表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/172

9-11




『――お待たせしました! えーと、カップ……何だっけ?』

「泰介さん、〝カプチーノ〟ですよ!」

『ああ、そうそう! カップ…〝血〟の??? ――あ、です! どうぞ!』

 ――午後の店内。

 私たちの休憩も終わり、残す大波は夕飯時だけとなったそこで、正直、私は驚きを隠せずにいた。

 ……いったい何の? とはもちろん、泰介さんの仕事内容……その〝改善計画〟が、思いの外〝うまくいっている〟ということにだ。

 どういうことなのか? それをより詳しく説明すると――確かに、たった今お客さんの所に運んだ〝カプチーノ〟のように、泰介さんにとってほんの少しだけ〝難しい〟名前の物は、正確に伝えることはできない。でも、それ以外の、泰介さんにもわかる〝簡単〟な物……例えば、そう。〝コーラ〟とか。

 泰介さんは一度、コーラのことを〝甲羅〟と聞き間違えて混乱していたけれど、それをこの〝盗聴器という名の通信機〟を使って私が正してあげたところ……なんとなんとびっくり! 泰介さんの聞き間違えがほとんど〝ゼロ〟になってしまったのだ!

 それどころか、さらに泰介さんが毎回のように忘れてしまっていた、コーヒーや紅茶のセット一式……つまり、お砂糖やミルク、ティースプーンなんかのことなんだけど、あれも泰介さんにマイクに向かって小声で呟いてもらい、私がその都度確認するようにしたところ、こちらも〝ゼロ〟に…………これで、驚くな、と言う方がムリというものである。

「――驚いたな」

 と、そこに、私と同じ意見を持つ人がもう一人。――太郎くんだ。

 太郎くんは、カチャリ、とメガネを直してから口を開く。――それに気がついた私は、マイクに手を添えて、泰介さんの方に音が聞こえないように配慮した。

「よもやこれほどの効果が出るとは……改良はあったとはいえ、仮にも発案者の俺がこんなことを言うのもおかしな話ではあるが――はっきり言って、予想外の結果だ。これならばその辺にいる新人のアルバイトと大差はない。……とすら言えるかもしれんな」

「確かに、そうかもしれませんね」

 相槌を打った私は、接客途中の泰介さんの言動に注意を払いつつも、続けた。

「まだ若干の〝違和感〟……というか、〝ぎこちなさ〟や〝勘違い〟は残ってますけど、それでも充分に改善されたのではないかと思います。――これはひょっとすると、このまま私たちの目標を……〝変態〟からの〝変態〟という目標が達成できちゃうんじゃないでしょうか?」

「……どうだろうな? そこまで簡単な話では……いや、よそう。今は少なからずも〝前進〟したというこの〝達成感〟だけで充分だ。――それより、また客がきたようだな。水を……」

 ――ん? この気配は……。

 そう、太郎くんが呟いた、次の瞬間だった。


 チリンチリ~ン♪


「いらっしゃいま……あっ!」

 お客さんが入ってきたと同時に、お姉さんが声を上げたのだ。

 それに気がついた泰介さんが続いて声を上げる。

「『ゆりちゃん先生!!』」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ