6-17
【視点・愛梨→〝泰介〟】
――四月二十三日、火曜日。体育館、ステージの上。
全校生徒が集まり、座って並ぶその目の前。
この日、ボクは〝自主的に退学〟することを決めた。
理由は、愛梨さんを〝脅し〟、無理やりあの動画を撮った上での〝強制的な部活への勧誘〟……その〝罪滅ぼし〟に、という名目だ。
……普段は、誰もボクの言葉なんか聞いてはくれないし、信じてもくれない……なのに……ははっ。こういう、〝悪いことを認めた〟時にだけ、みんなは素直にボクの言葉を信じてくれる……なんだかものすごく寂しい気持ちだ。
だけど、そのおかげで……愛梨さんがあんなにも知られたくないと思っていた〝秘密〟が、再び〝秘密〟として守られることになったのだ。
今、この瞬間だけは思う……ボクが〝変態でよかった〟と。……おかげで、ボクは〝護る〟ことができたのだ。〝大切な友だち〟を……〝愛梨さん〟を。
……ふと、しかし、やはりどうしても心残りというやつはあるものだ。ボクはステージから体育館の入り口を見てみたけど……未だ、愛梨さんの姿は見えなかった。
……いや、そもそも愛梨さんはくるのだろうか? 確かにボクは、ゆりちゃん先生に伝言を頼み、愛梨さんにここへきてくれるように頼んだけれど……それはあくまでも、最後に遠くから一目だけでもいいから、もう一度愛梨さんに会っておきたい……という、ただのわがままだ。それを、ボクのことを〝恨んでいる〟であろう愛梨さんが伝言で聞いたとしても、きてくれる可能性なんてゼロに等しい……期待するだけ無駄、と言っても過言ではない。
……とはいえ、やっぱり……きてくれなかったか。
はぁ……ボクは悲しみと共に、一度、誰にも気づかれないように小さなため息をつき、何となく、今度は天井を眺め見た。
……思えば、まだ四月だ。入学してからひと月も経ってはいない……そんな中で〝退学〟することになったボクのこのスピード……下手をしたら全国最速なのではないだろうか? そう思えるほどに、ボクの高校生生活は早々と終了してしまったのである。
だけど……すごく、〝楽しかった〟。ボクは心からそう思った。
登校初日から罰を受け、帰り道に愛梨さんと出会い、その〝秘密〟を知り、仲良くなったと思ったら鏡さんに殴られ蹴られて……それもようやく解決したかと思えば、今度は甲呀が部活だ何だと言い始め、そこにお姉ちゃんを説得して引き入れて、続けて部活の顧問獲得のためにゆりちゃん先生とテスト勝負……そして最後は未だ部活の途中。と……あれ? 何だか、かなり中途半端だな? まぁ、仕方がないといえば、そうなんだけれどね?
……うん。やっぱりだ。すごく、〝楽しかった〟。
総合的な時間で見れば、ほんの僅かな期間ではあったけれど……それでもボクは確かにそう感じることができたし、何よりも……短い時間の中で、とても〝濃い〟時間を過ごすことができた。そう、はっきりと言い切ることができたのだ。それだけでもボクは……すごく、うれしかった……。
『――という理由で、緒方くんは〝自主的に退学〟することを決め、また、反省の意志も強いということから、我々学校側としては小出さんの保護者と話し合い、できる限り穏便にこれからのことを決めたいと考えています。……その結果は、追って各クラスの担任の先生から話してもらうこととしますので、皆さんは今までどおり、安心して勉学に励んでください』
……っと。もうそろそろ話が終わっちゃうな。これで正真正銘、ボクの高校生生活は終わりか……どんなにきれいごとを言っても、やっぱり終わってしまうのは名残惜しいな。
『では、最後に、緒方くんから皆さんに向けて、謝罪をしたいということですので、皆さんはそのまま、静かに緒方くんの言葉を聞いてください……では、緒方くん』
「はい」
校長先生からマイクを受け取ったボクは、それから深呼吸を数回……しっかりと前を向いて話した。
『……皆さん、この度は大変な迷惑をかけてしまい、本当にすみませ――』
瞬間、だった。
「――待ってくださいっっっ!!!!!」
突然の、体育館中に響く大声……その声は体育館の入り口から聞こえ、そこには――!!
『〝愛梨さん〟!!?』




