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はふぅ~。今度は、安堵と達成感によるため息。
今日は色んな種類のため息をつくな~。なんてことを考えながら、私はふと、勝手に見本役に指名してしまったお姉さんの方を見た。
――瞬間だった。
「ご注文はお決まりで――」
ミチィッッ!!
……み…ちぃ……???
いったい何の音だろう? 何か、お姉さんの方から聞こえたような気が……???
不思議に思い、そのまま私はお姉さんの方を見ていると、続いて……
ブチブチ…ブチッ!!
何かが〝千切れる〟ような音……間違いない。その音は間違いなく、何と言うこともなく普通に接客中のお姉さんの方から――いや、違う!!
私は〝そのこと〟に気づき、心の中で訂正した。
――あの音は、〝お姉さんそのもの〟から鳴っているんだ!!
だって……ッ!!
「……ん? ――わっ!?」
ブチンッ! ボンッ! コツコツン…ポチャン!
……。
……。
……。
……突然響いた〝妙な音〟に、静まり返る店内。
お客さんを含め、その音に気がついた全員がお姉さんの方を振り向くと、そこには……
胸が〝巨大化〟し、服がはだけて水色のブラジャーごとそれが丸見えになってしまっている、お姉さんの姿があった……。
「あちゃ~。〝キツイ〟なぁ~とは思ってたけど、やっぱり〝弾け飛んじゃった〟かぁ~」
冷や汗モノの光景とは裏腹に、呑気な声を上げるお姉さん……。
お姉さんははだけた服をつまみ、何とか胸をしまおうとしていたけれど……そこにはすでに、あるはずの〝ボタンが付いていない〟。応急処置として服を縛ろうにも、服の両端の長さが圧倒的に足りていない状況だった。
……さて、
〝キツイ〟。
〝弾け飛ぶ〟。
〝ボタンがない〟。
〝服の胸元の長さが足りない〟。
……これだけヒントが出揃っていれば、ほとんどの方はもうおわかりだろう。
そう。あの〝妙な音〟の正体とは――
お姉さんの胸が〝大きすぎて〟それにボタンが耐え切れず、〝千切れ飛んで〟しまった音。
――だったのだ……。
……ボタンが千切れ飛ぶなんてこと、現実的にあり得るんだ……そんなことをこの場にいたお姉さん以外の全員が考えていると、あまりにも衝撃的な光景にそれから少し遅れておじさんの指示が飛んだ。
「…………はっ!? ちょちょっ!? なずなさん!? 大丈夫!? てゆーか早く着替えてきて! あとそれから、お客さんにも謝って!」
慌てるおじさんとは真逆……お姉さんは何も気にすることなく、「はーい☆」といつもの調子で話した。
「ごめんね、お客さ~ん? 飛んだボタンがコップに入っちゃったみたいだから、すぐに新しいの持ってくるね~?」
「いや! それは他の子がやるから! とにかくすぐに着替えてきてってば!」
え~、何で~? ――お姉さんは本当に理由がわからないのか、「???」と大きく首を傾げていた。……こういうところを見ると、やっぱり〝姉弟〟なんだな~。と心の底から思う。どうやらあの二人には、〝羞恥心〟というものが本当に存在していないらしい。
「お、おい姉ちゃん! いいから! ここはあたしがやるって!」
ざわざわ、と騒めきたってきた店内に慌ててか、今度は近くで注文を取っていた桜花が走ってきてお姉さんを諭した。するとようやくお姉さんは、「うん? 分かったよ~?」と応え、こちらに向かって戻ってくる。
……な、何はともあれ、どうやら大事には至らなかったようだ。被害は弾けたボタンがお冷のコップに入ってしまっただけ。それだけならすぐに交換して謝れば、お客さんだって許してくれ――
「おい! ちょっと待て!!」




