第91話 ついに出た●×命令
SさんとOさんがタイから帰ってきたあと、打ち合わせに現場に来ました。
まあ、現地で見てきたことをなんか話してたかもしれませんが、はっきり言って覚えていません。
私としてはむしろ、トムヤムクンはうまかったのかとか、現地の夜、なにをやっていたのかとかを事細かく聞きたかったのですが、その辺のお土産話は聞かされません。
ああ、俺も行きたかったなあ(純粋に仕事として)。
工場の雰囲気も知っておきたかったし(純粋に仕事として)。
ついでに夜も……(純粋に仕事として)。
「じつはおまえを連れて行かなかったのにはわけがある」
Sさんがなにやら唐突に語りはじめました。
そりゃ、あんたが行きたかったからじゃないのかい?
「だって、おまえ見てもしょうがないしな」
は?
「だっておまえに帰国命令出ちゃったもん」
「はあああ?」
「お施主さんにも話して、あいつ途中で帰国しますので、代わりに私が行きますっていったんだ」
オーナーすら知ってたのかよ、俺の帰国。
Oさんも知ってそうだし、知らなかったのは俺だけ?
正直、「ようやく帰れる。うれしい」っていう気持ちにぜんぜんなりません。
せめてこの現場終わるまではやらせろよ。
「この現場はどうなるんですか?」
まさかのK君大出世?
「新しいやつが来るから、引き継いでくれ」
聞くところによると、私よりもひとつかふたつ若いやつらしい。もちろん、海外勤務ははじめて。
けっ、そんなやつがいきなり来てプロジェクトマネージャー様ですかい。さすがはエリート様は違いますね。俺のように社内資格昇級が一年遅れるすちゃらか社員じゃないわけだ。(南野、ダークサイドに落ちてます)




