6-15
――体育館の入り口。
「もうあんまり時間がない……! 先生は駐車場に車を停めてから行くから、小出さんは先に〝体育館〟に行って!」
家で急いで制服に着替えを済ませ、車に乗った私は……伊東先生の言葉を聞いて校門の前で車を降り、全速力でそこに向かった。
そこで目にしたのは、太郎くんたち……〝変態を迎える人生〟部のメンバーだった。
「――みんなっっ!」
はぁ! はぁ! 息を切らしながら、半ば叫ぶように私がみんなのことを呼ぶと、みんなは立ち止った私の前にすぐに集まった。それからすぐに太郎くんが話す。
「アイリサン……大師匠からすでに話は聞いているな? 今この奥でちょうど全校集会が開かれ、檀上で校長と共に泰介が話している……正直、状況は〝かなりマズイ〟」
「はぁ! はぁ! ……はいっ! もう聞いています! 泰介さんが…はぁ! 全責任を取って、〝自主退学〟するって……!! 何で……何で泰介さんはそんなことをっっ!!?」
「〝お前のため〟……だそうだ」
答えたのは、桜花だった。
桜花はそのまま、ふん! とため息をついて、腕組みをしながら続けた。
「あいつ、お前の〝秘密〟のことを……〝露出〟のことを、全部〝自分が脅してやらせた〟っていうことにして、そのまま学校を去るんだとよ……ま、あのバカにしちゃ中々いい考えじゃねーか。おかげで〝悪者はあいつ一人だけ〟になって、愛梨はただの〝被害者〟になったわけだ。これで何もかも〝元どおり〟……。愛梨はこれから何も気にすることなく普通に学校に通え――」
「――元どおりなんかじゃないよ! 泰介さん……泰介さんはどうなるの!? だって、そんなことにして退学なんてしたら、これからの、泰介さんの〝人生〟が……っっ!!」
「愛梨ちゃんっっ!!」
その時だった。突然、お姉さんが私に抱きついてきたのだ。
お姉さんはそれから、涙ながらに私に訴えかけた。
「〝助けて〟! 愛梨ちゃん……っっ! お姉ちゃんじゃもう、たいちゃんのことを止められないのっ! お姉ちゃんが何を言っても、たいちゃんは止まってくれない! ……だけど! 〝愛梨ちゃん〟なら……〝愛梨ちゃん〟なら〝止めることができる〟はずなの! 愛梨ちゃんがみんなの前で〝本当のこと〟を話してくれれば、たいちゃんは……!!」
「そんなことをしても無駄だ!」
桜花はお姉さんを私から引き離し、間に入ってその理由を説明した。
「たとえ愛梨が今、全生徒……先生たちの前で〝本当のこと〟を話したとしても、〝変態〟として名が知れ渡っているあいつのことを〝シロ〟だと思うようなやつは一人もいない……どころか、今まで休んでいた愛梨が急に出て行ってそんなことを話し始めれば、逆に……それこそ、〝それ自体〟。あいつがまた愛梨のことを〝脅して言わせた〟ことだと思われるのはもはや明白だ。……だから、愛梨。バカな考えは絶対に起こすなよ? いいじゃねーか! 本人がそれで〝いい〟! って言ってるんだから! ……これ以上、話をややこしくさせる必要なんてねーよ!」
「そんな……!! でも……!!」
「そんなのダメだよ!!」
お姉さんが再び叫んだ。
「そんなの絶対にダメ!! お願い、愛梨ちゃん!! 話すのがダメなら、とにかくたいちゃんを止めて! たいちゃんは愛梨ちゃんのことを、〝大切なお友だち〟って言ってたの! だから、そんな愛梨ちゃんがたいちゃんのことを説得すれば、〝退学〟だけは考え直してくれるかもしれな――」
「それも無駄だ!」
桜花はお姉さんの話を遮って話す。
「……いいか姉ちゃん? 仮に……仮にだぞ? たとえあいつが今、〝自主退学〟を取り消したとしても、だ。その後で絶対に……必ずだ! これだけ騒ぎを大きくさせた〝責任〟は取らされる! ――〝認めちまってる〟んだよ、あいつは! 事実がどうであろうと関係ねぇ! 今まさに、あいつは全員の前で〝認めた〟んだ! 〝自分がやりました〟ってな! ……だから、もう一度同じことを言うぞ? 無駄だ! やめろ! もうこれは誰にも止めることはできないんだ! 愛梨はただ、黙って騒ぎが収まるのを待っているしかないんだ!」
「そ……そん、な……!」
……桜花の言うとおりかもしれない、と思った。
泰介さんが私を〝脅した〟と〝認めた〟時点で、泰介さんを助けようと私が何を言っても、みんなはそれを信じてくれない……逆に、今よりももっと、泰介さんを〝悪者〟として押し上げてしまうことになってしまう……それでは本末転倒もいいところだ。
〝どうして〟……? と次の瞬間、私の中から〝後悔〟という感情があふれ出してきた。
どうして私はあの時……すぐに〝事実を認めなかった〟のだろう? 認めれば、確かに……私は〝変態〟として、みんなから冷たい目で見られたかもしれない。――だけど、桜花や、太郎くん。伊東先生やお姉さん……そして、誰よりも……〝泰介さん〟……こんなにも、私のことを〝真っ直ぐに見てくれる〟人たちがいたじゃない! それなのに私は、〝怖い〟だの何だのと……なんて私は、〝愚か〟だったのだろう……結局は私も、自分のことしか考えることはできなかったのだ!
泰介さんは、〝自分を犠牲〟にまでして〝私を助けようと〟してくれているのに……!!
「…………〝一つ〟だけ……」
――と、その時だった。太郎くんが、ゆっくりと口を開いた。
「たった〝一つ〟だけだ。現在の、何を言っても信じないであろう皆の心を信じさせ、泰介のことを〝助ける〟ことができる方法が、たった〝一つ〟だけ、存在する……」




