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7-15 七話目終わり。




 ……あたしは、それ以上何も考えられなかった。

 当たり前だ。あーだこーだと考えに考えた挙げ句、最後には結局自分勝手なことばかり……あたしには、それ以上何かを考えたり、しゃべったりする資格なんて――


「――ごめんね、鏡さん」


 ――その時だった。

 ふいに放たれた〝変態〟の一言……それに思わずあたしは顔を上げてそちらの方を見ると、そこには何と……あたしに向かって〝頭を下げる〟〝変態〟の姿があったのだ。

「お、おい! お前……何で……!?」

 わけ分からずそう聞くと、〝変態〟はゆっくりと顔を上げ、その理由を話し始めた。

「……ボク、てっきり鏡さんが全部見てて、それでこの話をしてきたんだとばかり思ってたんだけど……違ったんだね。それなのにいきなりこんなことを話したりなんかして……ごめん。普通、鏡さんの〝親友〟の、愛梨さんとのことを、こんなに軽い口調で話したら……鏡さんじゃなくても、誰だって怒るよね?」

「あ……いや、その……」

 ……〝変態〟のことを騙して話を聴き出そうとしていたのは他でもない。あたしだ。つまり、悪いのはあたしだけ……それが痛いほどに分かっていたあたしは、〝変態〟のその言葉にも答えることができなかった。

 しかし、〝変態〟は……

「――だけど! いや、鏡さんが愛梨さんの〝親友〟だからこそ、聞いてほしいんだ!!」

「〝親友〟……だからこそ……???」

 あたしの胸の内にある考えを吹き飛ばすかのような大声。それに、逆に、まるで消え行くような小さな声で聞いたあたしに、〝変態〟は「うん!」と力強く答えた。

 そして――

「――実は、〝断った〟と言っても、それは〝今だけ〟の話なんだ……!!」

 ……え?

 声……すら出すことができなかった。

 〝変態〟はいったい、何の話をしようとしているんだ? ――あたしが無言のままその答えを待っていると、〝変態〟は一転。静かな口調で話し始めた。

「……鏡さんも知ってのとおり、ボクは〝変態〟だ。どこに行っても、誰と会っても、必ず指を差され続けている〝変態〟……それだけは、ボクがどんなに否定しても変えられない事実だ。――でも、それは〝今だけ〟でしょ? 時間はかかるかもしれないけれど、でも実際に、それこそ今日だって……ボクは〝変態〟から抜け出そうとして努力をしている。無論、これからもずっと、抜け出せるまで続けていくつもりさ」


 ――だからこそ、〝断った〟んだ。


 ――〝変態〟のその言葉を聴いた、瞬間だった。

 あたしは、〝変態〟が愛梨の〝告白〟を〝断った〟その理由を、全て理解した。


「――つまり、〝愛梨のため〟……か? お前は、〝愛梨のため〟に〝断った〟のか……?」


 うん。そういうことになるね。……〝変態〟は、ははは、と頭をかきながら話した。

「愛梨さんみたいなすっごい美人さんに〝告白〟なんかされちゃったら、ボクだってすぐにでもOKの返事を返したかったよ。でも、そこでもし、ボクがOKなんてしちゃったら……愛梨さんは間違いなく、〝変態〟であるボクの彼女、ということになっちゃうんだ。……愛梨さんは、自分の〝変態性〟……〝露出〟という〝変態〟から抜け出したいと思っている。それなのに〝変態〟の彼女になんか、させるわけにはいかないよ。――だから、ボクは〝断った〟んだ。当然、愛梨さんが納得してくれるように、この理由もちゃんと話して、ね……」

「……………………」

 …………ぷっ!


 あははははは!!!!!


 ――思わず飛び出た、あたしの突然の笑い声に、ビクッ! と〝変態〟は身体を少し跳び上がらせて反応した。そして、驚いた顔のまま聞いてくる。

「あ! えっと! ……ご、ごめん! ボク、また何か……!?」

「ははは! いや、そんなんじゃねーよ!」

 笑いながらの回答に〝変態〟は首を傾げ……いや、もう〝変態〟と呼ぶのはよそう。だって、あたしの〝親友〟、愛梨の〝答え〟は――

「おい! 〝泰介〟! 愛梨はお前のその返事を聞いて、こう言ってただろ?」


「『――じゃあ、〝変態〟から〝変態〟することができたら、改めて返事をくださいね!』」


「え……ええっ!? あれ!? 鏡さんって、最後まで見てなかったんじゃ……???」

「バカ野郎!」

 あたしは、驚く泰介をそのままに保健室の出口へと向かい、肩越しに振り向いて言い放った。


「――あたしを誰だと思ってる! 愛梨の〝親友〟だぞ! 愛梨が言いそうなセリフくらい、いくらでも予想できるっつーの!!」


 じゃあな! ――そう、未だに、ポカーン、とし続ける泰介に片手を挙げて別れのあいさつをしたあたしの心は、たぶん……


 〝告白〟を〝成功〟させた後の愛梨の心と同じように、晴れ晴れと澄みきっていた。





 #7,〝告白〟と〝変態〟。 終わり。




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