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 ~♪♪♪


 突然の電話の着信音。

 ……いつ電話がかかってくるのかは電話をかけてくる相手次第だから、こんなふうに言うのはちょっとだけ変かもしれないけれど、その予期せずかかってきた電話に、止まらないかもしれないとすら思っていた私の変な笑いは、一瞬にして止まってしまうことになった。……人間の感情って、実に不思議である。

 ……誰だろう、こんな時間に?

 桜花のことは泰介さんに聞いていたからアレかもしれないけど、基本的に私のスマホに電話がかかってくることはまず有り得ない。だって、普段はみんなL○NEとかでの会話だし……。

 もしかしたら、桜花が何か伝え忘れたのかな?

 そう考えた私はすぐに……ゴロゴロ、と、くわんくわん、のダメージのせいで、すぐには立ち上がれなかったけれど、何とか電話が切れてしまう前にテーブルの前にたどり着き、雑誌の上のスマホに手を伸ばした。

 ――と、そこに表示されていた名前は……【おじさんのカフェ】。

 ……紛らわしい名前だけど、おじさんというのは〝叔父〟さん……つまり、私のお父さんの弟である人が、夫婦で経営しているカフェのことだ。一応説明すると、決しておじさんだらけのカフェなどではない。むしろ学校や会社の近くにあるため、女子に人気のお店だ。

 ここは私がちょっとしたお手伝い(アルバイト)に行っているお店でもあるんだけれど……いったいどうしたというのだろう?

 ポン。……気になった私は通話マークをタップし、すぐにそれに応えた。

「はい。愛梨ですけど……どうしたんですか、おじさん?」

『――おお、愛梨ちゃん! 悪いねこんな時間に……あのさ、指の具合はどうかな?』

「指……ああ、爪のことですね。それなら、はい。新しい爪が生えてきたばかりでまだ痛みはありますけど、日常生活に問題は……って、もしかして、バイトのことですか?」

 爪のことで私に電話=バイトのこと。という簡単な推理が成り立ち、私はそう聞くと、『さすが、鋭いね愛梨ちゃん』と一言置いてからおじさんは続けた。

『実はさ、もうすぐ〝ゴールデンウィーク〟でしょ? それでお客さんが急激に増えてきちゃってて……いや! もちろんそれはカフェの経営者としてうれしい限りなんだけど、〝人手〟が、ねぇ……?』

 ……なるほど。事件のことで頭からは完全に飛んでいたけど、そういえば明々後日の五月三日、金曜日からは〝ゴールデンウィーク〟だ。……今年は少し少ないけど、それでも四日間の大型連休。自然とお客さんが増えてくるのは誰が考えても明白というやつだった。

 だけど、と私は、絆創膏がいくつも貼られた自分の指を見つめながら、おじさんに話した。

「すみません、おじさん……まだ重たい物とかを持つと血が出ることもありますし、何よりカフェなので、衛生的にもバイトは……」

『ああ、いや! それはオジサンも十二分に分かってるよ』

 ただ、とおじさんは続けた。

『どうしても、人手が足りなくってね。そこで愛梨ちゃんに〝お願いしたいこと〟があって電話したんだ』

 〝お願い〟???

「何ですか?」聞くと、おじさんはすぐに答えた。

『いやね? 愛梨ちゃんって、お友だちとかいっぱいいるでしょ? その中で……ホント、ゴールデンウィーク中だけでいいんだ! 何とか愛梨ちゃんの〝代わりに働いてくれる〟ような子はいない……かな?』

 ああ、なるほど。それなら確かに、今の私にも役立つことはできる。

「わかりました、いいですよ?」

 特に返事を迷うような理由もなかったため、私は即答した。

「ただ、今日はもう遅いので、明日、学校に行ったら友だちみんなに聞いてみます。……あ、ちなみに、普段はチーフ(おじさんの奥さん)と私だけで回ってますけど、お休み中はそうもいきませんよね? 何人くらい必要ですか?」

『う~ん……オジサンのお店の座席数から考えて、そうだね……本来であれば、愛梨ちゃんみたいに接客に慣れてる子が一人いれば問題はないと思うんだけど……でもまぁ、接客が初めての子もいるだろうし、最低二人……欲を言えば、三人くらいは欲しいかな? あ、男女は問わないからね?』

「わかりました。三人ですね? 任せておいてください!」

『おお、頼もしいね~! ははっ。――じゃあ、よろしく頼むよ、愛梨ちゃん!』

「はい! それじゃあ、お休みなさ~い」

『うん、遅い時間に悪かったね? じゃ、お休み~』

 カチャ。電話が切れるのを確認してから私も通話画面を切った。

 それから、よし! と自分に気合を入れる。

 ――私が働けないことでおじさんにはたくさん迷惑をかけちゃったし、明日は〝代理捜し〟がんばるぞ~!

 えいえいお~! ……とまではさすがに言わなかったけれど、宿題も終わって特にやることもなかったため、私は早めに寝てしまうことにした。

 三人くらい、すぐに見つかるよ。

 そんなことを考えながら。







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