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 ――えっ!?

 突然大声を上げたのは……お、〝お客さん〟!?

 ――そう。声を上げたのは……今まさに私が考えていた、コップにボタンが入ってしまった席に座っていた、野球帽みたいな帽子を被った、男のお客さんだったのだ!

 まさか、お姉さんのことで機嫌を……っ!?

「――も、申しわけありません!!」

 その時だった。私が考えるよりも早く、おじさんがキッチンを飛び出していたのだ。

 おじさんはそれから、大急ぎで野球帽のお客さんに謝った。

 だけど……!!

「バイトの子が大変失礼いたしました! すぐに新しいお水を――」

「――いや、その必要はない!」

 ダンッ! 野球帽のお客さんはおじさんの言葉を最後まで聞くことなくそう言い放ち、テーブルを強く叩いて席から立ち上がった。

 ……どうやら、などと言うまでもなく、野球帽のお客さんはやはり、先ほどのことでものすごく機嫌を悪くしてしまったらしい。眉間にしわを寄せ、顔をしかめてしまっていた。

 さすがのおじさんも、お客さんにこんな顔をされてしまってはもう何も言うことはできない。申しわけなさそうに、黙ってただ頭を何度も下げていた。

 それを見た野球帽のお客さんは、最後に……

 ――ガシッ! ゴクゴクゴク……。

 と、ボタンが入った水を一気に飲んで…………。

 …………。

「「「「「えっっ!!?」」」」」

 思わず声が出てしまった。当然、それは周りにいた他のお客さんたちも同じこと。「あの人何してるの!?」とか、「何で飲んでんだ!?」とか、そういう声が次々に上がっていった。

 私自身も、その行動の意味が全くわからない……え? このお客さん……ボタンが入ってしまったことに怒っていたんじゃ……???

「――ごちそうさま」

 と、次の瞬間だった。野球帽のお客さんは、舌の上に残されていたボタンを左手でつまみ取ると、なぜか、お姉さんの方に向かって歩き始めたのだ。

 そして、

「――お嬢さん、これは俺のほんの〝キモチ〟だ。受け取ってくれ」

 そう言ってポケットから取り出したのは、〝財布〟……野球帽のお客さんはそこからお札を一枚取り出し、折りたたんで……


 ――ツポ。


 お姉さんの……胸の、谷間に……。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

「……え? あの……これは???」

「……ふっ」

 野球帽のお客さんはお姉さんの問いに答えることなく、不敵に笑うと……汗だくになって混乱する私たちをそのままに、出口へと向かって歩いて行った。

 そして、その扉を開けて外に出ようとした――瞬間。


「――良いモノを見せてもらった。……またくるぜ」 キラーン☆


 そう言い置き、立ち去って……。

 ……。

 ……。

 ……。

「――よし、レモンティー二つできあがり~! ……って、アレ??? みんな……どうかしたの???」

「泰介さん……」

 ……何が何だか、未だに私には理解することができなかった。

 でも、そんな中でも、私はたった一つだけ、言いきれることがあった。

 それは――

「……良かったです。今のシーンを、あなたが〝見ていなくて〟…………」

「……え???」





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