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 ……え?

 ――ゆりちゃん先生の、突然のカミングアウト……。

 信じられない……ボクはそう思いながらも、念のために聞き直した。

 「ゆりちゃん先生って……〝変態〟……って、呼ばれたことがあるの? ――そんなに美人さんなのに?」

 「うふふ、ありがと❤」

 でも、とゆりちゃん先生は続けた。

 「美人とかそんなの関係ないよ~。――何だかんだ言っても、やっぱり、保健の先生ってどうしてもそういう〝職業柄〟でしょ? だから、意識してなくても、自然とそういうふうに呼ばれちゃうことがあるのよね~……まぁ、もちろん。〝直したい〟な~……とは、自分でも思っているんだけどね?」

 「……へ~……そういうものなんだ……」

 ……何だか、もしもゆりちゃん先生が、ボクたちの部活の〝顧問〟だったなら……すごく、〝ぴったり〟な気がする。――なんて、一瞬だけど考えてしまった。

 まぁ、とはいえ、ゆりちゃん先生をまさか、そんな〝顧問〟になんて…………。

 ……。

 ……。

 ……。

 ――ん!? いや、待てよ!?

 はっ!! ――ボクは〝そのこと〟に気がつき、思わず声を上げた。

 「そうだよ! 〝ぴったり〟じゃないか! ゆりちゃん先生!!」

 「え? 先生の……何が〝ぴったり〟なの???」

 「――ボクたちの部活の〝顧問〟にだよ!!」

 何で今まで気づかなかったんだ! 言い放ってからボクはそのまま続けた。

 「ゆりちゃん先生は保健医とはいえ、立派な〝先生〟じゃないか! それに自身も〝変態〟と呼ばれることを〝直したい〟と思っている……こんな〝適役〟、そうはいやしないよ!! ねぇ、そうだよね、甲呀!!!」

 「……ふっ!」

 スチャ! 甲呀はいつものように…否! いつも以上に鋭く眼鏡をかけ直し、話した。

 「――そうだな、泰介……これは〝運命〟だ。……そう! 俺たち〝変態〟を掲げる者同士、自然に引き合う〝運命〟にあったのだ……!」

 ズバァアッッッ!!!

 甲呀は、まるで空間を引き裂くような鋭さでゆりちゃん先生のことを指差し、そのまま言い放った。

 「単刀直入に言おう! 伊東 百合根先生! 俺たちの部活の〝顧問〟になってはいただけないだろうか!」

 「え? ……ああ、〝一昨日山田くんが言ってたやつ〟……じゃなかった!」

 えーと……こほん。

 ゆりちゃん先生は一度咳払いをしてから、改めて言った。

 「――な、なんだと~(棒)! いいだろう~(棒)! ただし先生との〝勝負〟に勝ったらの話だがな~(棒)! はっはっはっ~(棒)!」

 「……」

 「……」

 「……ねぇ、甲呀?」

 「……何だ?」

 「……え? 何? 甲呀って最初からゆりちゃん先生のこと……ゆりちゃん先生が〝変態〟って呼ばれてたこと、〝知ってた〟の? 知ってて、わざわざボクたちに〝無意味な勧誘〟をさせてたの?」

 「…………はて? 俺には何のことだかさっぱり?」

 「そうだぞ~(棒)! 先生は一昨日の放課後、山田くんとなんか会ってないぞ~(棒)!」

 ………………。

 何この茶番!!?

 くっそ~! とボクは、そんな茶番を序盤に見破れなかったことを(なげ)いて、それから思いっきり歯を噛みしめた。どうしてボクはこう、いつもいつも……。

 「――ねぇ、ところでゆりちゃん?」

 と、そんなボクのことをすぐ隣で見ていたお姉ちゃんがゆりちゃん先生に質問した。

 「その、〝勝負〟って……〝何〟? いったい何をすればいいの?」

 ――はっ!! そうだよ! いつまでもこんなどうしようもないボク自身のことで悩んでいる場合じゃない! 最優先すべきは〝顧問獲得〟だ!

 そう思ったボクはすぐに体制を立て直し、同じくゆりちゃん先生に聞いた。

 「そうだよゆりちゃん先生! いったいボクたちは何をすればいいのさ! もうこの際、どんな〝勝負〟でも受けて立つよ!」

 「え? あ、うん……えっとね?」

 じゃあ――

 ……ごくり!

 思わず、のどが鳴った。……半ば勢いで、どんな勝負でも受けて立つよ! なんて言ってしまったけれど……実際、無理難題で勝負を挑まれたらどうしよう? 例えば、高級ステーキ店のメニューを全部一日で食べつくせ! ただし、代金は部長であるボク持ちで! ……とか? そんなことを言われた時点でボクは破産だ。生活費の全てをそこにつぎ込んだとしても、とてもじゃないが間に合わないことだろう……。

 ごくり……再びのどが鳴った、――次の瞬間だった。

 「――とりあえず、今日は遅いからもう帰りなさい? 明日部員が全員揃ったら、改めてちゃんと説明してあげるから……ね❤」

 「「「――了解!!」」

 ――というわけで、翌日への持ち越しとなった。





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