7-13
――放課後、保健室。ベッドの前。
一番言っちゃならねぇことを言い、一番やっちゃならねぇ行動をとった〝変態〟。
つまりは文字どおりの〝最〟〝悪〟を実現してしまったせいで、あたしたちにここに運び込まれ、昼休みから放課後の今の今に至るまで、ずっと目覚めることなくそこに寝ていたらしい〝変態〟の顔を、あたしは……正直に言おう。〝憎しみ〟を抱きながら、見下ろしていた。
……何? 〝憎しみ〟を抱く理由? ――そんなの、決まっている。
〝変態〟だからさ。こいつが……。
何度も言うようで悪いが、こいつの言動は、それそのものが〝変態〟だ。……そりゃあ、確かに評価できる点もなくはないが、それでもマイナス要素の方が強すぎる。
「……全く、何で愛梨はこんなやつ……おっと」
思わずこぼれてしまった愚痴を、あたしは慌てて口を閉じて止めた。それから、誰もいないことを確認してから入ったとはいえ、一応辺りを見回した。
……よし。まだ誰もきてないな?
ふぅ、と軽くため息を一つ……危ない危ない。あたしは今日掃除当番じゃなかったから、いち早くここにくることができたからよかったけれど、もし今の愚痴をみんなの……愛梨の前でなんかこぼしてしまったら……考えただけでも恐ろしい。
やれやれ。あたしは、そんなあたしの悩みを生み出している元凶を一度、再び見つめ、近くに置いてあった椅子に腰を下ろした。
……六限になっても戻ってこなかったから、あわよくば〝告白〟のことを誰もいないうちに聴いてしまおう、なんて思っていたんだが……この様子だと、とても無理そうだな。
……はぁ~……と今度は深いため息が出てしまう。
……聴くチャンスはこれからまだまだいっぱいあるのだろうが、実際、今日のことでよく分かった。……何が? とはもちろん、〝二人の様子を見て判断する〟。ということが、だ。
――当たり前だ。何せ、今日の部活の様子を見てさえ、あたしはその答えを導き出せていなかったのだ。今ですらほとんど前と変わらず〝自然〟であるのに、その上さらに時間なんて経ってしまったら……もはや〝手遅れ〟以外の何ものでもなくなってしまう。
「……つまり、あたしには最初から〝聴く〟という手段しかなかったわけか…………」
……って、また独り言を……だから、こんなの他のやつに聞かれたらどうするんだよ、あたし。もっと普段から気を引き締めてだな――
「……にを、聞く……の?」
「――ッッ!?」
ばっ!! 瞬間あたしは椅子から立ち上がり、声がした〝ベッド〟の方を見……
「……あ…………」
もぞもぞ、と……なんとタイミングの悪い。あたしの声で、寝ていた〝変態〟が目を覚ましてしまったのだ。
――いや、ちょっと待て。〝タイミングが悪い〟……だと!?
バカな! あたしは何を……今この場所には、あたしとこいつ以外、誰もいない状況だ。つまりは、タイミングが〝悪い〟、どころか、〝絶好〟のタイミング、と言っても過言ではなかったのだ!
「うぅ……あれ? ボクは今まで何をして……???」
と、そんなことを考えている内にも、〝変態〟が身体を起こし、本格的に目覚めてしまう。
――チャンスだ!! 改めてそう思い直したあたしは、まずは不審に思われないよう、〝変態〟の話に合わせて話した。
「……お前は、昼休みの最後に、『自分だけで〝実戦〟をクリアしてみせるよ』……とか言って走って行ったはいいが、その後女子生徒に向かって〝最悪〟の言動をしたせいでぶち殺され、ここに運び込まれたんだ。そのまま、今の今まで。放課後まで寝ていたんだよ」
……若干……聴く前に緊張でもしているのだろうか? 棒読みのような話し方になってしまったけれど……目覚めたばかりの〝変態〟にはこれで充分だったようだ。
〝変態〟は、ああ、そうか! と驚きの声を上げ、くっ! と頭を抱えた。
「そうだった……いったい何が悪かったのかは全然分からないけど……あの人たち、何もあんなことや、こんなことまでしなくてもよかったのに……!!」
いや、それは当然の結果だと思うが……って、それこそ何でツッコミだけは冷静なんだよ、あたし……。
まぁ、とりあえずはそんな感じだ。そう一言置いてから、あたしは続けた。
「で、愛梨たちはみんな掃除当番でまだきてなくて、当番じゃなかったあたし一人だけが先にここへきた、と……そんな感じだ」
なるほど、そうだったんだ……未だに、ぼー、っとするのか、〝変態〟はそう呟いた後は特に何も話さなかった。




