそれを見失わないように必死に甲呀の後を追った。

 ――と、甲呀は本来、生徒玄関を入ってすぐに左にある階段を行けばボクたちのクラスであるところを、逆に〝右〟に曲がって行ってしまったのだ。

 呼び止めるヒマさえ与えはしない……ボクはそれに慌てながらも、しかし引き続き急いで甲呀の後を追った。

 ……すると、ちょうど教務室の前。そこで突然立ち止まってしまった甲呀の前方を見てみると、そこには何やら人だかりができて――

 ――瞬間だった。


 「〝変態〟だ……」






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