8-12 八話目終わり。
「へ~? そうなんだ? 分かったよ~☆ ――ところでこの服って、チーフの手作りなの? すご~い!」
「ん? あら、ふふ♪ ありがとう?」
趣味をほめられたことでチーフは一転。笑顔になって答えた。
「実は、昔からこういう服に憧れていてね? 義二さん……マスターと結婚してカフェを始めることになった時に、じゃあせっかくだから、と思って作った服なの。お客さんからも結構好評みたいだし、すごく気に入っているのよ? ……まぁ? 同じ服を着ていても、愛梨ちゃんが〝一番人気〟だっていうのには、若干だけどヤキモチを焼かざるを得ないんだけどね?」
「――えっ!? いや! 私なんか、そんな……!」
慌てて否定しようとした私の口を、チーフは優しく人差し指で押さえて止めた。それから、チラリ、となぜか、おじさんのことを横目に見つつ話した。
「いいのよ、謙遜なんかしなくても。だって事実なんだから。それに、あの人みたいなオジサンたちのことを毎日見ていれば、簡単に分かっちゃうわよ。――やっぱり十代の女の子はかわいいな~……って。ね? マスター?」
「う……か、香苗~! 勘弁してよ~!」
「うふふ、冗談よ。〝半分〟は……ね❤」
「あ、あはは……ごめんなさい……」
……な、なるほど。どうやらチーフは、さっきの〝キューン〟のことといい、決して言葉にこそ出さなかったけれど、自分より若い私たちが大勢いることで、普段よりも浮足立ってしまっているおじさんのことを怒っているらしい。
……まぁ、だけど、それも所謂一つの〝愛のカタチ〟というやつなのかもしれない。だって今日から四日間は、私たちにとってはただの臨時のアルバイトかもしれないけれど、おじさんたちにとっては……大げさに言えば、人生がかかっている大事な稼ぎ時なのだ。せっかく営業に必要な人数が揃っても、それを疎かにしてしまっては元も子もない。
〝しっかりしなさい〟――チーフは、夫婦だからこそ伝わるこの想いを、おじさんに送ったのである。
「うふふ、うふふふふ……❤」
「あ、あは、あはは…………」
…………たぶん。
そ、そんなことより! とまるで、気まずい空気を無理やり振り払うがごとく、突然大声を上げたおじさんは、店内の中心。オープンキッチンのちょうど真上に設置された時計を指差しながら話した。
「ちょうど十時だから、開店するよ! 何、いくらゴールデンウィークだからといっても、開店してすぐに大量のお客さんが流れ込んでくるなんてことはないから安心してよ。あとは元気にあいさつすることを忘れず、基本どおりに! 分かったかな?」
「了解!」「ラジャ~☆」「がんばりま~す」「わ、私も精いっぱいがんばります!」
よし! おじさんは頷き、そして玄関先に下げられた【準備中】の札をひっくり返した。
「――では、開店!」




