第88話 踊るクレーン車
クレーン車という建設機械は誰でも知っていると思われます。
いろいろタイプはあります。路上移動の運転席と、クレーンの操縦席が分かれているタイプ。いっしょのタイプ。あるいは大きさ、ブームの長さなど、いろいろ差があります。
とはいえ、基本はいっしょ。伸び縮みするクレーンがあり、倒れないように、左右前後、四カ所からアウトリガーという足を出して地面につくのはどれもいっしょです。
フィリピンにもありました。今の日本にあるような最新式のものではありませんでしたが……。
それでも鉄骨建方などのときには活躍する機械です。
私の現場にも新たに小さいやつが一大入ってきました。
建方に使うメインの機械ではなく、どちらかというと、加工する際に材料を振ったりするためのサブ機です。
エンジニアのひとりが、私に言ってきました。
「クレーン車がイマイチ調子悪いんですが、どう思います?」
そんなの俺に言われてもなあ、と思いつつ、見に行きました。
ちなみに私は機械屋ではないので、クレーン車の調子が悪くてもできることはありません。
エンジニアがなにやらクレーンのオペレーターに指示を出しました。
クレーン車が資材を釣りながら旋回します。
「ん?」
クレーン車が踊ってやがる。
ええ、ステップを踏みやがるんですよ。アウトリガーが。
早い話が、アウトリガーが浮いている。
「馬鹿、すぐ止めろ」
俺をクレーンを倒した男として新聞に載せるつもりかっ!
まあ、現実にはここでクレーンがひっくり返ったところで、私が新聞ネタになることはないでしょうが、オペが死んだら寝覚めが悪い。
「やっぱりだめですかね?」
「いいわけねえだろ!」
吊り荷の重さに対して、クレーン車が軽すぎです。
こんなことやってたら、いつか必ず転倒します。
あのさあ、逆に聞きたいけど、どう考えたら、これでもいいかもしれないって思えるんだ?
足場でも思ったけど、フィリピンの安全意識はまだまだだな。




