4-16改
――のはいいんだけれど、さて、どうしよう……?
――お風呂場。
汲みたても汲みたて。ほっかほか、の一番風呂を前に、私は考えていた。
……ここは、〝他人の家のお風呂〟……私は、それこそ桜花だとか、仲の良い、〝女の子〟の家には何度か泊まったこともあるし、当然その時にお風呂も借りたことがある。
――だけど、ここは知り合って間もない〝男の子〟の……〝泰介さん〟の家のお風呂だ。
こと今日に限っては、今までのその経験は、何の役にも立たない……いや、むしろそんな経験が〝邪魔〟にすらなってしまっていた。
……だって、女の子同士なら、いっしょにお風呂に入って流し合いっこしたりするのは普通だし、いくら私に〝露出癖〟があるとはいえ、そこで私が興奮を覚えるようなことは絶対に有り得ない。けれど……しかし、ともう一度言うけど、ここは〝男の子〟の……〝泰介さん〟の家である。そんな場所で一人……たとえお風呂場内でのことだったとしても、裸に……そう、〝裸〟なっているのだと意識してしまうと、それだけで私はもう…………。
…………。
――ガッ! ジャバジュワーッッ!!
……出したばかりの冷たいシャワーの水が、噴火寸前の私の頭に触れた、瞬間。それは一瞬にして〝蒸発〟してしまった。
――落ち着け、私!!
そうとにかく、何も考えずに自分に言い聞かせ続けた私は、数秒後……それがやっとお湯になり始めた頃、ようやく正常な思考回路を取り戻すことができた。
……いったい私は、他人の家で何を考えているんだろう……まったく以って失礼にもほどがある。……せっかく、泰介さんがご厚意で一番最初に入れてくれたというのに……。
……あ、水がもったいない。シャワーを出したついでに、髪と身体を洗ってしまおう。
そう考えた私はいったんシャワーを止め、一応持参してきたお風呂セットからシャンプーを取り出して、頭に付けた。
そして髪を洗いながら、改めてほんの少しだけ、泰介さんのことを考える。
……そういえば、私が泰介さんの家に直接勉強を教えに行くって決まった時、桜花は、私が泰介さんに〝変なこと〟をされるかもかもしれないから、やめておいた方がいい。って、すごく反対していたけれど…………実際、泰介さんは私のことを〝どう〟思っているのだろうか?
……ただの……〝友だち〟?
――うん。優しい泰介さんのことだ。たぶん、その線が一番可能性としては高いだろう。
けれど……でも、それとはべつに……ううん。たとえ本当に〝ただの友だち〟としか思っていなかったとしても、桜花が言っていたように、泰介さんは私のことを見て〝変な気持ち〟になったりはしない……のだろうか?
――そう。つまりは〝異性〟として、泰介さんは私のことを、〝どう〟、思っている……のかな……?
……。
……。
……。
――って! やめやめ! こんな意味のない妄想!!
あはは、と静かに笑ってそれをごまかした私は、泡といっしょに、シャワーでそんな私の考えを一気に洗い流した。
だいたいからして、今はそんなことを考えている場合じゃないじゃない! 私の後には泰介さんとお姉さんがお風呂に入ろうと待ってるんだし、ここはちゃっちゃと洗って済ませちゃわないと!
私は急ぎ、今度こそただひたすらに髪を洗い、身体を洗い、そしてあとは湯船で身体を温めるだけ、の状態にした。
――よし! じゃあ温まったらすぐに出よう! そして泰介さんがお風呂に入り終わって一息ついたら、改めて勉強を……はっっ!!?
ピタリ! 私は、私の脚が湯船に浸かろうとした、その瞬間。〝そのこと〟に気がついて、寸での所でそれを止めた。
〝そのこと〟、とは……
――そうだよ。考えてみ見れば私の後……泰介さんが〝同じ湯船に〟浸かることに……!!!
……誰が考えても必然的で、そして当然のこと。
だけど、それが何よりもの〝問題〟だった。
だって……そうでしょう? 料理だって温かいお湯に食材を入れれば、出汁……〝エキス〟が出てくる。それと同様に、人間だって温かいお湯に入れば、当然〝汗〟や〝体液〟などがそこに溶け出してしまうのだ。
つまり、私がこの湯船に浸かってしまった場合、それは即ちこの湯船自体が私の〝出し汁〟となってしまうことを意味し、その〝出し汁〟に泰介さんが浸かって……どころか、下手をしたら〝口に入って〟…………。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
――ムリっっ!! ジャバジュワー!!
……かなり考えて、しかしやはり私には、とてもそんな〝勇気〟を持つことはできなかった。
……ごめんなさい、泰介さん……せっかく汲んでくれたのに、私……浸かることができません。
せめて……せめてもう少しだけ〝仲良く〟なれたら……その時こそ…………。




