9-11
『――お待たせしました! えーと、カップ……何だっけ?』
「泰介さん、〝カプチーノ〟ですよ!」
『ああ、そうそう! カップ…〝血〟の??? ――あ、です! どうぞ!』
――午後の店内。
私たちの休憩も終わり、残す大波は夕飯時だけとなったそこで、正直、私は驚きを隠せずにいた。
……いったい何の? とはもちろん、泰介さんの仕事内容……その〝改善計画〟が、思いの外〝うまくいっている〟ということにだ。
どういうことなのか? それをより詳しく説明すると――確かに、たった今お客さんの所に運んだ〝カプチーノ〟のように、泰介さんにとってほんの少しだけ〝難しい〟名前の物は、正確に伝えることはできない。でも、それ以外の、泰介さんにもわかる〝簡単〟な物……例えば、そう。〝コーラ〟とか。
泰介さんは一度、コーラのことを〝甲羅〟と聞き間違えて混乱していたけれど、それをこの〝盗聴器という名の通信機〟を使って私が正してあげたところ……なんとなんとびっくり! 泰介さんの聞き間違えがほとんど〝ゼロ〟になってしまったのだ!
それどころか、さらに泰介さんが毎回のように忘れてしまっていた、コーヒーや紅茶のセット一式……つまり、お砂糖やミルク、ティースプーンなんかのことなんだけど、あれも泰介さんにマイクに向かって小声で呟いてもらい、私がその都度確認するようにしたところ、こちらも〝ゼロ〟に…………これで、驚くな、と言う方がムリというものである。
「――驚いたな」
と、そこに、私と同じ意見を持つ人がもう一人。――太郎くんだ。
太郎くんは、カチャリ、とメガネを直してから口を開く。――それに気がついた私は、マイクに手を添えて、泰介さんの方に音が聞こえないように配慮した。
「よもやこれほどの効果が出るとは……改良はあったとはいえ、仮にも発案者の俺がこんなことを言うのもおかしな話ではあるが――はっきり言って、予想外の結果だ。これならばその辺にいる新人のアルバイトと大差はない。……とすら言えるかもしれんな」
「確かに、そうかもしれませんね」
相槌を打った私は、接客途中の泰介さんの言動に注意を払いつつも、続けた。
「まだ若干の〝違和感〟……というか、〝ぎこちなさ〟や〝勘違い〟は残ってますけど、それでも充分に改善されたのではないかと思います。――これはひょっとすると、このまま私たちの目標を……〝変態〟からの〝変態〟という目標が達成できちゃうんじゃないでしょうか?」
「……どうだろうな? そこまで簡単な話では……いや、よそう。今は少なからずも〝前進〟したというこの〝達成感〟だけで充分だ。――それより、また客がきたようだな。水を……」
――ん? この気配は……。
そう、太郎くんが呟いた、次の瞬間だった。
チリンチリ~ン♪
「いらっしゃいま……あっ!」
お客さんが入ってきたと同時に、お姉さんが声を上げたのだ。
それに気がついた泰介さんが続いて声を上げる。
「『ゆりちゃん先生!!』」




