5-2改
【視点・甲呀→〝泰介〟】
――保健室。
具合の悪い生徒がいない場合に限りだけど、ボクたちの〝部室〟として使うことが許可されたその場所で、ボクたちは甲呀のその、熱い〝演説〟を聞いていた。
「――以上で俺の話は終わりだ」
そう呟いた甲呀は、それからいつものように、くい、と眼鏡を直し、席について改めてボクたちに向かって話した。
「……よし。では、せっかくの部活発足の記念日だ。ここはやはり、メンバー全員の今後の〝意気込み〟というやつを聞いておかなければな……まずは部長の泰介。お前から頼む」
「――え? ボク? ボクぅ?」
し、仕方ないな……まぁ、一応部長だしね?
そう思ったボクはとりあえず立ち上がり……ちなみに瞬間、「きゃー☆ たいちゃんがんばってー!」とお姉ちゃんが騒いだことは微塵も気にしない――えーと、とほっぺをかきながら話した。
「……あ、えっと……ど、どうも。部長の泰介です。部長として、一刻も早く〝変態性〟を失くして、普通の人になりたいと思います……よ、よろしく……」
パチパチパチ……静かな拍手。そりゃそうだ。だって、ボクのあいさつはありきたりすぎて、何の面白味もなかったのだから……「きゃー☆ きゃー☆」と黄色い声援(?)を送ってくれたのは、やはりお姉ちゃんだけだった。
「ふむ……まぁ、ありきたりなあいさつではあるが、部長として堅実なあいさつをするのは間違ったことではないからな……中々良かったぞ、泰介。――では、次に副部長の師匠、お願いします」
「はーい☆」
しゅぱっ! ボクが座るのとほぼ同時に、驚異のスピードで立ち上がったお姉ちゃんは、そのまま、バンザイのポーズで〝宣言〟した。
「お姉ちゃん、〝たいちゃんのために〟がんばりま~す❤」
……言うと思った。
――と、どうやら全員がそう思ったらしい。ボクの時と同じように、みんなは静かな拍手をお姉ちゃんに送った。それを見て、ボクも同じように拍手をする。
「師匠、ありがとうございます。――次はアイリサン。頼む」
「あ、はい……じゃあ」
おずおず、と控えめに立ち上がった愛梨さんは、とにかく一生懸命話し――
「え、えっと! み、皆さんの役に立てるよう、しぇいいっぱい……」
……噛んだ。
カァァ! ――せっかくの発足記念日。それなのに噛んでしまった愛梨さんは、もはや爆発寸前にまで顔を赤らめ、どうしようもなくなって、まるで消え行くような小さな声で、最後に一言だけ呟いた。
「……がんばり……ます…………」
ぱ……パチパチパチ…………。
気まずい拍手……当然(?)、お姉ちゃんだけは「かわいーよー! 愛梨ちゃ~ん☆」と……いや、もうお姉ちゃんのことは放っとこう。
「ふむ。まぁ、噛んでしまったものは仕方がないさ。そう気にするなアイリサン。――それより、次は鏡だな? 頼む」
「あ? あたし? つってもな……べつにあたしはお前と違って〝変態性〟なんか求めてないし、そもそもあたしは〝変態〟ですらないからな……特に言うことは――」
「――ほぅ? 鏡、お前は〝変態〟ではないと言うのか?」
「え? な、なんだよ……?」
たじ、といつも強気な鏡さんが、座りながらも、甲呀の言葉を聞いてほんの少しだけ身を後ろに引いた。
あれ? 鏡さん……どうかしたんだろうか? 何か思い当たる節でも……???
いや、まさかね? そんな、一番有り得ない鏡さんが――なんて思っていた、その時だった。甲呀が言い放った。
「――〝菊の花びら、二枚重ね〟」
ビシィッッ!!! ――瞬間、だった。
突然……もはやマジックのレベルだ。鏡さんがかけていた眼鏡のレンズに、〝亀裂〟が生じたのだ。
えっ!? な、何だ!? 〝菊の花びら〟がいったい……どうしたというんだ、鏡さん!!?
心の中で叫ぶボクをよそに、鏡さんはそれから、ヨロリ、ふらつきながらも、しかし全力で平静を装いつつ話した。
「……お、おっと……このめが、眼鏡も、そろそろ寿命だな。勝手に亀裂が入っちまったよ……で、で? その花びらがとうしたって? そそ、それとあたしに何の関係があるんだよ?」
「ほぅ? 強情だな? では――」
そう呟くと、甲呀はもう一言……。
「――〝弟のクラスメートと音楽の練習〟」
刹那、だった。
パリーン! 「かふぅっ!?」 ガタタン! ドサー!!!
……何だかよく分からなかったけど……とりあえず、ありのまま、起こったできごとをそのまま話すと……
――まず、鏡さんがかけていた眼鏡のレンズ部分が弾け飛び、
次になぜか鏡さんが……どこに負ったのかは分からないけど、とりあえずダメージを負い、
そして椅子ごと後方へ倒れ、
ドサー。
……以上だ。いったい、何が起こったんだろうね?




