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「――じゃあ、そんな感じだからよろしく頼むよ太郎くん。何か分からないことがあったら、オジサンかチーフ、もしくは愛梨ちゃんに聞いてね?」

「分かりました」

 ――五月四日、土曜日。開店十分前の店内。

 一応、と言っておこう。一応、なんとか無事に、実質的な被害〝だけ〟は出すことなく一日目のバイトを終えた私たちは、家族と旅行に行くことになっていた桜花が太郎くんと交代した状態で、さっそく二日目のバイトに突入しようとしていた。

 ……のだけれど、

「――で? アイリサン? 初日の戦果はどうだったんだ?」

「太郎くん……はい、実は……」

 す……私は、おじさんから仕事の説明を聞き終わり、執事風制服に着替え終わった太郎くんのすぐ目の前……弾けたボタンの代わりに、白い、ヒラヒラ、した布で胸元を修理されたお姉さんからいっしょうけんめい仕事を教わる、泰介さんの方を指差した。

 すると……

「――違う違う! たいちゃん、そこは笑顔でウインクを……」

「笑顔でウインク……こ、こうかな?」――バチコ~ン☆ ※謎の効果音。

「そうそう! たいちゃんかわいいよ~☆」

 …………。

「――という感じなんですよ」

「……ふむ。今のワンシーンで昨日あったことの全てを理解しろ、というのも実に難しい話ではあるが……まぁ、泰介のことだ。どうせ、朝は朝で、開店前に店の制服に着替える際、アイリサンの代わりなんだから、とか何とか言って〝女性用制服〟に着替えて出てきたり、昼は昼で、アイスコーヒーのことは〝アイスのコーヒー〟。コーラのことは〝甲羅〟……そういう細かな間違いを連発していたのだろう? それを見ていたお前は、予想外にもまともに仕事をこなす姉のことを適当な理由を付けて泰介に見てマネするように指示を出した、と……違うか?」

「……え? あれ? そんなに詳しくわかるだなんて……もしかして太郎くん、また変装でもしてお客さんの中に……?」

 いいや。太郎くんは首を横に振り、すぐに答えた。

「今回〝は〟そんなことはしていないさ。ただ単に、中学の頃行われた文化祭のカフェで、泰介は今言ったことと〝全く同じ〟間違いをしていたものでな。もしや、と思ったんだが……その反応を見る限り、どうやら〝的中〟だったようだな?」

「………………はい」

 ああ、なるほど……と、疑う余地もなく私は納得してしまった。だって、そう。同じ間違いを何度もする……それもまた泰介さんの〝十八番〟というやつであるのだ。太郎くんの言うとおり、今になって始まったことじゃない。

 ……はぁ~。

 ガックリ、と……まだ始まってもいないのに、昨日に引き続いてさっそくため息をこぼしてしまった。今日はいったい、あと何回ため息をこぼすのか……正直、不安だ。

 ちなみに、とそれから私は、一応太郎くんに続きを話した。

「お姉さんの動きを見てマネするように指示を出した後のことなんですけど、どうやら泰介さんにはそもそも、〝男女の動きの差〟というものがわかっていないらしくて……結果、今やっているみたいに〝ウインク〟をしてみたり、『うっふ~ん❤』とか、『あっは~ん☆』って……何だか意図せず〝オカマ〟みたいな行動をとるようになってしまって……私的には、泰介さんの性格や能力を逆に利用した良い考えだと思ったんですけどね~……」

「確かに、考え方としては良いかもしれんな。――しかし、相手はあの泰介だ。幼少からの生粋の〝変態〟……その程度で〝変態性〟が抜けるのならとっくの昔に〝変態〟からの〝変態〟という目標は達成できているさ。そう気に病むな」

「……はい。ありがとうございます……」

 でも、とどうしても続けてしまう。

「今日を入れて、あと三日間〝も〟あるんですよ? もし泰介さんがこのまま何も進展を見せなかったら……お店の評判が…………」

「……それこそ、確かにな。実際、そんなことがあったのなら、昨日の時点で少なからず店の評判は下がったことだろう」

「……ですよね~?」

 じゃあ、どうしたら……。




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