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2-2改




 「――久しぶりだな、泰介? かれこれ中学の卒業式以来か?」

 ふっ……ボクは一度、いつの間にか頬を伝っていた冷や汗を拭ってから、静かに話した。

 「まぁ、ね。……でも、甲呀。やっぱりキミは、ボクのことを〝追ってきた〟んだね?」

 「当然だ」

 スチャ、と甲呀はメガネを中指で直すと、無表情のまま、どこか遠くの空を見つめながら続けた。

 「俺にはお前の〝変態性〟が〝必要〟なんだ。どうしてもな……だから俺は、お前がいかなる(さく)(こう)じて俺や他の生徒たちの手から逃げ出そうとも、俺は必ずお前のことを見つけ出し、そして〝見習(みなら)わせて〟もらう――俺が〝変人〟から〝変態〟に成る、そのためにな……!!」

 ……はぁ~…………ボクは、ため息をついた。

 やれやれだ。まったく、この甲呀という男……実に執念深(しゅうねんぶか)い。

 先ほどボクも、甲呀自身も言ったけど……何を隠そうこの男は、自他共に認める、〝変態〟に成りたいけど成れない、所謂〝変人〟というやつであるのだ。

 なぜ、〝変態〟に成りたいのか……それは長年いっしょにいたボクにも、誰にも分かりはしない……けれど、甲呀はとにかく〝変態〟に成ることに〝(あこが)れ〟、そしてその努力を()しまず、ボクを〝師匠(ししょう)〟とさえ(あが)めて、ずっと……なんと〝小学生の頃〟から常に追いかけ回していたのだ。

 ……まぁ、結果として、甲呀は未だ、〝変態〟に成れない〝変人〟、のままではあるんだけれど……でも、それでも甲呀は諦めない!


 ――きっと、甲呀は〝変態〟に成れるその日まで、ボクの背中を追い続けることだろう。


 ……って!

 「違うよ! 違うよ甲呀!! 何かとりあえずはそれっぽい理由をつけてカッコよさげに言ってるけどさ? 実際やってることはただの〝歪んだ愛のないストーキング行為〟だよね!? ボク、すっごい迷惑なんだけど!? 今すぐやめてくれるっていう選択肢はないの!!?」

 「ない」

 ズバリ、ドストレートに答えた甲呀は、それよりも、と……話を今朝の続きに戻した。

 「いいのか、泰介? あの〝鬼〟にやられっぱなしで? ……これから毎日、そのアイリサンという女子生徒と会うんだろ? 今朝いきなり殴られた理由を調べなければ、このままでは毎日〝鬼〟にやられることになるぞ?」

 「話を()らさないでほしいな~……って言いたいところだけど、うん……まぁ、実際そうなんだよね。甲呀のことより、〝鬼〟の問題の方が解決を急がなきゃだし。……あ、ところで、ボクあの〝鬼〟の〝名前〟すら知らない状況なんだけど? ……一年生の、それもボクと同じクラスにいたってことは……やっぱりボクのクラスメートなのかな?」

 「……さぁな。何ぶん俺も、お前も、この学校には入学してきたばかりだからな。知り合いもいないことだし、詳しくは知らん。……だが、となればやはり、余計にやつのことを調べておいた方がいいんじゃないのか? 今後のためにもな」

 「……だね。――よし、そうと決まれば」

 ばっ! ボクは、甲呀の方に向かって〝右手を伸ばした〟。

 その意味とは、当然……。

 「――もちろん、〝手伝って〟くれるんだよね、甲呀?」

 そう。言わば緊急時の〝救援(きゅうえん)要請(ようせい)〟……カチャ、とどうやら甲呀も、その意味はすぐに理解したようだ。反対の手でメガネを直しながら、すっ、とボクに向かって手を伸ばしてきた。

 「……ふっ、まぁ、〝見習わせて〟もらっているんだ。それくらいお安い御用(ごよう)さ。――共に〝明日〟を掴み取ろうではないか」

 「――(おう)ッッ!!!」

 がしぃっっ!! ――そしてボクと甲呀は、それから、がっちり、と固い握手を交わした。

 「……あ、ねぇ? ところで、甲呀?」

 「……何だ?」

 「うん……いや、あのね? さっき……甲呀はこの学校に〝入学したばかり〟って言ってたけど、あれって……ドユコト? あれ? ボク……〝みんなとは違う高校に行こう!!〟計画で、確かに誰もこの学校に……それこそ受験にすらきてないことを確かめたはずなんだけど……何で、甲呀がさも当然のように〝入学できちゃってる〟わけ? おかしいよね、色々と?」

 ……ふっ、と甲呀はまた、それこそ表情は変えなかったけれど、くい、とメガネを直してから、ボクの〝素朴(そぼく)な疑問〟に答えた。

 「……簡単なことさ。まずは(デコイ)として本名でてきとうな学校を受験し、その後〝本命〟であるこの学校には〝偽名〟を使って受験する……そして両方に合格し、お前が囮に引っかかって安心しきったところで、囮の学校の方を適当な理由をつけて辞退。あとはそのまま政府等、諸々(もろもろ)を(だま)し抜き、〝偽名〟のまま俺はこの学校に通常入学する……と。まぁそんな感じだ。――ちなみに今の俺の名は、忍野 甲呀ではなく、1―4―38番、山内(やまうち)…いや、〝山田(やまだ) 太郎(たろう)〟だったか? とりあえずはそんな感じだ。これからは気軽に〝太郎くん〟と呼んでくれ」

 「へ~、そうなんだ~……じゃあ――」

 ――すうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………


 「呼ぉぉべぇぇるぅぅかぁぁあああーーーーーーーーーーっっッッッ!!!!!!!!!!」


 ――ボクはそう、全力で叫んだ。





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